「ビッグモーター問題」はわれわれに何を教えるか
中古車販売大手のビッグモーターによる自動車保険金の不正請求問題は、創業者である兼重宏行社長の辞任や国土交通省による調査など、社会問題化しています。
「ワンマン社長」「オーナー経営者」による企業経営はしばしば迅速で大胆な意思決定を可能にする反面、しばしば所与の目的を達成するために法令よりも経営者の意向が優先されるという規範意識の低下を招きます。
今回の一件を経営の面から考えれば、「強すぎるリーダーシップ」と「強すぎるフォロワーシップ」によって、内部告発がなされるまで事態が放置されていたという、企業統治の様々なあり方を考える際の重要な教材の一つが得られたことになります。
また、兼重氏は今回の不正請求はあくまで各店舗で行われており、経営陣は報告を受けるまで実態を知らなかったとしています。これは、一面において自らを含む経営陣の責任を回避させようとする思惑を推察させるとともに、社員と経営陣の意思の疎通が円滑さを欠いていたことを推察させます。
一方、消費者や他の利害関係者の視点に立てば、企業の内部で行われる不正については、それが隠され続ける限りにおいて部外者にとって実態を把握することは容易ではないことを改めて教えることになります。
すなわち、上場企業であれば有価証券報告書や投資家向け広報によって定期的に企業運営の実態を公表し、われわれは各企業の動向をある程度まで理解することができます。
それでも、様々な不正や不祥事は後を絶たないことは周知の通りです。
従って、情報の開示の範囲が限定される非上場企業の場合は、たとえどのような不正がなされているとしてもそのような状況が隠され続ける限りにおいては、秘密は維持されることになります。
その意味で、今回は内部通報者によって真実が明らかになったのであり、こうした行動がなければ今も不正が続いていたことでしょう。
もちろん、新製品の開発など経営上の高度な秘密に属する事柄については秘匿されなければ企業間の競争に落後することになりません。
そのため、あらゆる秘密が不適切であるというわけではありません。
むしろ、法令法規に違反して不正な利益を得ていながら、そのような実態を隠蔽し、あたかも優良な企業であるかのように振る舞い消費者や利害関係者に誤解を与えるあり方が非難されるべきなのです。
このように考えれば、人々の耳目を集めているビッグモーターの不正問題は、われわれに企業経営のあり方や企業と消費者の間の情報の格差の問題などについて、重要な知見を与えます。
それだけに、今後、不正が行われるようになった経緯や組織的な関与の有無、さらには損保ジャパンからの出向者がどの程度まで事前に情報を把握していたのか、あるいは情報を把握していた場合に経営陣に対してどのような対応を行ったのかといった点が明らかになることは、消費者一人ひとりにとっても大きな意味を持つことになるのです。
<Executive Summary>
What Is an Important Viewpoint of the "BIGMOTOR Issues"? (Yusuke Suzumura)
The "BIGMOTOR Issues" become a social problem and the authorities take a hearing investigation. On this occasion we examine a meaning and important viewpoint of the Issues.