【追悼文】西郷輝彦さんについて思い出すいくつかのこと

去る2月20日(日)、歌手で俳優の西郷輝彦さんが逝去しました。享年75歳でした。

西郷さんというと1966年の主演映画『星のフラメンコ』で歌唱した同名の歌謡曲『星のフラメンコ』が代表作で、橋幸夫さん、舟木一夫さんと「御三家」として歌謡界を牽引したことで広く知られます。

また、俳優として『江戸を斬る』の連作から『警部補佃次郎』などのいわゆる2時間ドラマの主演、あるいは『屋根の上のヴァイオリン弾き』といった舞台劇への出演や『アップダウンクイズ』などのバラエティー番組の司会や出演など歌手の枠に留まらず、幅広い活動を行ったことも周知の通りです。

私が西郷さんをはじめて自覚的に眺めたのは再放送で視聴した『江戸を斬る』でした。

同じ遠山金四郎が主人公ながら、中村梅之助や杉良太郎らで親しんだ『遠山の金さん』の開放的な雰囲気とは異なる、どことはなしに愁いを帯び、どちらかと言えば内省的な印象さえ受ける『江戸を斬る』は興味深く、毎回の放送を見ながら、再放送ではなく、新作は作られないのかと思ったものです。

さらに、西郷さんが演じた役柄で最も印象深いのは、NHK大河ドラマ『独眼竜政宗』(1987年)での片倉小十郎です。

会津攻めの場面で片倉小十郎を演じた西郷さんが「成算もなく猪突猛進するは、これ匹夫の勇に非ずして何ぞや」と渡辺謙さん演じる伊達政宗を諫めた場面は、とりわけ今も思い出されます。

撮影した位置の関係もあったであろうものの、偉丈夫である渡辺さんを大きくしのぐかのような西郷さんの雰囲気には、俳優としての力量の高さを実感したものでした。

そして、この日の放送が終わると、その当時利用していた松村明らの編纂した『旺文社国語辞典』改訂新版(旺文社、1986年)ですぐに「ひっぷ」、「ひっぷのゆう」を調べて語義を確認したのも、今では懐かしい思い出です。

ところで、『星のフラメンコ』は、映画を鑑賞した後に耳を傾けるとひときわ印象的で、2月14日(月)にNHK FMが放送した『歌謡スクランブル』の「浜口庫之助作品集」で『星娘』(1965年)とともに紹介された際には、改めて興味深く聴取したものでした。

60年近くにわたり芸能界の第一線で活躍した西郷さんのご冥福を、改めてお祈りします。

<Executive Summary>

Miscellaneous Memories of Teruhiko Saigo (Yusuke Suzumura)

Mr. Teruhiko Saigo, a singer and an actor, had passed away at the age of 75 on 20th February 2022. In this occasion I remember miscellaneous memories of Mr. Saigo.

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