ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤーコンサート2025が示した現実の世界への貢献

昨日、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤーコンサートがウィーン楽友協会黄金の間で行われ、NHK FMの実況中継で鑑賞しました。

今回は2021年以来4年ぶり7度目の出演となったリッカルド・ムーティの指揮により、今年が生誕200周年となるヨハン・シュトラウス2世や、その父であるヨハン・シュトラウス1世、さらに初めて作品が取り上げられたコンスタンツェ・ガイガーらの17曲が演奏されました。

様々な作品が取り上げられてきたシュトラウス2世ながら、今回ポルカ・シュネル『あれか、これか!』が初めて演奏されたところに、その作曲活動の息の長さが実感されました。

また、ガイガーの『フェルディナンド・ワルツ』は劇的な序奏から優雅な円舞曲を経て華やかなしめくくりへと至る自由な構成で、日本においてはほとんど演奏されることのない、ほとんど忘れられた存在であるガイガーに注目が集まることを予想させるものでした。

一方、前回登場した2021年は新型コロナウイルス感染症の感染拡大という状況下での無観客での実施となったものの、恒例の新年のあいさつの後に演説を行い、各国の元首に対して文化はわれわれの将来の社会を支えるものであり、困難な状況の中でも支援を続けることの重要性を指摘したのがムーティです。

今年は、ドイツ語で出演者たちとともに新年のあいさつを行った後、"Nella mia lingua, l'italiano"(私の言葉であるイタリア語で)と前置きし"io auguro tre cose, pace, fratellanza e amore in tutto il mondo"(私は3つのことを願います、すなわち世界の平和、友愛の心、そして愛です)と述べました。

言うまでもなく、世界では大小さまざまな紛争が起きていますし、ニューイヤーコンサートが開かれたオーストリアでも排外的な政策を掲げる自由党が国民議会の第1党になるなど、社会の分断が進みつつあります。

そのような中で「世界の平和」「友愛の心」「愛」の3つを強調したことは、世界の平和の実現には相手を自らと異なる存在とするのではなく、同朋の意識、友愛の心によって接することが重要であり、そのためには他者への愛が根本となるという、ある意味で当然ながらいまだ達成されたことがない事柄を目標として掲げるという、意欲的であり挑戦的な心持を示したことになります。

もちろん、ムーティは実際の政治にかかわっておらず、その発言は芸術家の一言にすぎないかもしれません。

それでも、世界90か国以上で生放送され、世界で最も有名な交響管弦楽の公演の一つであるウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤーコンサートという機会をとらえて崇高な理念を説くことは、音楽が決して社会から隔絶された存在ではなく、むしろ社会の安定や世界の平和こそがよりよい創作活動と演奏活動につながることを強調します。

その意味で、新しい年の劈頭を飾り、しかも世界中で注目される演奏会において今回も芸術や音楽と日常生活のあり方を的確に指摘したムーティは、現在の指揮者界を代表する存在にふさわしい、高い自覚をもって公演に臨んだのです。

<Executive Summary>
The Vienna Philharmonic Orchestra's New Year Concert 2025 Shows Their Contribution to the World (Yusuke Suzumura)

The Vienna Philharmonic Orchestra held the New Year Concert 2025 with Riccardo Muti on 1st January 2025. They showed their important role in the world to promote and advance cultural activities under the era of the unstable society.

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