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『Neva』感想:とにかく綺麗で圧倒的な世界を、狼と旅する。ビジュアルが突出して素晴らしい、完成度の高い傑作インディーアクションゲーム
以前、伊豆大島に行ったとき、山に登ったことがありました。
途中までは車で行って、あとは少し歩く。
そのときの天気は雲り。霧が濃く視界もあまりよくありません。
標高が高いから、あれは雲だったのかもしれません。
山道というよりは、砂漠のように土が堆積した道を上っていき。
だいぶ高いところまできた瞬間、強い風が吹きました。
そして、辺りを覆っていた白い霧、または雲が一気に晴れ、視界が開けた瞬間、遠くまでの景色が一気に見えて。
見渡す限りの黒い土と草、青々とした空が遥か先まで続く光景に、無意識に息が止まり、鼓動が速くなった記憶があります。視界がクリアになると同時に、脳が目覚めるような感覚。
美しい景色には、そんな力があると思います。
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これはゲームでも疑似的に感じられるものだと思っており、美しい映像美に心を奪われたことがある人も多いのではないでしょうか。
それはAAAタイトルの、人とお金と時間がかかったゲームが中心…であることは間違いないのですが、一方でインディーの中にも「美しさ」が飛びぬけたゲームがあります。
その一つが、『Neva』でした。
『Neva』とは
『Neva』は、『GRIS』というゲームを開発したNomada Studioの新作です。
『GRIS』もまたアート的な美しさに感動した作品であったんですが、今回の『Neva』にてそれがさらに進化し、美しさに磨きがかかっていました。
ゲームは横スクロールのアクションゲーム。
相棒の狼『Neva』とともに、世界を救う旅に出ます。
アクションは主に、剣で切ること、回避兼ダッシュ、空中ジャンプ、Nevaを呼んだり攻撃をけしかける、といった非常にシンプルで基本的なもの。これはゲームが進んでもほぼ変わりません。
敵との戦闘もありますが、操作がシンプルなのでその分プレイヤースキルが問われるところもあります。もちろん高難易度ゲームではないので難易度が高すぎるわけではないですが、死に覚え的な部分もあるのでアクションゲームが苦手という人は少し厳しいかもしれません。
そんなゲーム性。それだけだとよくあるアクションゲームなのですが、とにかくビジュアルが素晴らしい。そしてそれを演出する音楽が素晴らしい。
これは前作のGRISも同じだったのですが、ここに敵とのバトルが加わったことで、さらに美しさがパワーアップしていました。
スクリーンショットをいくつか掲載します。
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水彩画のような淡いタッチで描かれつつ、場面によってその背景のテーマとなる色がガラッと変わります。
緑や青、黄色なら自然の穏やかな感じ、黒や赤なら生命の危機に繋がるような不気味な感じ。
あまりここまで大きく「色」が変わるゲームもないと思います。
この世界を旅する。それだけでワクワクしてくるのではないでしょうか。
もののけ姫(ジブリ)的な世界
ゲームは常に『Neva』という名の狼を連れて旅をします。
最初は小さいNevaですが、ゲームの進行に沿って成長し、アクションも微妙に変わっていきます。最初は頼りなかったものの、ゲーム後半には一緒に攻撃をしてくれるようになります。
Nevaの体毛は白。まるで、アニメ映画『もののけ姫』の山犬のようでした。
もちろんそれだけでは「もののけ姫感」は薄かったのですが、ゲーム中の背景演出を見る限り、影響されているのは明らかなのかなと思います。
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もちろんこじつけかもしれませんが、序盤のこれらの演出を見るだけで、まるでもののけ姫のif世界線を見ているように感じました。
そしてそれだけではなく、ボス敵からも「ジブリ的」なものを感じます。
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こういう、黒い物体に仮面がついた敵というのはたまに見かけますが(ペルソナ3など)、もののけ姫っぽいという頭の中で感じたのは、「千と千尋の神隠し」に出てくる、「カオナシ」でした。
淡いタッチで描かれた世界は自然豊かで美しく、生き物はまるでジブリの世界のよう。左右に動くアクションゲームなので奥に進むという展開はありませんが、近づいたり引いたりするカメラワークもあり、この世界を進むことが常に新鮮な刺激になります。
人間は思った以上に見える色で印象が変わるんだなと実感しましたし、何より水彩画のような世界で敵と戦うこと自体がもはや宗教画のような尊さすら感じます。
ただ「綺麗」なだけではなく、「尊さ」までも感じる美しさ。
『Neva』はそういった部分で、かなり突出したゲームであると思います。
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上田文人氏のゲームを彷彿とさせる演出
先ほどから、このゲームでは狼の『Neva』と一緒に旅をすると記載してきました。
Neva、徐々に成長していくのですが、最初は小さい姿であり、主人公が導いてあげながら先に進むこととなります。
この、「ちょっと手間をかけてあげないと先に進めない感じ」、ゲームデザイナーである上田文人氏の『ICO』を思い出しました。
