【評伝】ジェームズ・レヴァインさん--自らの芸術の大成の機会を失った米国歌劇界の象徴
去る3月9日(火)、指揮者のジェームズ・レヴァインさんが逝去しました。享年77歳でした。
レヴァインさんといえば1971年に初めて指揮をしたメトロポリタン歌劇場との関係が最も広く知られています。
首席指揮者、音楽監督、芸術監督を歴任し、合計2,552回の公演を行ったのが、レヴァインさんでした。
その結果、大都市ニューヨークに拠点を置き、名声は高かったものの実力の点では物足りなさが残ったメトロポリタン歌劇場を米国最大の歌劇場に育てるとともに、上演可能な演目という点でも世界屈指の存在に仕立てました。
メトロポリタン歌劇場におけるレヴァインの事績は、米国の歌劇史上に残る大きな足跡でした。
特に、譜面の的確な理解に基づいて作品を明晰に理解し、作品を見通しよく上演する手腕は他の追随を許さず、レヴァインさんが長くメトロポリタン歌劇場を率いる理由の一つでもあったと言えます。
交響管弦楽の分野ではミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団とボストン交響楽団の音楽監督を務め、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団やウィーン・フィルハーモニー管弦楽団にも定期的に客演するなど、幅広く活躍しました。
一方、円熟期を迎えるはずであった2000年代半ばからは健康問題によって活動が制約されるとともに2018年には醜聞によりメトロポリタン歌劇場から解雇されるなど、晩年は自らの芸術を完成させることが難しくなったのも事実です。
何より10代の少年への性的虐待問題はレヴァインさんの社会的な名声を損ない、世界の音楽界にとっても見過ごすことのできない不祥事となりました。
個人の人間性と芸術的な活動との間には明らかな関連はないとしても、20世紀後半を代表する大指揮者の活動の幕引きとしては残念な結果となったことは疑い得ないところです。
いずれにせよ、当代屈指の音楽家の長逝に、改めてご冥福をお祈り申し上げます。
<Executive Summary>
Critical Biography: Mr. James Levine, An Icon of the American Opera with a Scandal over Allegations of Sexual Improprieties (Yusuke Suzumura)
Mr. James Levine, the Former Music Director of the Metropolitan Opera, had passed away at the age of 77 on 9th March 2021. Mr. Levine is one of remarkable conductor for the history of American opera, however his career ended in a scandal over allegations of sexual improprieties.
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