『1000xRESIST』先行プレイレビュー。「ストーリーテリングの革命」に偽りなし。常に鳥肌が止まらない、記憶と絆の超傑作SFアドベンチャー #PR
「ストーリーテリングで鳥肌が立つ」、そんな体験がここにはありました。
ストーリーが予想していない展開になること、伏線が回収されていくこと。
他の物語重視のアドベンチャーゲームでもそのような印象はありますが、このゲームにおいて特筆すべきはその演出、物語の「伝え方」。
徹底的に計算され詰められた物語の演出は、最初から最後まで最高級のクオリティと言って間違いありません。
3Dアドベンチャーゲームとしてのひとつの金字塔であると、自信を持って勧められる作品。
それがこの『1000xRESIST』でした。
カナダのバンクーバーに拠点を置くインディースタジオ「sunset visitor(斜陽過客)」が開発した本作。
2024年5月には発売されており、本記事執筆時点の10月中旬、steamでは1,300を超えるレビューと、「圧倒的に好評」の評価を得ています。
これまで日本語版は実装されていませんでしたが、10月25日、満を持しての日本語版実装となりました。
絶滅した人類と、衝撃的な幕開け
舞台は1000年後の未来。
一人の女性と、彼女のクローンが織りなす物語です。
1000年前。
突如地上に現れた巨大な異星人「占有者」。
彼らにより蔓延したウイルスのため、人類は絶滅しました。
ただ一人、ウイルスに対して免疫を持っていた10代の少女、「アイリス」を除いて。
そして1000年間、不死となったアイリスは占有者と戦い続けています。
主人公は「ウォッチャー」と呼ばれる存在。
彼女は、全ての母である「アイリス」のクローンです。
アイリスは、自身のクローンを生み出していました。
ウォッチャーを含めた、クローン…通称「シスター」たちは、地下シェルター「果樹園」で生活を行っています。
全てはアイリスのため。
ウォッチャーは、クローンの中でも選ばれた存在でした。
同じようにクローンの中から選ばれた仲間…「プリンシパル」「バンバンファイア」「ノウアー」「フィクサー」「ヒーラー」とともに、その職務を全うします。
いつか、アイリスの力となるため。
その過程。ウォッチャーは、アイリスの過去を垣間見ます。
そこで何を知り、何を感じ、どのような感情になるのか。
アイリスという、クローン達の母である存在。
シスターたちから尊敬され、唯一、占有者に対抗できる存在。
自分たちを守り続けている、全ての母であるアイリス。
そのアイリスを、ウォッチャーが刃物で刺し殺す。
ゲームは、そんな衝撃的な展開で幕を開けるのです。
ゲームシステムとストーリーテリングの革命
ゲームは3Dであり、主人公のウォッチャーを操作し様々な物語を体験するアドベンチャーゲームです。
「果樹園」と呼ばれる地下シェルターの中で、ウォッチャーはアイリスの過去を追体験していきます。
それは単に過去を映像として見るのではなく、過去にアイリスが体験した場面、空間を、まるでその瞬間にその場にいたように、歩き回り経験するのです。
そしてその経験は、単に「ある1日のある時間に発生した出来事」とは限りません。
例えば、「地球に占有者が現れる前」「現れた直後」「そして現れてしばらくした、多くの人が死んだ後」といったように、過去1000年の中で、特定の事象に連なる記憶を、連続して体験します。
さらに言えば、この連続した記憶…アイリスが体験したひとつの事柄に関する連続した時間を、ウォッチャーは変更することができるのです。
具体的には、プレイヤーの操作により、「アイリスの記憶にあるとある1日」から、その後どのような展開になったのかを、本のページをめくるように体験することとなります。「何かが起こった瞬間」だけではなく、そこから過去未来を知ることができるのです。
アイリスの記憶の中にある、とある事象、とある日。
それはひとつの物語が始まった日です。
その日から3日後なのか、数週間後なのか、それとももっと先なのか、それはアイリスの記憶の中で実際に体験してみないとわかりませんが、その別の時間の記憶に「ジャンプ」することで、記憶を移動し物語の変遷を目の当たりにします。
それは確実に、アイリスが伝えたいことが一連の記憶の流れとして展開されているということ。
プレイヤーは「この出来事がどのように発生したか」「どのような経過を辿り、どのような結末となったか」を体験します。
ただただ同じ空間で会話劇として話が展開するのではなく、時間という単位を中心として物語が展開するため、「何かどのような流れで起こったか」をより鮮明に体験することができるのです。
