「7日間ブックカバーチャレンジ」を振り返る(1)
去る4月28日(火)から5月4日(月)まで、評論家の小林淳さんからのご指名で「7日間ブックカバーチャレンジ」に参加しました。
期間中、私は7日間で合計8冊を取り上げました。そこで、本欄では今回から3回に分けて、取り上げた本と寸評をご紹介します。
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(1)第1回目(2020年4月28日[火])
第1回目は、小林さんから「野球史研究家」としてご指名いただいたこともあり、ジョージ・プリンプトン(訳:芝山幹郎)の『遠くからきた大リーガー』(原題:The Curious Case of Sidd Finch、文藝春秋、1995年)をご紹介します。
史上最速となる時速168マイル(270キロ)の速球を投げ、デニス・ブレインのホルンの演奏を愛聴するイギリス人シド・フィンチの活躍と意外な結末を、シドのよき理解者であるロバート・テンプルの視点を通し、1985年のニューヨーク・メッツを舞台として描くのが本作です。
「体験的ジャーナリズム」の旗手として活躍していたプリンプトンが細部まで彫琢した物語を芝山さんの的確な翻訳が引き立てる本作は、野球小説の傑作のひとつと言えるでしょう。
(2)第2回目(2020年4月29日[水])
「7日間ブックカバーチャレンジ」の第2日目に紹介するのは、芥川也寸志の『音楽の基礎』(岩波書店、1971年)です。
1992年4月に青山高校の図書室で初めて手にして以来、今に至るまで、本書は文字通り私の座右にあります。
平易で簡潔な文章により、理論だけでなく、文化的、歴史的、さらには科学的な側面から音楽のあり方を説く本書からは、いつ読んでも読むたびに新しい刺激と知見を得ています。
来年で刊行から50周年を迎える『音楽の基礎』は、私にとって他の類書の追随を許さない、最良の書の一つです。
(3)第3回目(2020年4月30日[木])
「7日間ブックカバーチャレンジ」の第3日目に取り上げるのは、ネヴィル・シュートの小説『渚にて』(原題:On The Beach、翻訳:佐藤龍雄、東京創元社、2009年)です。
本書の背景をなすのは、偶然から始まった第三次世界大戦によって約4700発の核爆弾が用いられた北半球が全滅し、南半球にも徐々に放射性物質の飛散の影響が及ぶ、という状況です。
そのような中で、最後に残された「文化国家」オーストラリアを舞台に、米国の原子力潜水艦スコーピオンの艦長ドワイト・タワーズ大佐や豪海軍のピーター・ホームズ少佐、あるいはホームズ少佐の旧知のモイラ・ディッドソンなどの人々が、来るべき「最期の日」に向けてそれぞれの立場からそれぞれの道を歩む様子は、悲壮さを超えて荘厳でさえあります。
私が本書を買い求めたのは、オリバー・ストーンとピーター・クズニックの"The Untold History of the United States" (Gallery Books, 2012)の中で言及されていたためで、読んだ当初は1957年に執筆された頃の冷戦という構図だからこそ成り立つという側面と、危機に際しても最後まで日常生活を維持しようとする登場人物たちのある種の健気さが印象的でした。
「人類最後の日」という設定が空想のように思われていた今だからこそ、改めて読み進めたい一冊ではあります。
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<Executive Summary>
The 7 Days "Book Cover Challenge" (1) (Yusuke Suzumura)
I participated with The 7 Days "Book Cover Challenge" on 28th April through 4th May 2020. On this occasion I introduce my selection to the readers of the weblog for three times.
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