「国立科学博物館のクラウドファンディング」の問題は何か
昨日、国立科学博物館が標本の保管に必要な資金を集めるためのいわゆるクラウドファンディングを行い、開始から約9時間で目標の1億円を達成しました[1]。
入館料収入の減少や光熱費の高騰により標本の管理に支障をきたす事例が生じている一方で運営経費の合理化などの自助努力によっては対応が出来ないため、今回の措置に至り、無事に所期の目標額を集めました。
こうした様子は、一見すると人々の国立科学博物館への関心の高さを示しているかのようであり、好ましいものと思われます。
しかし、国立科学博物館は、文部科学省の外局である文化庁が所管する独立行政法人という、国の関与が限りなく制限される組織であるものの、独立採算を前提とせず、業務運営を行うための財源措置が必要となります。
そのため、業務運営を行うための財源措置である運営費交付金が国から交付されていることは、最終的に国立科学博物館の運営の責任は国が負うべきことを示しています。
それにもかかわらず現行の制度ではほとんど最後の手段というべきクラウドファンディングが行われたことは、今回は当面の問題を克服できるとしても、国立科学博物館を取り巻く状況は悪化することはあっても改善しないという点で、問題を先送りするだけに過ぎないと言えます。
こうした現実的な課題に比べれば、例えば手数料の問題などは些事にすぎません。何故なら、専用サービスを利用してクラウドファンディングを行うことは、利用を申請する時点で手数料が明示されるのであり、国立科学博物館側も手数料を含めた必要額を募集するからです。
むしろ、最後の手段を利用したことで、今後国立科学博物館が同様の状況に置かれた際にクラウドファンディングを行っても「またか」と人々が関心を示さず、目的額を集められないか、集められたとしても「『国立』なのに国は何をしているの?」と同館への信認が低下する可能性は否定できません。
今回の「成功」は悩ましいものであるとともに、自助が限界に達し、一種の共助というべきクラウドファンディングに頼ったことで、国の文化行政や科学技術行政が皮相的なものであることが示しました。
知識の集積所でありそこから新たな知見が生み出される場ともいうべき博物館が、たとえ「国立」であっても経営環境が厳しいということを人々に伝えたという点で今回の「クラウドファンディング」は社会的な意味を持つものの、問題の根本的な解決には国の本格的な支援が不可欠であることに変わりはありません。
それだけに、今後国がどのように国立の博物館や美術館と関わるか、これからの推移が注目されます。
[1]国立科学博物館1億円寄付募る. 日本経済新聞, 2023年8月8日朝刊34面.
<Executive Summary>
What Is the Problem of the National Museum of Nature and Science's Crowdfunding? (Yusuke Suzumura)
The National Museum of Nature and Science announces that they raise funds through crowdfunding on 7th August 2023. On this occasion, we examine the problem of the crowdfunding as the national organisation.