「いま届けたい希望の第9」と「音楽になにができますか」で思ったいくつかのこと

昨日は、21時から23時までNHK教育テレビで『クラシック音楽館』を視聴しました。

今回は、前半に2011年4月10日(日)に東京文化会館で行われたNHK交響楽団による慈善演奏会、後半に仙台フィルハーモニー管弦楽団による復興コンサートを記録したドキュメント『音楽になにができますか』が放送されました。

NHK響による慈善演奏会は、ズービン・メータさんの指揮により、ベートーヴェンの交響曲第9番『合唱付き』とバッハの管弦楽組曲第3番より「アリア」が演奏されました。

メータさんが、東日本大震災の際にフィレンツェ歌劇場とともに来日していたものの、遭難によって公演の予定を途中で打ち切って離日することを余儀なくされ、1か月後に単身来日して演奏に臨んだのは、広く知られるところです。

2011年3月14日(月)に東京文化会館で行われたヴェルディの歌劇『運命の力』の上演後、メータさんは次のような所感を述べています[1]。

日本人もイタリア人も私も、そこにいる全員が最悪の事態を共有していた。私たち音楽家は深い祈りをこめ、最高の演奏を提供するのが使命だ。

こうしたメータさんの発言を踏まえて改めて番組を観ると、2011年4月17日(日)の初放送以来繰り返し再放送されている理由も自ずから明らかになると言えるでしょう。

一方、仙台フィルハーモニー管弦楽団の復興コンサートを記録したドキュメント『音楽になにができますか』では、コンサートマスターの神谷未穂さんや首席オーボエ奏者の西沢澄博さん、あるいはステージマネージャーの大久保斉象さんなどの談話を通して、困難な状況の下で音楽活動を維持するための取り組みの重要さが実感されました。

何より、番組の冒頭でも紹介されていたように、「被災地の楽団」である仙台フィルは、団員や事務局員など楽団関係者も同時に被災者であり、被災者が音楽を通して他の被害者に寄り添うという構図は、われわれが思うよりも物理的にも精神的にも負荷を伴うものであったことでしょう。

このような構図は、被災した自治体の職員も多くの場合被災者であったという、しばしば見落としがちな視点をわれわれに与えるものでもあります。

「千年に一度」とも言われた東日本大震災の直後という困難な時期に音楽の灯を絶やさなかった仙台フィルの関係各位の努力が記録され、今日も確認できることが、改めてありがたく思われます。

同様の取り組みは交響管弦楽の分野以外にもあったであろうものの、今回こうして番組が再放送されたことは、「新型コロナウイルス問題」によって種々の文化活動が停止ないし停滞を余儀なくされている現下の状況に鑑みても時宜を得たものであり、意義深いものと感じられたところです。

[1]芸術の力信じる. 日本経済新聞, 2011年3月20日朝刊24面.

<Executive Summary>
Miscellaneous Impressions of NHK Educational TV "Classic Ongaku-kan" (Yusuke Suzumura)

The NHK Educational TV broadcasted Classic Ongaku-kan (literally Music Hall for Classical Music) on 14th June 2020. In this time the NHK Symphony Orchestra's charity concert for the Great East Japan Earthquake held on 10th April 2011 and activities by the Sendai Philharmonic Orchestra to hold the concert after the disaster were contents of the programme.

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