政界の歴史から考える安倍前首相の「4つの進路」(1)
11月に入ってから、9月に退陣した安倍晋三前首相側が主催した「桜を見る会」の前夜祭を巡る問題について、与野党内で安倍氏に具体的な説明を求める声が高まっています[1]。
退陣後、11月11日(水)にポストコロナの経済政策を考える議員連盟を設立して会長に就任する[2]など、段階的に表舞台での活動を再開させていたものの、今回の出来事で求心力の低下は免れないところです。
ところで、8月の安倍首相の退陣表明に際し、私は政界の歴史から「政界から引退して国内外で活躍」、「立法府の長への転身」、「政権への再度の復帰」、「不祥事で影響力低下」の4つの可能性を検討した原稿を執筆しました。
この記事は公開の時期の問題から他の記事に差し替えとなったものの、退陣後の安倍首相のあるべき姿を考える上で何がしかの参考にはなろうかと思われます。
そこで、今回から3回に分けて、この記事を本欄でご紹介します。
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政界の歴史から考える安倍前首相の「4つの進路」
鈴村裕輔
安倍晋三首相が辞任したことは、国内外で大きな反響を呼び起こした。
各国の首脳が公式、非公式を問わず声明を発表したのは、国際社会における安倍首相の存在感の大きさを示すものであり、辞任の観測が流れたことで東京証券取引所の株価が乱高下したことも、「安倍首相辞任」が予定外の出来事であることを教える。
持病である潰瘍性胃腸炎の症状が悪化したことが進退に繋がっただけに、安倍首相には治療に努め、一日も早く復帰することが願われる。
それでは、体調を回復した後の安倍首相はどのような活動を行うだろうか。
様々な可能性がある中で、今回は、これまでの政界の歴史を参考にしつつ、「政界から引退して国内外で活躍」、「立法府の長への転身」、「政権への再度の復帰」、「不祥事で影響力低下」の4つの可能性について検討する。
1.政界から引退して国内外で活躍
第一次安倍内閣の先代である小泉純一郎首相は退陣後に行われた2009年の総選挙に出馬せず、政界を引退した。また、第一次安倍内閣を継いだ福田康夫首相も、2008年の辞任から1年後に行われた総選挙には出馬したものの、2012年の総選挙に立候補せず、政界から退いた。
「自民党をぶっ壊す」という言葉で国民の支持を集めただけに、首相退任後も「目白の闇将軍」「キングメーカー」として党内外に大きな影響力を発揮した田中角栄や、総裁人事を左右した中曽根康弘、竹下登といった歴代首相と同じ行動をとらなかったことで、小泉氏は今も一定の存在感を保っている。
辞任の記者会見で「私は自分自身を客観的に見ることができるんです。あなたとは違うんです。」と発言して国民の顰蹙を買った福田氏ではあったものの、客観的に物事を見られる特徴は、2009年に民主党政権が発足した際に鳩山由紀夫首相から助言を求められるなど、党派の違いを超えて一目置かれるものだった。また、政界引退後は日中関係の改善に努めたり、議員時代から推進していた公文書管理問題に積極的に関わるなど、元首相としての知見を活かした取り組みを行っている。
小泉氏も福田氏もともに派閥の領袖ではなく、子飼いの議員がほとんどいなかったため党運営を左右するだけの政治的な基盤がなかったことは、安倍首相と共通する。
さらに、2012年12月の第二次政権発足以来7年8か月にわたり首相を務めたことや「地球儀を俯瞰する外交」を標榜して各国を歴訪したことで、国際社会でも安倍首相の知名度は高い。
そのため、もし2021年10月までに行われる総選挙、もしくはその次の総選挙で政界を引退するとしても、安倍首相にとって重要な政治的な資産である対外的な名声を活かし、国際親善に寄与することは現実的な選択肢と言える。
また、安倍首相の祖父である岸信介元首相が創設した政策提言機関である協和協会は、現在会長職が空席となっている。
保守的な組織としても知られる協和協会などは、安倍首相の悲願とされる憲法改正問題に向けた世論の喚起のために国会外に活動の場を広げようするとき、重要な拠点となるだろう。
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[1]与党「安倍氏に説明責任」. 読売新聞, 2020年11月30日朝刊4面.
[2]「アベノミクス継続」訴え. 読売新聞, 2020年11月12日朝刊4面.
<Executive Summary>
Four Possible Futures for Ex-Prime Minister Shinzo Abe (I) (Yusuke Suzumura)
The "Cherry Blossom-Viewing Party Issue" which is concerning on Ex-Prime Minister Shinzo Abe is a hot topic in the Japanese politics. In this occasion I introduce a not published article in which we examine four possible futures for Mr. Abe.
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