NHK交響楽団第2019回定期公演
去る10月10日(水)、11日(木)にサントリーホールにおいてNHK交響楽団の第2019回定期公演が行われ、第1.日目の実況録音が10月31日(木)にNHK FMで放送されました。
今回は前半にシベリウスの交響詩『4つの伝説』から「トゥオネラの白鳥」とニルセンのクラリネット協奏曲、後半にベルトワルドの交響曲第4番「ナイーヴ」が演奏されました。クラリネット独奏は伊藤圭、指揮はヘルベルト・ブロムシュテットでした。
2022年以来となる来日公演の実現のためにゲルゲイ・マダラシュをカバーコンダクターとし、いわば万全の体制を敷いて臨んだのが2024年10月期のNHK交響楽団定期公演です。
これまで何らかの事情で指揮者が来日できない場合、急遽他の指揮者を代演に起用することはあっても、来日が不可の際の指揮者を事前に明記して定期公演を開催したことはありませんでした。
それだけに、体調不良のために来日できなかった昨年10月の出来事が楽団にとって重大な一件であり、入念な対策を施すことが不可欠であり、いざその時が訪れたとしても十分な台頭が可能であると判断された結果がカバーコンダクターの起用であったことが分かります。
こうした中でブロムシュテットが無事に日本を訪れ、公演が行われたことは、聞き手はもとより楽団にとっても安堵と歓喜を伴うものであったということが出来るでしょう。
それでは、実際の演奏はどうであったかと言えば、シベリウス、ニルセン、ベルワルドといういわゆる北欧の作曲家が並び、特にニルセンとベルワルドについては取り上げられる機会の少ない作品が選ばれたところに特徴がありました。
ブロムシュテットがNHK交響楽団に招聘された背景にはドレスデン国立歌劇場管弦楽団首席指揮者としての実績があり、ドイツの作曲家たちの音楽を最も得意とするNHK交響楽団にとって理想的な経歴を持つ存在であったことが挙げられます。
実際、ブロムシュテットはNHK響とベートーヴェンやブラームス、シューマン、シューベルトからブルックナーまで数多くのドイツの作曲家たちの作品を指揮し、サヴァリッシュ、スウィトナー、シュタインとともに常任指揮者が不在の時期の楽団の伝統の維持に貢献してきたのは周知の通りです。
その一方で特に2010年代に入ってからは北欧の作曲家をより積極的に取り上げるようになりました。
シベリウスやグリーグ以外は馴染みが薄く、かろうじてニルセンが演奏される程度のNHK交響楽団にとって、ブロムシュテットは米国の作曲家の作品を積極的に取り上げてきたローレンス・フォスターやレナード・スラットキンとともに、楽団の選曲の幅を広げてきた指揮者でもありました。
この日の公演は、あたかも北欧の音楽の定着に努めてきたブロムシュテットがこれまでの取り組みの集大成として行った感がありました。
ニルセンのクラリネット協奏曲は、独奏曲が多くないクラリネットにとって重要な1曲です。
しかし、取り上げられる頻度の少なさによる演奏経験の蓄積の不足は否みがたく、伴奏が格闘しつつ曲と向かい合う様子がよく伝わり、伊藤圭の独奏も音楽の勘所を押さえるというよりは旋律を取りこぼさないように努めていました。
独奏者の技量をよりよく活かそうと思えばモーツァルトかウェーバーなどが好適であったでしょう。それでも、今回ニルセンを取り上げたことは伊藤自身にとってもNHK交響楽団にとってもよりよい経験になったと言えます。
同様に、ベルワルドも、交響曲第3番「広がり」や第4番「不滅」が比較的頻繁に取り上げられるニルセンに比べ、存在そのものが知られているとはいえない作曲家だけに、定期公演で演奏することそのものが大きな意味を持ちました。
第1楽章の冒頭から集約力の高い旋律と緻密な構成によって進められるベルワルドの交響曲は十分な聞き応えがあり、今回の公演を契機として作品が定着することが期待されました。
シベリウスの内省的な一面がよく表れた「トゥオネラの白鳥」もあわせて、ブロムシュテットがNHK交響楽団と行ってきた北欧の音楽の紹介と普及の活動の今後のさらなる展開を待望させた、今回の公演でした。
<Executive Summary>
NHK Symphony Orchestra the 2019th Subscription Concert (Yusuke Suzumura)
The NHK Symphony Orchestra held the 2019th Subscription Concert at the Suntory Hall on 10th and 11th October 2024 and the record of the First Day was broadcast via NHK FM on 31st October. In this time, they performed Sibelius' The Swan of Tuonela, Nielsen's Clarinet Concert and Berwald's 4th Symphony. Solo clarinet was Kei Ito and conductor was Herbert Blomstedt.