"Stand-up double"で思い出される西田善夫さんの逸話

去る5月13日(金)に読売新聞オンラインで公開された記事「「ドコカニイッテ」「ハヲミガク!」大谷翔平の大リーグ実況で謎の日本語絶叫、最近増えた2つの理由」が私の談話を基にしていることは、本欄でご紹介した通りです[1]。

記事の最後には私が推奨する、大リーグの現地の実況中継を聞く際に知っていると便利な表現も掲載されています。

その中の1つとして取り上げられているのが、"stand-up double"です。

直訳すれば「立った二塁打」となる"stand-up double"は、滑り込まず走って塁に到達できる二塁打のことで、余裕を持った当たりを意味します。

日本にこの表現を初めて本格的に紹介したのはNHKアナウンサーの西田善夫さんでした。

NHKが1977年から大リーグ中継を開始した際実況を務めたのが西田さんで、そのお話によれば現地からの放送を確認するとしばしば"stand-up double"という言い回しが用いられており、何が「立った二塁打」なのかと映像を確認すると、選手が滑り込まない二塁打の際に決まって発せられていることに気付いたとのことです。

ぜひともNHKの実況でも使いたいと思ったものの直訳調の「立った二塁打」では日本語として不自然と思った西田さんは、「悠々の二塁打です」「楽々と二塁に達しました」と、選手の様子に基づいて翻案したのでした。

"Stand-up double"も「悠々の二塁打」も、究極的には同じ現象を意味するものの、立っている状態を重視するのか、悠々と達した結果に塁上に立っているのかという視点の違いは興味深いもので、野球を初めオリンピックやテニスなど様々な競技で的確な実況を行ってきた西田さんの細やかな工夫が実感される逸話です。

そして、そうした由来を持つ"stand-up double"を紹介することが出来たのは、私としても実に喜ばしいことでありました。

[1]鈴村裕輔, 【記事掲載案内】「ドコカニイッテ」「ハヲミガク!」大谷翔平の大リーグ実況で謎の日本語絶叫、最近増えた2つの理由(読売新聞オンライン). 2022年5月30日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/77dbb51d8537eb8da47b4efdb33c17c5?frame_id=435622 (2022年6月2日閲覧).

<Executive Summary>
Miscellaneous Impressions for a Phrase "Stand-Up Double" (Yusuke Suzumura)

A story entitled with "Why Are Curious Japanese Expressions Used in MLB Play-by-Play Broadcasts?" is run on the Yomiuri Online on 13th May 2022. In this occasion I express miscellaneous impression for a phrase "stand-up double" which is used in MLB play-by-play broadcasts.

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