防衛費増額問題で岸田文雄首相は「伝える力」を発揮できるか

岸田文雄首相が本格的に取り組むことを明らかにした、防衛費を段階的に国内総生産(GDP)の2%までに引き上げる方針について、自民党内では増税に慎重な意見が台頭しています[1]。

様々な意見が示されているものの、これらの背後には法人税だけでなく所得税を対象として増税することで、国民の反発を受け、来る国政選挙で落選することを懸念するという心理が作用していることは容易に推察されます。

確かに、「落選すればただの人」という政界の古言に従えば、与野党を問わず議席の維持に影響を与えかねない政策に慎重になることは無理からぬところです。

一方で、赤字国債により防衛費を増額することは、現在の世代には直接的な影響を負担とはならないかも知れないものの、将来の世代に負担を先送りすることに他なりません。すなわち、現在の日本の国防力を将来の世代の負担に頼って増強させるといういびつな形になります。

あるいは、国防力の増強のもたらす効果は現代の世代だけでなく、これからの世代にも及ぶから赤字国債での対応は可能であるという考えがあるとしても、赤字国債の発行によって日本の財政状況が悪化すれば、結果的に日本の国力を低下させ、防衛力そのものにも好ましくない影響を及ぼしかねません。

何より、国会議員が個利個略を優先して日本に住む人々と国家の利益を損なうことがあるなら、事柄の本と末を取り違えた倒錯的な態度であると言わざるを得ません。

それだけに、防衛費の増額を進める意欲を明示した岸田首相には、自民党総裁として自党の所属議員たちを説得し、赤字国債に頼らず、しかも安定的な財源を確保することが求められます。

同時に、日本の人々と国家の根幹にかかわる政策として、与野党の隔たりを超えた検討の促進とともに、国民的な議論の喚起を行うことが不可欠です。

「聞く力」を標榜しても「伝える力」には言及しない岸田首相にとって、これからはどのように伝えるべきことを伝えるか、その力量が試されます。

[1]増税に慎重論 自民で相次ぐ. 日本経済新聞, 2022年11月30日朝刊4面.

<Executive Summary>
How Can Prime Minister Fumio Kishida Solve the "Increase Defense Budget Issue"? (Yusuke Suzumura)

Prime Minister Fumio Kishida announced to increase Defense Budget to 25 of GDP on 28th November 2022. It is important for Prime Minister Kishida to solve the issue to enact the power of communication.

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