大谷翔平選手の「40本塁打40盗塁」の持つ意味は何か

現地時間の8月23日(金)に行われた大リーグのロサンゼルス・ドジャース対タンパベイ・レイズの試合で、大谷翔平選手が今季40盗塁と40本塁打を記録しました。

これで、大谷選手は大リーグ史上6人目の年間40本塁打40盗塁を達成しました。

大リーグの歴史を振り返ると、初めて30本塁打30盗塁を達成したのは、1922年のケン・ウィリアムズ選手であり、その後はウィリー・メイズ選手(1956年、1957年)、ハンク・アーロン選手(1963年)など球史に名を残す大打者が実現しています。

ただ、メイズやアーロンのように長打力と走力をともに備えた選手は希少でした。

同時代の長距離打者であり敏捷な動きで優れた外野の守備をみせたミッキー・マントル選手の最多の盗塁は21個でしたし、1960年から1965年まで盗塁王となったモーリー・ウィルス選手の最多本塁打は6本であったという点からは、長打力のある打者の走力は高くなく、走力のある選手の長打力は物足りないという一般的な傾向があったことが分かります。

一方、1970年代に入ると球場に人工芝を用いることが一般的となるとともに、新設球場の多くがアメリカン・フットボールとの兼用であったため規模が大きくなりました。

こうした状況を受けて、打球の転がりが早く、大きな球場という特性を活かす形で各球団が機動力を重視するようになり、打力と走力を兼ね備えた選手への注目の度合いが高くなってきました。

1969年に最初の30本塁打と30盗塁を達成したボビー・ボンズ選手が通算5回にわたってこの記録を残したことや、天才的選手とも称されたダリル・ストロベリー選手も1987年に実現したことなどは、野球のあり方の変化を示すものでした。

また、1988年にホセ・カンセコ選手が40本塁打と40盗塁を実現したことは、記録の点で新たな段階を迎えることになりました。

何故なら、大リーグにおいて40本塁打を記録することで初めて長距離打者として認められるだけに、打力と走力をより高い水準で有していると考えられたからです。

その後、バリー・ボンズ選手(1996年)、アレックス・ロドリゲス選手(1998年)、アルフォンソ・ソリアーノ選手(2006年)とほぼ10年ごとに記録が達成されたものの、直近の達成者であるロナルド・アクーニャ・ジュニア選手が登場したのが2023年であったことは、40本塁打と40盗塁という成績の希少性をさらに高めました。

この背景には、2000年代に入り統計野球学が発展し、盗塁が得点に寄与する価値が高くなく、失敗した際には相手にアウトを与える効率の悪い戦術であるという認識が広まったことがありました。

さらに2010年代からは、科学技術のさらなる進展によって、長打力のある選手がより効率的に本塁打を放つことを助けるいわゆるフライボール革命が始まりました。

これにより、大リーグでは戦術における本塁打の占める割合が高まり、盗塁の価値は一層低くなりました。ソリアーノ選手からアクーニャ・ジュニア選手まで17年間を要したのも、こうした事情がありました。

ただし、昨季から規則の改正によりベースの寸法を大きくしたことで塁間が縮まり、盗塁を行いやすくなりました。

すでに30本塁打と30盗塁を達成していたアクーニャ・ジュニア選手が40本塁打と40盗塁を達成したのが2023年であったのは、こうした規則の改正も影響していたと言えるでしょう。

そのような中で大谷翔平選手が史上最速で40本塁打と40盗塁を実現したことは、さらに次の段階である50本塁打と50盗塁の達成を期待させます。

大リーグにおいて真の長距離打者として認められる50本塁打を放ちつつ50盗塁を記録することは、単に最初の記録の達成者としてだけでなく、野球のさらなる質的な向上を加速させた存在として大谷翔平選手の名前を野球の歴史の中に記すことになるでしょう。

何より、このような期待を抱かせることそのものが大谷選手が従来の選手と異なる特徴を有していることを示しているのです。

<Executive Summary>
What Is the Meaning of Mr Shohei Ohtani's "40-40"? (Yusuke Suzumura)

Mr Shohei Ohtani of the Los Angeles Dodgers recorded 40 homeruns and 40 stolen bases in a season ad became the sixth player of the history of the MLB on 23rd August 2024. On this occasion, we examine the meaning of Mr Ohtani's achievement.

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