こどもの日に考える日本の少子化対策の過去・現在・将来
今日はこどもの日です。
5月4日(土、祝)に総務省が発表した2024年4月1日時点の15歳未満の人口は1401万人となり、比較可能な1950年以降で最少となりました[1]。
岸田文雄政権は少子化対策を政権の重要政策の一つに掲げ、2023年4月1日にこども家庭庁を発足させるなど、「異次元の少子化対策」が単なる題目に留まらないかのような意欲を示しています。
その一方で、これまで行われてきた少子化対策が有効であるか否かは不明であり、現在の対策もただちに効果を上げるものではないことは、これまでの政策の成果を瞥見するだけでも明らかです。
それでは、これまでの少子化対策はどのように推移してきたのでしょうか。
日本の合計特殊出生率は1970年代から低下してきたものの、第2次ベビーブーム世代が結婚し、出産することで第3次ベビーブームが起きると思われていたため、事態は深刻に受け止められてきませんでした。
国民の間に少子化が広く認識されるようになったのは、合計特殊出生率が過去最低となる1.57を記録した1990年のことでした。
いわゆる「1.57ショック」を受け、政府は少子化対策を本格化させ、育児と仕事の両立が可能な社会の実現を目指すようになります。
しかし、第2次ベビーブーム世代に対して、総合的な少子化対策が講じられなかったとともに、1990年代以降の経雇用形態の多様化や経済成長の低迷という構造的な問題が生じます。
その結果、将来に対する見通しの不透明感が高まり、結婚そのものをためらう人たちが増加し、晩婚化や未婚化が進展します。
さらに、長らく少子化対策が必要とされながら、予算上は高齢者対策が優先的に行われてきたことも、少子化を加速させる政策的な要因となってきました。
例えば、社会保障給付費における児童家族関係費は、2013年は、高齢者関係給付費が75兆6000億円であり、児童家族関係給付費は5兆5000億円と、割合は14対1でした。
この数値は、2021年の高齢者関係給付費が83兆4322億円、児童家族関係給付費が13兆3556億円と6対1の割合にまで変化してきたことを考えれば、限りある予算を高齢者対策と児童家族関係との間で案分し、2つの項目を両立させるという発想に乏しかったことが分かります。
しかも、日本の少子化対策は、これまで「大卒、大都市、大企業」の働き手を対象とした育児と仕事の両立支援が中心であり、「大卒未満、中小・地方都市、中小企業」などは対象となりにくかったという実情があります。
しかしながら、日本の現状を見るなら、親と同居を続ける独身者が多く、結婚相手に恋愛感情より経済的な要素を強く求めるなど、子育てにおける親の責任は将来にわたって重いことが分かります。
そのため、欧米のような両立支援だけでは、少子化を食い止めるには至らなかったのでした。
もちろん、1990年代以来の諸政策により、保育サービスの拡充や育児休業制度の充実により、日本の子育ての環境は1990年以前に比べて飛躍的に改善されています。
それだけに、社会全体の経済規模を拡大し、分配を広げる中で、収入が不安定で増えないという人に対して結婚を決断させるか、そうした人と結婚しても問題ないと言える相手をどうやって増やしていくかが重要となります。
何より、日本社会の先行きへの悲観的な見方を打破することは、将来子どもを持つ決断をするために重要です。
その意味で、少子化対策は単なる出産や子育ての環境の整備や子育て世帯への財政的な援助だけに留まらない、これからの日本のあり方を定めるための総合的な政策の中心となるのであり、為政者の十分な理解と覚悟が求められるのです。
[1]子どもの人口 最少. 日本経済新聞, 2024年5月5日朝刊27面.
<Executive Summary>
The Past, Now and Future of Japan's Low Birthrate Countermeasures (Yusuke Suzumura)
The 5th May is the Children's Day of Japan. On this occasion, we examine the past, now and future of Japan's low birthrate countermeasures.