「なんとなくこういうところ、もどかしさ、ICOっぽいな」と思った後、最初のボス戦で「もしかすると上田文人氏のゲームを参考にしているのかも」と思ったのです。
強く感じたのが、ボスを倒した後の演出。
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この、剣を突き刺す仕草が、どうしても『ワンダと巨像』と重なって見えました。
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ボスと戦い、最後の一撃に演出がかかる。斬るのではなく、剣を突き刺すことでとどめを刺す。
ICOっぽいな、というのは印象であり、ああいった「ちょっとサポートしないといけない相棒もの」はいくつもありますが、ここでワンダと巨像感が出たことで、上田文人氏の作品に影響を受けているのではないか、と強く感じました。
そうなると、全体的に静謐とした空気感も納得できますし、アクションゲームで敵もいるものの、シンプルなアクションが中心でありあくまで全体を通した「体験」を重要視している部分もやや重なっているように感じます。上田文人氏作品の「空気感」「雰囲気」が好きという方も多いのではないでしょうか。
このあたり調べてみると、下記の記事が見つかりました。
有名なアーティストConrad Rosetが再び署名したデザインを採用したこのゲームは、信じられないほどカラフルで詳細かつ繊細なシナリオを特徴としています。アルバの命令を学び、(まだ)内気なオオカミのネヴァと一緒についていく間に私が考えたすべての風景は、芸術作品のように思えました。家中に喜んで額装することができました。
コンラッドはイベント中のインタビューで、自分の芸術的インスピレーションは絵画、建築、風景、音楽などあらゆるものにあると告白した。しかし、約ネバの場合、彼女が主に参照したのは上田文人氏の作品でした。 『ICO』、 『ワンダと巨像』、『人喰いの大鷲トリコ』です。
アーティストのConrad Roset氏は、『Neva』『GRIS』を開発したNomada Studioの共同創業者でもあります。
NEVA IS OUT NOW on all platforms!!!
— Conrad Roset (@ConradRoset) October 15, 2024
I just hope you enjoy this journey! pic.twitter.com/p0LAXiZNGn
氏が話していたということで、間違いなく上田文人氏のゲームの影響を受けている作品であることがわかりました。
ジブリ的、それももののけ姫的な世界と、上田文人氏のゲームの世界。これらを水彩画のように淡く融合させ、ゲーム性を持たせた作品と言えるかもしれません。
美しい世界を底上げする音楽
それらの世界観を強固にする演出として、外せないのが音楽です。
特に今作は、前作の『GRIS』と違い、戦闘パートが存在します。
先ほどの画像のように、ボスも存在します。攻撃パターンを覚え、回避し、隙を見て攻撃する必要があるので、初見でボタン連打をしていれば勝てるような相手ではありません。
戦闘シーンを盛り上げるのはもちろん、苦労して敵を倒したときの達成感。
そこを演出する音楽が素晴らしく、心に染み込んでくるような演出でした。
ボス戦以外、緊迫感を煽らないシーンは常にアンビエントのような、静かに染み渡る曲が多く、ビジュアルの美しさを邪魔しません。
一方で、緊迫感のあるシーンはどこかスクウェア・エニックス作品、ニーアシリーズや最近のFFシリーズのような厳かさと豪華さのある曲が流れ、場面の印象を強くします。
ゲーム音楽はゲームの場面があってこそという定義はあると思いますが、久しぶりに音楽単体で聞いてもぐっと緊張感が出るような曲だったなと思います。
まとめ
本当におすすめです。今年のベストインディー候補です。
前作に比べ、戦闘というパートが入ったのが、もしかすると一部のプレイヤーを振り落としてしまっている可能性はあります。
戦闘があくまでただのおまけではなく、(特に後半、終盤は)結構難しいな、と思えるほどの難易度だったからです。
もちろんこれは個人差が大きいものだと思いますが、私自身、10回まではいかなくとも数回はやり直したボスなどもいたので、そのあたりはしっかりと対策を意識して戦う必要があります。
最初に書いた通り、アクションがシンプルな分、プレイヤースキルがどうしても求められるところはあります。
一方で、美しいビジュアルと音楽は一見の価値あり、いやむしろ必見としか言えません。
冒頭で書いたような、「美しい景色に圧倒される」ような体験や、場面の色が変わるだけで自身の感情にも影響されるような大胆な色使い、そして質の高い音楽はまるで完成されたアート作品のようであり、どの場面を切り取っても美しさの思い出として形になっています。
映像が美しいゲームは多くありますが、しかしそこが突出しているだけで、他の部分は今一つちぐはぐな魅力に…というゲームもあると思いますが、ことこのゲームに関しては、アクションをはじめとしたシンプルさで構成されているからこそ、その完成度が高くなっているように思えました。変に、色々な要素に手を出していないからこその魅力。これもやはり、インディーならではの魅力ではないでしょうか。
ぜひこの世界を体験し、Nevaとの信頼を育み、エンディングを迎えてください。
その美しさは、きっと心に残ると思います。
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