バイロイト音楽祭2024
去る12月23日(月)から本日まで、NHK FMで『バイロイト音楽祭2024』が放送されました。
今回は、今年のバイロイト音楽祭で上演された8作品のうち、バイエルン放送協会から音源が提供された7作品が紹介されました。解説は、『ニーベルングの指環』の4作品が広瀬大介先生、第5回から第7回が三澤洋史先生でした。
放送の初日となった12月23日の『ラインの黄金』は、トマシュ・コニエチュニのヴォータンが時折力を振り絞って歌唱する場面があったものの最後まで粘りを見せたことや、クリスタ・マイアのフリッカが伸びやかな歌声で持ち味を存分に発揮したことなどが印象深く思われました。
シモーネ・ヤングの指揮による演奏は安定感があり、しばしば歌手を待つだけの余裕も垣間見られたのは、「バイロイト初登場」という点を抜きにしてもヤングの練達ぶりがよく示されるものでした。
また、番組の後半でメゾ・ソプラノ歌手の池田香織さんを招いての広瀬大介先生との対話の中で飯守泰次郎さんのお話が繰り返し取り上げられたのは、改めて飯森さんの存在感の大きさを示すものでした。
第2日目の『ワルキューレ』は、フォスターのブリュンヒルデの堂々とした様子やヴォータン役のコニエチュニのやや癖のあるドイツ語の発音を気にさせない迫力のある歌唱などは、大変聞きごたえのあるものでした。
ヤングは第2幕の終わりの畳みかけるような音楽作りに、ワーグナーの作品の持つ重層性への配慮がよく表れるとともに、各地の歌劇場での活躍の様子が遺憾なく示されていました。
第3日目は『ジークフリート』で、クラウス・フロリアン・フォークトの伸びやかで張りのあるジークフリートとキャサリン・フォスターのきらめくブリュンヒルデの相性の良さが際立った公演でした。
特に第3幕の集中力の高さは最後まで聞き手の注意を集めて逸らしませんでしたし、バイロイト祝祭劇場の観客が幕が下りるのと同時に盛大な拍手を送るのもよく分かる充実した内容でした。
そして、『ニーベルングの指環』の最後の演目である『神々のたそがれ』は、フォークトのジークフリートの屹立した存在感は圧巻で、アルベリヒを演じたオウラヴル・シーグルザルソンやフォスターのブリュンヒルデも最後まで重厚さや繊細さを失わない仕上がりでした。
番組後半では今回の放送で2回目の登場となった池田香織さんが、ご自身の体験に基づき先人たちの教えをどのように次の世代に伝えるかという点から興味深いお話を披露され、こちらも前回と同様に聞きごたえのある内容となりました。
第5日目からは『ニーベルングの指環』4部作以外の作品の公演が放送されました。
まず、12月27日(金)は楽劇『トリスタンとイゾルデ』の回で、アンドレアス・シャーガーのトリスタンのきめ細やかな歌唱とカッミーラ・ニールントのイゾルデの情感豊かな様子はともに役に人を得たものでした。
セミヨン・ビシュコフの指揮も抑制された演奏の中に劇的な表情を随所に見せていたものの、中盤から終盤にかけて演奏者の集中力が途切れがちになったのは惜しまれるところでした。
この回から司会を担当された三澤洋史先生の、ご自身のバイロイト音楽祭での体験を交えた楷書のような解説はいつもながらに聞きごたえのあるものでした。
第6日目は歌劇『さまよえるオランダ人』で、オクサーナ・リーニフの手堅い指揮が作品を美しく整えていました。
ゲオルク・ツェッペンフェルトのダーラントとエリザベト・タイゲのゼンタは役に人を得た内容で、ミヒャエル・フォレのオランダ人が時折見せた気弱な様子をよく補い、作品を盛り立てました。
今年の特集の最後となった12月29日(日)の放送は歌劇『タンホイザー』で、クラウス・フロリアン・フォークトの生き生きとしたタンホイザー、ギュンター・グロイスベックの時に憂いを含んだ深みのあるヘルマン、エリザベト・タイゲの甘みのあるエリザベートと、聞きごたえのある仕上がりとなりました。
これに加えて、ナタリー・シュトゥッツマンの指揮は誠実で、この作品の持つ躍動感と劇的な性格をよく描き出していました。
今回のバイロイト音楽祭も濃密な公演が続くとともに、初のバイロイト祝祭劇場への登場となったシモーネ・ヤングの歌劇指揮者としての手腕の高さが改めて印象付けられるなど、得るところの大きい結果であったことがよく分かる内容となりました。
それだけに、今から来年の放送が大いに楽しみなところです。
<Executive Summary>
NHK FM's Programme "The Bayreuth Festival 2024" (Yusuke Suzumura)
The NHK FM broadcast a featured programme "The Bayreuth Festival 2024" on 23rd through 29th December 2024. In this time seven works including The Ring of the Nibelung were performed.