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『Jusant』感想:まるでロッククライミング版『DEATH STRANDING』。ただ登るだけ、その満足感と飽きなさという謎の魅力

DEATH STRANDING。
ゲームプレイの体感として、今でも不思議なのは「なぜただ歩くだけなのにこのゲームはこんなに飽きず、止められないのか」ということでした。

どのルートで歩くか、どこが安全か、荷物が崩れないようにするにはどうすればいいか。
そんな、多くのアクションゲームでの基本行動に着目し、丁寧に描いたことで、誰もが体験したことの無かった魅力を生み出したDEATH STRANDING。


そして、今回プレイしたインディーゲーム『Jusant』で得られた体験は、まさにDEATH STRANDINGで得た体験に似ているものであり、不思議な魅力に溢れているゲームでした。



『歩く』ではなく『登る』

DEATH STRANDINGが目的地まで歩くことを根本的なプレイとしているとすれば、Jusantは目的地まで『登る』というのがテーマです。
大きな塔のような岩壁。そこをひたすらに登る。これが、このゲームの体験の9割を占めています。

DEATH STRANDINGと違い配達や敵襲は無いので、ただただ登り続ける。
命綱を着けて、登って、一息ついたら命綱を回収して、また登る。ときには壁の内側に入り、内側から登ることも。ときには命綱を使い、壁を走り移動することも。様々な方法で、先の見えない高い壁を登り続けます。



右手と左手をひたすら握り、離すというコントローラー操作との同一性

コントローラーでのプレイが推奨されているこの作品。
私はPS4のコントローラーを接続してプレイしました。

歩き回ったり段差を登ったりできますが、基本的には崖を登る操作がこのゲームの魅力であり大きな特徴であると感じました。

右手のR2ボタンを押し込むことで、主人公は右手を握り、壁の出っ張りを掴みます。
左手のL2ボタンを押し込むことで、逆に左手で壁の出っ張りを掴みます。

片手ずつ交互に握っては離していく。
それをひたすら繰り返していくのです。

一般的なゲームでは、ただスティックやキーを上に動かせば自動でキャラクターが登れるところを、あえて行動として細分化したことでの新鮮なプレイ体験。これが素晴らしかったです。

さらに、ここでの「右手を握る・離す」「左手を握る・離す」という行為は、プレイヤーもコントローラーを握る、そしてキャラクターも岩を握る、という、「手を握る」という行為として同一の体験となっているのです。

ロッククライミングのように、そして歩くように、一歩一歩ならぬ一手一手、主人公は登り続けます。
プレイヤーは同じように、右手左手を、順番に握ったり離したりするのです。
両手を離してしまうと当然、落下に繋がりますので、必ずどちらかの手は握っていないといけません。

『歩く』という行為と違う点ですが、『登る』は明らかにスタミナが必要な行為であるということ。とくにロッククライミングならなおさら。
画面に表示されているスタミナゲージが無くなると、問答無用に落ちてしまいます。

この、シンプルな操作と「落下する」という恐怖。2つが組み合わさった結果、同じことを繰り返すゲームであっても、そこには適度な緊張感が生まれたのです。
きっと、DEATH STRANDINGと似ているプレイ感覚を覚えたのは、この部分なのかなと思いました。

多くのアクションゲームではフォーカスされない『歩く』という行為。そこに、荷物を傷つけずに運ぶという目的と、バランスを意識するとともに転ばないルート選択が必要という刺激を生み出したDEATH STRANDING。

そしてこのJusantでは、(おおよそ正解ルートは決められていますが)自らでルート選択をするという行為と、失敗すれば落下という危機感・緊張感が生まれており、これがやはり同じく刺激となっています。

ただの移動手段であるところの『登る』。
そこに行為と意味を持たせるとともに、その部分に遊びのポイントを集中させたことが、他にはないゲーム体験を生みました。

そしてそれがプレイヤーにとって、何とも言えない没入感を生み出しているのだと思います。



物語はちょっと薄め

日本語訳は特に問題ない印象でした。

ゲーム中、壁を登っていくと途中で集落…と言えるほどではないですが、なんらかの生活の痕跡を見つけることが出来ます。人が一人休憩したんだな、と言った程度のスペースから、十数人くらいは生活していたのかな、というような広めのスペースまで。
一方で、そこに人は一人もいません。そのため、会話もありません。