極端なことを言えば、あくまでアドベンチャーゲームとして物語を体験するだけなので、プレイヤーに伝わるのはあくまで情報。ゲームの中の設定やキャラクター像、出来事です。
多少の謎解き要素はあれど、戦闘やプレイヤースキルを求められるシーンもありません。セリフ、テキストがほぼ全てです。
でも、だからこそその「見せ方」で、アドベンチャーゲームは印象がガラッと変わります。
プレイヤーはキャラクター「ウォッチャー」を操作し、アイリスの記憶をどんどん未来に進み(ときには過去に戻り)、事実を知っていく。
キャラクターを動かし、歩みを進めるという行為がそれだけで能動的なのですが、さらにそこに魅力を加えた、時間の操作という行為。
「この先はどうなるのか」「過去はこんなに幸せだったのに、なぜ現在はこんな状況なのか」。
時間を操作すると、カメラのシャッターを切るように画面も一瞬で変わり、新鮮さとともに物語が展開。プレイヤーに冗長さを感じさせません。
そのストーリーテリングの根本的な手法もさることながら、そもそもプレイヤーが視覚として得る情報、映像表現も一級品、いや他の追随を許さない、ケタ違いのレベルであることは間違いありません。
その画角や色使い、遠近感やテキスト表示…。
場面の印象やアイリスの感情がダイレクトに伝わるとともに、物語展開と映像表現、不安と安心を両立させたような不安定な音楽が全て相乗効果を生み、「ストーリーテリングの革命」と呼ばれる仕組みを構築していました。
ひとつのシーンが、アート作品のように感じられ、全てが独創的です。
当然、プレイヤーが受ける印象も毎回新鮮で、飽きる要素が一切ありません。
この映像効果は本当に、物語と並んで『1000xRESIST』の最大級の魅力であると思います。
ゲームシステムとしては、完全に新規性のあるものではないと思いますが、それでも細部に至るまで「見せ方」をこだわったからこそ、唯一無二の体験がそこには完成していました。
あまりに美しい景色、あまりに圧倒的な芸術作品。そのようなものを経験したときに、思わず感動で身震いした経験はないでしょうか。
『1000xRESIST』では、そのような体験が何度も押し寄せてきます。
だからこそプレイしていて、震えと鳥肌が止まらなかったのです。
絶対に体験すべきストーリー
主人公の「ウォッチャー」は、前述のような「アイリスの記憶」を何度か体験します。それにより、ウォッチャー自身がどのような気持ちになるのか。そして、なぜアイリスを刺すという行為に至ってしまうのか。
そこがこのゲームの非常に重要なところ…ではありますが、少なくともそんなシンプルなゲームではない、ということをここに記させてください。
アドベンチャーゲームという仕様上、肝となるストーリーを紹介することはネタバレに直結するため、ここでは書けません。しかし、一つだけ言えるのは、全く予想できない展開が、予想できないスケールで展開され、予想できない真実が、そこにはあります。
本作は『NieR:Automata』から影響を受けているということで、キャラクターのビジュアルや、危険な地上から隔離されたシェルター、ウォッチャーをサポートする「セクレタリー」というキャラクターなど、確かに似ている部分はあるなと感じます。
しかしそれ以上に影響を受けているのは間違いなくストーリーの展開であり、ストーリーテリング、「プレイヤーの予想を遥かに超える体験」であると感じました。
『NieR:Automata』の中盤からエンディングまでの展開。これを誰が想像できたでしょうか。
そして同じように、この『1000xRESIST』もまた、中盤からエンディングまでの展開は、想像することができませんでした。プレイしながら、何度も驚き、鳥肌が立ち、物語を進める手を止めることができませんでした。
ここは本当に体験していただきたいところです。
インディーゲームであってもAAAタイトルと同等の体験ができるという事実を、まざまざと見せつけられたのです。
『1000xRESIST』が伝えたいテーマと、描かれるキャラクター
このゲームが訴えるテーマとは何なのか。それは、考えれば考えるほど、多様なものがあると思います。
アイリスとクローン、つまり母と子。それは家族というテーマであるかもしれません。
そして、ウォッチャーがアイリスを刺すという行為や、市民と権力の衝突のシーン。体制に対する批判とも、裏切りとも理解することができます。
さらには、記憶という存在の証明、ウォッチャーとその仲間との友情。
様々なテーマが内包されたゲームであると感じました。
