興味の尽きない池辺晋一郎さんの連載「私の履歴書」

今日、作曲家の池辺晋一郎さんが担当した2023年5月度の日本経済新聞の連載「私の履歴書」が最終回を迎えました。

池辺さんといえば作曲家としての活動に止まらず、テレビ番組やラジオ番組の司会者、各種施設の長など、多方面での活躍がよく知られています。

また、『N響アワー』や『N響ザ・レジェンド』などの番組ではその軽妙な語り口が広く支持されています。

私にとっても、池辺さんは1987年のNHK大河ドラマ『独眼竜政宗』で初めて接して以来、馴染み深い作曲家の一人です。

特に、私が東京都立青山高等学校に入学し、青山フィルハーモニー管弦楽団に入団すると、東京都立新宿高等学校の管弦楽団である新宿高校管弦楽部(SPO)の創設者が池辺さんであると知ると、その存在はひときわ親しいものとなりました。

今回の連載でも、都立新宿高校でSPOを創設した経緯や、自由闊達な校風の下で学業だけでなく学校行事や部活動、さらに創作や鑑賞などに励んだ様子が活き活きと描かれており、時代は異なるとはいえ、同じ都立高校の出身者として大変嬉しく読み進めました。

あるいは、池辺さんが新宿高校在学中に校長であったのが青山高校の初代校長で、その後現在の東京都立小石川高等学校となる旧制都立第五中学校長を務めた沢登哲一先生であり、在校生の自主性を涵養する方針に基づく学校運営を行っていた様子が紹介されるのを目にし、青山高校の卒業生として「旧制都立第十五中学校以降の沢登校長」の姿を確認できる貴重な機会となりました。

それとともに、幼少期から言葉に対して深い興味と関心を持っていたことが、その後の合唱曲や演劇、テレビドラマ、あるいは映画への付随音楽の作曲の際に役立ったことや「劇伴」と「付随音楽」の持つ意味合いの違い、さらには西欧の音楽でも前衛音楽でもなく、アジアや中東など世界各地の音楽への興味と造詣の深さなどは、音楽論としても大変興味深い内容でした。

「PCを使った作曲は楽譜の浄書には便利かもしれないし、若い世代の作曲家にとってPCでの作曲は当然のことながら、PCでの作曲を試したところ自分の中で音が鳴らなず、使用を断念した」という趣旨の記述は、作曲者と作曲のための媒体のあり方を知る上でも意義ある見解が示されたと言えるでしょう。

これに加えて、池内友次郎や三善晃、あるいは武満徹など、師事した作曲家や多大な影響を受けた音楽家との交流なども、日本の音楽史の発展の一側面を印象的に描出するものでした。

言葉への鋭敏な感性がだじゃれなどの言葉遊びに繋がったという微笑ましい説明や、最終回に反田恭平さんの委嘱によるピアノ協奏曲第4番を作曲中であるという重大な情報の紹介を含め、毎回が大いに読み応えのあるものでした。

それだけに、早期に単行本化され、池辺晋一郎さんの興味深いより多くの読者の手に届くことが期待されます。

<Executive Summary>
Shinichiro Ikebe and Half of His Life Seen from My Résumé (Yusuke Suzumura)

Professor Shinichiro Ikebe, a composer, writes My Résumé on the Nihon Keizai Shimbun from 1st to 31st May 2023.

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