「情実人事のつけ払い」となった森喜朗氏による「軽率な発言」
昨日、日本オリンピック委員会(JOC)の臨時評議員会が開催され、東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長が「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります」[1]と発言し、本日「軽率な発言であった」と釈明しました[2]。
森会長の発言は以下の通りでした[1]。
これはテレビがあるからやりにくいんだが。女性理事を選ぶというのは、日本は文科省がうるさくいうんですよね。
だけど、女性がたくさん入っている理事会は、理事会の会議は時間がかかります。これは、ラグビー協会、今までの倍時間がかかる。女性がなんと10人くらいいるのか? 5人いるのか?女性っていうのは競争意識が強い。誰か1人が手をあげていうと、自分もいわなきゃいけないと思うんでしょうね。それでみんな発言されるんです。
結局、あんまりいうと、新聞に書かれますけど、悪口言った、とかなりますけど、女性を必ずしも数を増やしていく場合は、発言の時間をある程度、規制をしていかないとなかなか終わらないで困るといっておられた。だれが言ったとは言わないが。そんなこともあります。
私どもの組織委員会にも女性は何人いたっけ? 7人くらいか。7人くらいおりますが、みんなわきまえておられて。みんな競技団体からのご出身であり、国際的に大きな場所を踏んでおられる方々ばかりです。ですから、お話もシュッとして、的を射た、そういう我々は非常に役立っておりますが。次は女性を選ぼうと、そういうわけであります。
この発言を見れば、一般論として「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」とする一方、大会組織委員会については「競技団体からのご出身で国際的に大きな場所を踏んでおられる方々ばかり」であり、的を射た話をする有能な人物ばかりであるとして、女性の理事を肯定的に評価していることが分かります。
また、首相在任時の「神の国発言」や「無党派層は寝ていて発言」など、森氏はいわば目の前にいる人に受けようと話す性分を持ち合わせていると言えます。
今回の「軽率な発言」も、ある意味でそのような特徴によるもので、釈明の弁にもかかわらず森氏自身にとってはごく当たり前の発言であり、特に問題になると思われていないことが推察されます。
しかも、発言の際、一部の評議員から笑い声も起きたとされるため[2]、森氏にすれば手ごたえのある発言であったと言えるでしょう。
その一方で、たとえこれまで方言や失言を繰り返してきた森氏であるとしても、あらゆる発言が看過されうるものではないことは、論を俟ちません。
首相を経験したとはいえ、過去の不適切な発言やえひめ丸の沈没事故の際にゴルフを行っていたことなど、行政府の長として適切さを欠く言動によって任期の途中で辞任した森氏が、果たして東京オリンピックを対外的に代表する組織委員会会長にふさわしい人物であるかという点には疑問が残ろことは、本欄の指摘するところです[3]。
部外者である森氏の発言ということもあって、内容について特に批判を行わなかったJOCや評議員の対応も含め、「情実人事のつけ払い」はこうした場面でも明らかになっていると言えるでしょう。
[1]「女性がたくさん入っている会議は時間かかる」森喜朗氏. 朝日新聞デジタル, 2021年2月3日, https://www.asahi.com/articles/ASP235VY8P23UTQP011.html (2021年2月4日閲覧).
[2]森氏発言 海外メディア批判. 日本経済新聞, 2021年2月4日夕刊11面.
[3]鈴村裕輔, 「森喜朗東京五輪組織委会長」は適切な人選か. 2014年1月13日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/91af0b7f764924f8ceed53a39216ec2e?frame_id=435622 (2021年2月4日閲覧).
<Executive Summary>
What Is a Meaning of TOGOC President Yoshiro Mori's Speech? (Yusuke Suzumura)
Tokyo Olympic and Paralympic Games Organising Committee President Yoshiro Mori said women talk too much in meetings and suggested speaking time for women should be limited on 3rd February 2021. It seems an inadequate speech, since he ignores possibility and ability of women.