一応、バラストと呼ばれる水で出来た生き物? と一緒に進むのですが、バラストとも会話するわけではありません。

もっとも、語らずとも伝わる演出はしっかりとあるので、完全に淡白というわけではないですが、アドベンチャーゲームに比べると濃厚な物語というわけではありません。あくまでアクションが中心です。

語られる世界観としては、手紙という方法にて知ることが可能です。
というのも、崖を登っていると、途中の人の痕跡が残る場所を中心に、手紙を見つけることが出来ます。

その手紙には、先に崖を登ったであろう人、または崖で生活していた人の様子が記録されており、その文章からはうっすらと世界観を理解することが出来るものとなっています。どんな人がいたのか、どんな世界だったのか。それは文章としては短いですが、想像を広げる材料としては十分なものであると感じました。

手紙はゲームを進めていれば必ず見つかるものではなく、ある意味コレクターアイテム的なものなので、私もクリア時には手紙収集は歯抜け状態。

全ての手紙を読めていないのですが、全て収集すると何らかの物語が浮かび上がってくるものであると思えます。
ただ、いくつか抜けがあったとしても、なんとなくどのような環境でどのような事が起こったかはわかりますし、当然わからなくてもゲームそのものの理解にほぼ支障はありませんので、純粋にアクションゲームとして楽しんで良いものであると思います。
あくまで、集めると+αで面白い、くらいで捉えてOKです。



配慮された難易度ともう少し欲しかった誘導の配慮

壁を登っている最中、最大で3つまで「ハーケン」を岸壁へと打ち込むことが可能です。

ハーケンとは、落下時に身の安全を守るロープ、命綱を通すことが出来る金属で、これを岸壁に打ち込むことで、仮に落下したとしても墜落することなく、身体を宙に浮かせてくれるように守ってくれる大事な道具です。

上記ウェブサイトでハーケンについて調べた私、当然今までロッククライミングはやったことがないので初めて知りましたが、ゲーム上で感じたのは「チェックポイント」または「セーブポイント」感。

ルートに迷ったり、ゲーム後半では体力が奪われるような状況もあり、初見ではなかなか先に進むのが難しい部分もありますが、このハーケンを打ち込んでおくことで、仮に落下したとしてもそこからやり直すことが出来るのは心強いです。
しかも、このハーケンをほぼどこにでも打ち込むことが出来るので、任意の場所にセーブすることが出来るようなもの。一見難しい岩壁登りですが、安心感を持って楽しむことが出来ました。

一方で別の意味で難易度が高いなと思ったのは、どこからどのように進むべきかのレベルデザインが少し不親切なところ。

道中、岩壁ではなくその内側に入り込み、壁の内部を探索することもあるのですが、その場面においてどこをどう先に進んだらいいのかはかなり迷うところ。
一応、簡単に正解の方角は示してくれたりするのですが、かなりアバウトなので理解しやすいとは言えませんでした。

また、岩壁を登る際、ときにはロープを振り子のように使い移動手段とすることもあるのですが、とある場所で30分以上悩んだこともありました。
カメラワークでなんとなくどう進んだらいいかは示されるのですが、「気づくか気づかないか」によって先に進めるかどうかが制限されてしまうのは、そもそものアクションゲーム性と少し乖離しているような気がして、惜しいなと思いました。
もう少し、誘導して欲しかったというのが個人的な感想です。(正直2度ほどyoutubeプレイ動画を参考にしてしまいました)



おわりに

Jusant、実は開発したのが『Life is Strage』でおなじみのDON'TNODなんですよね。もちろんこのゲームは選択肢を選んで物語が進んでいくようなアドベンチャーゲームではないんですが、とはいえ2つのゲームに通ずるところもあるように思えて。

それは何かというと、ゲームそのものを続けたくなる引力の作り方だと思うんですよね。
プレイヤーが途中で投げ出さないようにはどうすればいいか。
その引力、つまりはゲームをまだ続けたいと思わせるのが上手だと感じました。

Life is Strangeであれば物語がその力を持っていましたが、Jusantはむしろアクション性にその魅力が生まれています。
ただただ登るだけ。でも、その行為を分解し、スタミナというシステムを加えたことで、無意識に行われてきた行為が、連続性のあるアクションとして生まれ変わったのです。

DEATH STRANDING同様、「登るだけで何が楽しいの?」という問いにうまく答えるのはなかなか難しいのですが、しかしそこには確実に止められない魅力と達成感がありました。

目の前の壁を一歩一歩確実に先に進むこと。それがいつしか、遥か高みに達すること。
この面白さ、不思議ですが間違いないです。
『Jusant』お勧めです。


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