「高須院長による愛知県知事の解職運動の開始」は何を意味するか

本日、医師の高須克弥氏が愛知県名古屋市内で記者会見し、大村秀章愛知県知事の解職請求のために署名を集めることを表明しました[1]。

記者会見において、高須氏は昨年行われた芸術祭あいちトリエンナーレ2019の企画展「表現の不自由展・その後」について、「国、県民にとって恥ずかしいことをする知事は支持できない。判断を仰ぎたい」、「われわれの税金を出すのが許せない」などと述べました[1]。

これに対し、大村知事は今日の記者会見の中で解職請求の動きについて「コメントしない。一般論として法に触れない活動は自由だが、事実に基づけなければ誹謗中傷になる」と指摘しました[1]。

もとより、解職請求は法の定める有権者の権利の一つです[2]。そのため、高須氏が法の規定に従って解職請求運動を行うことは問題ありません。

一方、高須氏はTwitterなどを利用して署名を集めるとしているものの[1]、今年3月時点で約86万人分の有権者の署名を集めなければ解職請求の要件を満たすことは出来ません[2]。

また、現在、愛知県内で大村知事の執政に対して有権者の間から不満の声が澎湃として起きているならいざ知らず、解職を求める意見に乏しいのが実情です。しかも、、請求が所定の有権者の署名を集めて有効になったとしても、実際には住民投票によって解職の可否が問われることになります[3]。

従って、今回の高須氏の動きは解職請求の成立と住民投票による有効投票総数の過半数の獲得という2つの関門を乗り越えることが求められることになります。

もし、高須氏が住民投票において有効投票総数の過半数を獲得することを期すのであれば、長期的な取り組みなることを覚悟しなければなりません。

しかし、署名を集めるという地道な取り組みは自らが代表を務める政治団体に任せるため[1]、実際には高須氏は大村知事の解職の実現を目指しているのではなく、「表現の不自由展・その後」展について自らの主義主張と相容れない措置を行った大村知事に対するある種の意趣返しを行おうとしていることが示唆されます。

その意味で、高須氏や他の運動の主導者たちは、解職請求権を濫用しているとしても過言ではないかも知れませんし、運動は早晩消滅するかもしれません。

それでも、運動が継続されるなら、愛知県の有権者に問われるのは事柄の理非を弁別する能力ということが出来るでしょう。

[1]愛知知事の解職運動開始へ 高須院長、芸術祭巡り. 日本経済新聞, 2020年6月2日, https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59884510S0A600C2000000/ (2020年6月2日閲覧).
[2]地方自治法. 第81条第1項.
[3]地方自治法. 第81条第2項.

<Executive Summary>
How Should the Aichi Voters Act against a Recall Movement for Aichi Governor Hideaki Ohmura? (Yusuke Suzumura)

It is reported that Dr. Katsuya Takasu will start a racall movemnt for Aichi Governor Hideaki Ohmura on 2nd June 2020. In this occasion what is challenged for the Aichi voters is to performe an ability to discriminate to the movement, since it seems that Dr. Takasu seems tries to return of intention concerning on Aichi Triennale 2019.

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