公示日に際して衆議院総選挙の持つ意味を考える

衆議院の総選挙が公示されました。

小選挙区と比例区に1344人が立候補した今回の選挙は、いつものことながら公示日にどの程度まで選挙ポスター掲示板にポスターを貼れるかで、その候補の本気度と政党や政治団体の組織力をある程度まで測ることが出来ます。

すなわち、立候補の届け出を提出し、受理された直後からポスターを貼り始める候補者、午後になって貼り終える候補者、そして公示日が終わってもポスターを貼っていない候補者という区分は、ポスターを貼るだけの人員を手配できるか否か、あるいは有権者に少しでも自らの名前や主張を浸透させようとする意欲があるか否かを直感的に伝えるものです。

一方、今回の総選挙は石破茂首相が10月1日(火)の組閣から8日後の10月9日(水)に解散するという戦後最短の期間で迎えることになりました。

これは、一面において組閣直後の支持率の高い時期に総選挙を行うことで選挙戦を有利に進めるとともに有権者の審判を経ずに発足した政権の正統性を強調するための措置です。

また、他面において、昨年来正解の中心的な話題の一つとなっている、自民党の旧安倍派の議員を中心とする政治資金パーティーを巡る政治資金収支報告書への未記載問題に区切りをつける目的を有していることは論を俟ちません。

岸田文雄氏が今年9月の自民党総裁選への立候補を辞退し、首相を退任したのは、一見すると未記載問題の引責と思われるかもしれません。

しかし、実際にはこの問題を契機として党内の最大派閥である安倍派の勢力を削ぐとともに、自らが会長を務める宏池会の解散を決定することで派閥の解消の流れを作り出し、党内第4派閥であった宏池会という規定そのものを無意味なものにするという岸田首相による権力闘争が成功したことと引き換えの退陣でした。

もちろん、政治資金規正法に違反する行為は法の定める通りの処分を下されなければなりません。

また、今回の問題も国民の負託を受けた国会議員が違法行為あるいは脱法行為にかかわっていたという点で誠二りんの上で問題であることは疑いえないものです。

それでも、日本に住む人々の福祉と国家の利益の増進に直結する様々な課題以上に未記載問題が重要であるかと言えば、われわれは否定的にならざるをえません。

見方を変えるなら、野党各党にとって未記載問題は自民党を批判し、有権者の支持を獲得するための有利な出来事であると考えられるものの、実際にはより重要な内政や外交の諸問題に対する解決策の提示への努力を怠らせ、結果的に政権党としての能力を示す機会を失わせることになりかねないのです。

むしろ、自民党は野党がこの問題に関心を集める間に党内の傍流であった石破茂氏を総裁に選び、新総裁の下で問題に関わった議員たちを公認しないなど、自らの問題解決能力の一端を示すなど、選挙対策を着実に進めるとともに、2021年9月の総選挙以来の岸田政権の諸政策を挙げることで、政権党としての統治能力を誇示してきました。

総裁選と所信表明演説において石破氏が繰り返し岸田首相の功績を称揚してきたことは、自らを岸田政権の正統な後継者であると強調するとともに、子ども政策や外交などの岸田政権の成果を人々に想起させるためでもありました。

もとより選挙においては12日間という選挙期間はあまりに長いものであり、この間にいかなる出来事が起きるか、誰にも予想することはできません。

しかし、選挙期間中に予想されていない出来事が起きない限り、今回の総選挙は有権者の懲らしめとして自民党が現有議席を減らすものの、野党も広範な支持を獲得するための積極的な政策の提示や統治能力を示すことが出来ないために大幅な議席の増加を見込めず、自民党が単独過半数を維持するという結果になることが推察されます。

それだけに、今後の選挙期間の各候補者や各党の動向が大いに注目されるところです。

<Executive Summary>
What Is an Important Viewpoint to Examine the Meaning of the Japanese General Election of 2024? (Yusuke Suzumura)

The Japanese General Election of 2024 is announced today and there are 1344 candidates to run the campaign. On this occasion, we examine the meaning of the election.

いいなと思ったら応援しよう!