「9月入学問題」の議論の出発点として考える「学校と会計年度の関係」

昨日、衆議院予算委員会において、安倍晋三首相が新型コロナウイルス感染症の拡大を踏まえ、学校の始業や入学の時期を9月に移行させることを検討する意向を示しました[1]。

新型コロナウイルス感染症の拡大への対策として学校の始業や入学の時期を9月に移行させることがどこまで有効であるかは定かではありません。しかも、今年9月に実施する場合には、それまでに「新型コロナウイルス問題」の終息が前提となるだけに、先行きが不明であるという現状からすれば、「9月入学を行うために実情を隠蔽する」という可能性も捨てきれません。

その意味で、「9月入学」の早期の実施は、導入を主唱する国民民主党の玉木雄一郎代表による「省令改正でできる」という指摘[2]というほどには容易に進められるものではないと言えるでしょう。

一方で、日本における学校の始業や入学の時期の変遷を概観すると、「4月始まり」が不動のものではないことが分かります。

例えば、江戸時代の寺子屋や明治時代初期には、入学や進級の時期について明確な規定はありませんでした。また、入学も進級も個人の能力次第であり、学校や地域によっても違いがありました。

しかし、1872(明治5)年に定められた学制は既存の仕組みの不統一なあり方を改めることを目的としており、手本としたフランスや英独などの制度に倣い、「一斉入学、一斉卒業」が導入されました。

当初は欧米各国に倣って9月の入学が主流であったものが4月の入学へと移行したのは、1886(明治19)年から会計年度が「4月始まり」に改められことに由来します[3]。

すなわち、会計年度が初めて制度化された1869(明治2)年は「10月始まり」、西暦を採用した1873(明治6)年からは「1月始まり」、1875(明治8)年からは地租の納期に合わせるという目的で「7月始まり」に変更されています。

1886年の変更は軍事費の増加による収支の悪化により、当時の大蔵卿松方正義が任期中の赤字を削減するために会計年度を変更したことによります。

陸軍士官学校や海軍兵学校などの軍関係の学校が会計年度の変更に合わせて学年の開始の時期を4月に改め、その後一般の学校に対しても文部省が学校年度を4月からの開始に改めるように積極的に指導を行い、「4月入学」が一般化しました[4]。

また、大学については、帝国大学が1921(大正10)年に入学の時期を4月に改めたことを契機として、4月始まりが学校年度として定着することになりました。

このように考えれば、学校の始業や入学の時期は国や自治体の会計年度と不可分に変化してきたことが分かります。

「9月入学」の議論の基礎として、改めて学校と会計年度の関係を概観した次第です。

[1]9月入学検討表明. 日本経済新聞, 2020年4月30日朝刊1面.
[2]9月入学、首相が検討表明. 日本経済新聞, 2020年4月29日, https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58621150Z20C20A4000000/?fbclid=IwAR1f4dQ3eluKm2KmCCDuuXJhJr8JidEsaTWns6XADlRsizQodvopA-JY90U (2020年4月30日閲覧).
[3]柏崎敏義, 会計年度と財政立憲主義の可能性―松方正義の決断. 法律論叢, 83(2/3): 97-133, 2011.
[4]日本の学校はなぜ4月に新しい学年がスタートするのか? 諸外国はどうか?. 基礎研レター, 2019年5月7日号: 1-5, 2019.

<Executive Summary>
Relationships between the Academic Year and the Fiscal Year in Japan: As a Basement of a Discussion of the "Autumn Entrance Issue" (Yusuke Suzumura)

Now the "Autumn Entrance Issue" is a latest topic in Japan as a measure against an outbreak of the COVID-19. On this occasion we examine relationships between the academic year and the fiscal year in Japan as a basement of a discussion.

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