安倍晋三元首相は「キングメーカー」となり得るか
今日、自民党細田派は総会を開き、安倍晋三元首相が派に復帰することと会長への就任を全会一致で承認し、細田派は新たに安倍派となりました[1]。
2012年12月に第2次政権を担当する際に離脱して以来、安倍元首相が約9年ぶりに派閥に復帰し会長となったことについては、自民党内に「キングメーカーを目指すのだろう」という見方もあります[2]。
確かに、今年9月の自民党総裁選挙では自らが支持を表明した高市早苗氏のために集票活動を行い、当時の細田派を中心に支援を取り付けるなど、存在感を発揮しました。
その意味で、今後も党内最大派閥を背景に、安倍元首相が総裁選や閣僚ないし党役員の人事で影響力を行使しようと考えているとしても不思議ではありません。
あるいは、岸田文雄首相が従来の「政高党低」と呼ばれた状態を改め、「党高政低」ないし「政高党高」を志向することを考えれば、派閥の領袖として党の運営に関与する方が得策と判断するのは当然です。
ただし、かつての田中角栄元首相のように「闇将軍」と呼ばれるまで徹底した「キングメーカー」になるためには、自らが再び政権の座に復帰するという欲心を捨て去る必要があります。
何故なら、「キングメーカー」がその力を最大限発揮できるのは自分には頂点の座を手にする意思も意欲も持たいうえに、自派からは総裁候補を出さずに他派や無派閥の人物を擁立して当選させる場合だからです。
一方、安倍派、すなわち清和政策研究会の前身である清話会を創設した福田赳夫元首相は1978年に首相の座を退いた後も復権を画策し、最後は1982年10月の鈴木善幸首相の後継者争いで総理と総裁を別の人物が務める「総総分離」を提唱して「中曽根康弘総理、福田赳夫総裁」を目指したほどでした。
また、安倍元首相が政権運営や政策の立案の上で絶えず参考にしてきた岸信介元首相も、1960年7月の退陣後に政権への復帰の意欲を捨てておらず、1964年11月に池田勇人首相が退陣した際に再度の組閣を企図しました。
これに加えて、他の候補者を支援するばかりでは派の求心力を維持し続けることは容易ではありません。
「一致団結箱弁当」と称された田中派が竹下派へと代替わりしたのも、田中元首相のロッキード問題もさることながら、他の候補者を擁立するばかりでは今後の展望が開けないと感じた中堅、若手議員の懸念が少なからず作用した結果でした。
このように考えれば、安倍元首相が「キングメーカー」となるために解決すべき課題は決して少なくないのです。
[1]安倍元首相 自民の出身派閥に復帰 「安倍派」会長に就任. NHK NEWS WEB, 2021年11月11日, https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211111/k10013343761000.html (2021年11月11日).
[2]安倍派が誕生へ. 毎日新聞, 2021年11月9日朝刊2面.
<Executive Summary>
Will Former Prime Minister Shinzo Abe Be the True "Kingmaker"? (Yusuke Suzumura)
Today Former Prime Minister Shinzo Abe is selected as the new Head of the Seiwa Political Analysis Council and the Hosoda Faction becomes the Abe Faction. In this occasion we examine some elements with which Mr. Abe will be the true "Kingmaker".
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