「1都3県の緊急事態宣言」が延長されない理由は何か
本日、首都圏の1都3県の緊急事態宣言について、菅義偉首相が予定通り3月21日(日)に解除することを表明しました[1]。
この表明は、感染者数の減少の速度が鈍化している現状や、緊急事態宣言の期間を延長して感染の拡大を封じる必要があると考えている政府の感染症対策分科会の専門家の見解[2]などを抑えた上での措置となります。
有権者が現在最も強く望む政策が新型コロナウイルス感染症対策であるとする菅首相の考え[3]に基づけば、早期の宣言解除よりも一層厳密な対策を講じる方が好ましいようにも思われます。
それにもかかわらず菅首相以下の政府首脳が予定通りの解除を表明した理由については、東京オリンピックの聖火リレーが3月25日(木)から始まることを考えれば不思議ではありません。
すなわち、聖火リレーが行われる中で開催都市である東京都が緊急事態宣言の対象となっていれば、「東京での開催は可能か?」と国内外から東京都でのオリンピック・パラリンピックの開催が疑問視されかねません。
しかも、現在の計画では、東京オリンピック・パラリンピックで外国からの観客を受け入れるか否か、あるいは受け入れるとしたらどの程度まで許容するかを日本政府が判断する期限は3月末となっています。
緊急事態宣言の下で外国からの観客を受け入れると判断すれば、国内世論の反発を招きかねません。
「新型コロナウイルス感染症のワクチンの接種が進み、感染の拡大を抑制し、東京オリンピックとパラリンピックを開催して支持率を回復し、大会後の総選挙に勝利して政権を維持し、2021年9月の総裁選挙で再選されること」は、菅首相にとって最も望ましい選択肢でしょう。
もし菅首相がこうした進路を選択するとすれば、最初の関門となる聖火リレーは何としても実現する必要があります。さらに、実施に際して新型コロナウイルス感染症の影響を可能な限り小さく見せることが重要となります。
従って、「東京オリンピック・パラリンピックの予定通りの開催」から逆算すると、首都圏の1都3県への緊急事態宣言が3月21日で解除されるのは、当局者にとっては不可避な選択であったということになるのです。
[1]緊急事態宣言、21日で全面解除 首相が表明. 日本経済新聞, 2021年3月17日, https://www.nikkei.com/article/DGXZQODE178G20X10C21A3000000/?n_cid=BMSR2P001_202103171913 (2021年3月17日閲覧).
[2]国会論戦の詳報. 読売新聞, 2021年3月16日朝刊16面.
[3]支持率 感染者数と連動. 日本経済新聞, 2021年3月16日朝刊4面.
<Executive Summary>
Why Does the Japanese Government Lift the State of Emergency for Four Prefectures? (Yusuke Suzumura)
Prime Minister Yoshihide Suga says that the Japanese Government lifts the State of Emergency for four prefectures. In this occasion we examine a reason of the policy.