それは、ただおまけのようにいくつもの小さな物語が詰め込まれていたわけではありません。捉え方によっては、全てのテーマがメインテーマであると言ってもいいでしょう。
では、なぜそのような印象を受けたのか。
理由はただひとつ。綿密に練られた登場キャラクターの考え方や個性、行動が、徹底的に掘り下げられているからに他なりません。
主人公のウォッチャーや、ウォッチャー同様にクローンの中から選ばれた仲間たち、そして全ての母であるアイリス。
彼女らはもちろんのこと、アイリスの学生時代の友人や家族、それこそモブ的なクローン達まで、それぞれの立場と考え方が独立して存在します。
だからこそ、誰かの利益は誰かの不利益となる。そして誰もが、いかにもフィクション的な「聖人君子」とは限らない。
その、キャラクターたちの考えが一つにまとまらない「混沌さ」「歪さ」が、ゲームとして、そして物語としての「厚み」をましており、多層的なストーリーテリングを形成していたと思います。
「主人公を中心とした物語」でありつつ、「主人公以外をも中心とした物語」という、真逆の物語を両立させたのも、革命的なストーリーテリングの為せる技であったと、クリアして思います。
忘れてはならないのが、ストーリーテリングを彩る多様な音楽
10時間程度のプレイ時間というボリュームに対し、OST上85曲の楽曲が備わっているという点からも、ストーリーテリングの際にどれほど力を入れているかを感じられます。
同時に、決して同じような展開、場面の使いまわしではなく、アグレッシブに物語が二転三転していくということが予想できるのではないでしょうか。
アンビエント的な音楽を主流に、ゲーム全体の無機質さ、不気味さ、不穏さ、清潔さなど、「美しいけど不安」「綺麗すぎて不気味」という、相反する世界観を適切に音楽で表現されていました。
このあたりも、ニーアシリーズ同様音楽としての質の高さを感じられるポイントでした。
物語の理解と翻訳
日本語訳については問題ありません。機械翻訳ではなく、適切な翻訳がなされています。
しかし、ゲーム序盤は多少理解に苦しむところがあるかもしれません。翻訳のせいか、物語の理解が難しい、と。
その疑問は、後々解決されますので、心配不要です。
翻訳の問題というより、元々のゲームの展開の関係が大きいかと考えます。
そもそも主人公のウォッチャーは、主にアイリスという一人の女性の記憶を知り、過去を知る立場。
ゲーム序盤では、当然のように使われている挨拶、常識、そういったものの意味が、ゲームの進行とともに徐々に理解できる流れになっています。
だからこそ、日本語訳されていても、最初はやや理解に苦しむ部分があるかもしれません。しかし、それが正しいのであり、まずはその「この言葉の意味は何だろう」といった、疑問を心に残しておくことが重要です。
「既に知識や常識が浸透している」のキャラクターを操り、アイリスの記憶を辿ることで「その知識や常識がどのように世界に浸透し常識となったか」の過程を知るという、逆算的な構造のゲームだからこそ、最初に混乱しやすい分、後から全ての情報が繋がります。
なんとなく曖昧だった理解が一気に進む瞬間、一瞬でこのゲームの虜になります。
そうなったらもう、ゲームを止めることはできなくなるでしょう。
ついでに言えば、これは一度ゲームをクリアしてから2週目を遊ぶと、最初は抽象的でよくわからなかったセリフも理解でき、また新たな視点でゲームを遊ぶことができます。
全てを知った後だからこそ体験できる感覚も、この逆算的なストーリーテリングの素晴らしい特徴のひとつであったと感じました。
予想できない展開と鳥肌の立つストーリーテリングを体験してほしい
ウォッチャーがアイリスを刺すという、衝撃的な幕開けから始まる物語。
特にこのゲームの中盤、後半の展開は全く予想だにしないものでした。
このレビューでも簡単にストーリーに触れましたが、一方でそれはこのゲームの半分にも満たない内容であり、全くネタバレに触れていません。
その驚くべき物語の展開は、卓越したストーリーテリングも相まって、止めることのできないままクリアまでプレイ。
クリアした後も、私は登場キャラクターのことを考えてしまいます。
1000年間の流れ、膨大な歴史書を読み解いたような感覚。
壮大なスケールで描かれるSFアドベンチャー。
完成された世界がそこにはありました。
結論として言いたいのは、『1000xRESIST』はインディーゲーム界に燦然と輝く、大傑作であるということです。
間違いなく今年のベストゲームの1本であり、特に物語重視のゲームが好きなゲーマーはプレイ必須の作品であると思います。
心からプレイすることをお勧めできるゲームです。
『1000xRESIST』、最高の作品でした。