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大国主と八十神

無事、八上比売ヤガミヒメと結婚できた大穴牟遅オオナムチ(後の大国主)ですが、さし置かれた兄弟(八十神ヤソガミ)は更なる嫌がらせを行います。

焼き殺されるオオナムチ

八十神は、オオナムチを殺すために山へ猪狩りに誘います。

「赤き猪此の山に在り。故、和礼共に追ひ下しなば、汝待ち取れ。若し待ち取らずば、必ず汝を殺さむ。」と云ひて、火を以ちて猪に似たる大石を焼きて、転ばし落しき。爾に追ひ下すを取る時、即ち其の石に焼き著かえて死にき。

古事記

意訳:「赤い猪がこの山にいる。我々が追い詰めるから、下で待ち伏せして捕らえろ。もし捕まえないなら、必ずお前を殺す」と言い、猪に似た大きな石に火をつけて、転がし落としました。受け取ろうとした時、落ちてきた焼けた石に焼かれて死んでしまいました。

*オオナムチを、殺す気満々の八十神です。


貝の姫に救われる

焼け死んだオオナムチを生き返らせたのは、貝の姫でした。

爾に其の御祖の命、哭き患ひて、天に参上りて、神産巣日之命に請しし時、乃ち𧏛貝比売と蛤貝比売とを遣はして、作り活かさしめたまひき。爾に𧏛貝比売、岐佐宜集めて、蛤貝比売、待ち承けて、母の乳汁を塗りしかば、麗しき壮夫に成りて、出で遊行びき。

古事記

意訳:オオナムチの母神は、声をあげて泣き悲しんで、天上界にいる神産巣日之命カミムスビノミコトに助けを請うと、𧏛貝比売キサカイヒメ蛤貝比売ウムカイヒメを遣わして、生き返らせさせました。キサカイヒメは身を削り粉を集め、それをウムカイヒメが自身の貝殻に入れて貝汁と練り合わせ、母乳のように塗ったところ、蘇生して立派な男になり出て行きました。

神産巣日カミムスビは造化三神の一柱です。性別の無い独神ですが、高御産巣日タカミムスビと対になる女性的な性格で書かれています。

*キサカイヒメは赤貝、ウムカイヒメは蛤を神格化していると言われています。蛤は古来、薬剤として使われたという説もあります。
このシーンは、絵画のモチーフにもなっています。

青木繁「大穴牟知命」

*出雲大社の摂末社、神魂伊能知比売かみむすびいのちひめ神社(天前社)では、キサカイヒメとウムカイヒメを大神の火傷の治療と看護に尽くされた女神として祀っています。

神魂伊能知比売神社(手前の社)

*静岡県浜松市にある岐佐きさ神社は、キサカイヒメとウムカイヒメを主祭神として祀る神社です。


木に挟まれる

蘇ったオオナムチでしたが、再び八十神に命を狙われます。

是に八十神見て、且欺きて山率て入りて、大樹を切り伏せ、茹矢を其の木に打ち立て、其の中に入らしむる即ち、其の氷目矢を打ち離ちて、拷ち殺しき。

古事記

意訳:この様子を見た八十神は、オオナムチを騙して山に連れて行き、大きな樹を切り倒しクサビを打込み、その隙間に(オオナムチ)が入るとクサビを抜き、挟み殺しました。

*またしても騙され、殺されるオオナムチです。


根の堅州国へ

何度も殺されるオオナムチに、母神は逃げるよう説得します。

爾に亦、其の御祖の命、哭きつつ求げば、見得て、即ち其の木を折りて取り出で活かして、其の子に告げて言ひけらく、「汝此間に有らば、遂に八十神の為に滅ぼさえなむ。」といひて、乃ち木国の大屋毘古神の御所に違え遣りき。

古事記

意訳:この時も母神が嘆きながらオオナムチを探し出し、樹を裂いて取り出し、生き返らせました。「ここにいると、また八十神に殺されてしまいます」と告げ、紀伊國の大屋毘古神オオヤビコノカミの元へいきせました。

*今度は母神がオオナムチを復活させました。大屋毘古は、イザナギとイザナミの子で日本書紀に登場する五十猛イタケルと同一視されています。五十猛はスサノオの子で、木の種を蒔く神として知られています。

*和歌山県和歌山市にある伊太祁曽いたきそ神社では、五十猛を祀る神社で、大屋毘古を五十猛と同一視しています。

爾に八十神覓ぎ追ひ臻りて、矢刺し乞ふ時に、木の俣より漏き逃がして云りたまひけらく、「須佐之男命の坐します根の堅州国に参向ふべし。必ず其の大神、議りたまひなむ。」とのりたまひき。

古事記

意訳:八十神が弓を構え、オオナムチを引き渡すよう迫りますが、「スサノオのいる根の堅州国へ行きなさい。きっと良く取り計らってくれるはずです」と、大屋毘古が木の股から逃してくれました。

*クシナダと結婚し出雲に住んでいたスサノオですが、この時は根の堅州国に住んでいます。
根の堅州国は、海中、地下、黄泉など異世界を表しています。

黄泉の国の入り口「黄泉平坂」

根の堅州国へ行ったオオナムチですが、そこで美しい姫に出会います。


大国主の話は、マガジン「大国主と神話の神々」にまとめています。



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