望まれる「困窮学生への給付金」に留まらない「学生支援」

本日、政府は新型コロナウイルス感染症の拡大によって経済的に困窮する、大学の学部学生及び大学院生、短大生、高等専門学校生、日本語学校などに通う学生や留学生などを対象に、最大20万円を給付する学生支援緊急給付金の創設を閣議決定しました[1]。

原則として家庭から自立してアルバイトの収入で学費を賄う学生のうち収入が大幅に減った学生で、給付金額は10万円、住民税非課税世帯の学生にはさらに10万円が給付され、対象となるのは約43万人となります[1]。

文部科学省による令和元年度学校基本調査では、学部・大学院・専攻科・別科の学生等を含む大学の学生数は291万9千人[2]でした。

そのため、大学の学部学生と大学院生に限っても、今回の支援の対象は全在籍者の一部に留まることが分かります。

「学生支援緊急給付金」という名称からも、今回の措置が緊急的なものであり、そのために対象が幻影されることはやむを得ないと言えるでしょう。

今後は、今回の基準では対象とならなかったものの、「新型コロナウイルス問題」によって経済的に困窮する学生に対してどのような救済措置を講じるかが課題となります。

それとともに、新型コロナウイルス感染症がもたらした「危機が示したのは、命を守る分野の経済価値の高さだ。健康、食品、衛生、デジタル、物流、クリーンエネルギー、教育、文化、研究などが該当する」[3]という経済学者のジャック・アタリ氏が指摘するように、高等教育を含む各種の教育への支援が切れ目なく行われることが期待されます。

1946年の学制改革以来、日本の教育制度が手本としてきた米国は、「1980年代の「レーガン革命」以来の市場万能主義」[4]によって受益者負担論の立場から高等教育への公的な支援を縮減し、かえって格差の拡大と社会階層の固定化を助長しています。

それだけに、「新型コロナウイルス問題」がもたらした学生などの経済的な困窮化が教育における格差の拡大の問題に結びつくことを避けるための、積極的な工夫がなされることが望まれるところです。

[1]困窮学生に現金閣議決定. 日本経済新聞, 2020年5月19日夕刊3面.
[2]令和元年度学校基本調査(確定値)の公表について. 文部科学省, 2019年12月25日, https://www.mext.go.jp/content/20191220-mxt_chousa01-000003400_1.pdf (2020年5月19日閲覧).
[3]テクノロジーが権力に. 日本経済新聞, 2020年4月9日朝刊1面.
[4]宮田由紀夫, 米、縮む高等教育支援. 日本経済新聞, 2012年11月5日朝刊18面.

<Executive Summary>
Will the Japanese Government Be Able to Prevent an Outbreak of the COVID-19's Serious Damage to Education? (Yusuke Suzumura)

The Abe Administration decides to create a new scholarship to students including universities, colleges and technical college who are affected by serious economic damage by an outbreak of the COVID-19 on 19th May 2020. It is very remarkable policy not only for the students but also for national interests of Japan, since education is one of important cores of Japan's national power.

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