「東京オリンピックとIOC」を巡る議論で重要な視点は何か
今夏の東京オリンピック・パラリンピックの開催の可否について日本国内の世論が一致をみていないということは、周知の通りです。
オリンピックを「唯一の商売道具」としている国際オリンピック委員会(IOC)にとって大会の中止は折角の商品を自ら投げ捨てるようなものです。
しかも、東京大会については保険金によって損失を補填できるとしても、今後は保険料の高騰は不可避となりますし、現在米国NBCと締結している放映権料に関する契約も見直しを余儀なくされたり、契約の改定の際に放映権料の減額を迫られる可能性は低くありません。
収入の多くを放映権料に依存しているIOC[1]にとって、放映権料の減額は収益の構造に影響するだけでに留まりません。
IOCが収入のほとんどを各国のオリンピック委員会や各競技の国際競技連盟、あるいは夏と冬の大会組織委員会に分配していることを考えれば、現在の資金の流れの停滞は、関連諸機関の財政にも一定の影響を及ぼすことは容易に推察されます。
もちろん、資金の配分によって各機関を統制し、IOCの優位が揺るがない枠組みが存在することは問題を含むと言えるでしょう。
一方で、経済的な観点が東京オリンピックの開催の適否の議論に重要であるなら、IOCの収益と支出を精査し、資金の流れを的確に把握することも、有益な議論を行うために不可欠な試みとなります。
その意味で、IOCの「集金システム」は入念に描き出しながら、集められた資金の使途については十分な注意を張らなかったワシントン・ポストの論説文[2]などは、物事の一斑を明らかにしつつ、われわれが事柄の全貌に迫る機会を奪っていると言えます。
「IOCだから何を言ってもよい」ではなく、具体的で検証可能な情報に基づくことが、発展的な議論には不可欠なのです。
[1]The Ted Rogers School of Management in partnership with Global Athlete, Olympic Commercialization and
Player Compensation: A Review of Olympic Financial Reports. 19th December 2019, Global Athlete, pp. 12-13.
[2]Sally Jenkins, Japan should cut its losses and tell the IOC to take its Olympic pillage somewhere else. The Washington Post, 5th May 2021, https://www.washingtonpost.com/sports/2021/05/05/japan-ioc-olympic-contract/ (accessed on 25th May 2021).
<Executive Summary>
What Is an Important Viewpoint to discuss the Tokyo Olympics? (Yusuke Suzumura)
There are strong conflicts among people in Japan to hold the Tokyo Olympics or not. In this occasion we have to apply quantitative information concerned with the International Olympic Committee and other actors to achieve an exact answer.
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