「LIFE IS STRANGE 2」感想:全ての選択肢が生きているからこそプレイヤーが本当に主人公になれる大名作
前作と別角度でのテーマで心を打つ大名作。
ネタバレはなるべく配慮しているつもりだけど、序盤やゲームを通してのコアとなる設定、どうしても説明のために避けられない内容は書いているので、完全にまっさらな気持ちでプレイしたい方は読まない方がいいかと思います。というか、絶対に読まずにプレイしてください。このnoteで少しでもゲームの驚きや感動が薄れるのは本意では無いです…!
「LIFE IS STRANGE 2」
2020/3/26発売のPS4用ソフト
全5章で構成されており、海外では第1章が2018年9月27日にリリース。
以降数か月おきに分割でリリースされており、完結したのが2019/12/3。
なので、日本版は約4か月弱遅れての配信/発売。
steam版はPS4版発売日に合わせて無料の日本化DLCのダウンロードが可能に。
ざっくりとストーリー紹介
主人公のショーンは16歳、高校生。弟のダニエルは9歳。この2人が物語の中心人物である。
ある日、兄弟はとある悲しい事故に巻き込まれてしまい、その際、弟のダニエルが超能力を発現。それ以降、兄弟2人が警察から追われることになり、逃亡劇が始まる。
目標は国外逃亡。アメリカからメキシコを目指す。
道中様々な人との出会いがあり、様々な事件がある。兄弟は無事に逃げ切れることが出来るのか。
ゲームシステム
ゲームジャンルはアドベンチャー。
プレイヤーは兄であるショーンを操作する。
特定の人に話しかけたり、特定の物を手に入れるという目的を達成すること、そして様々な決断・選択を行うことで、物語が進んでいく。
どんな困難な選択でも、正解の無いような選択でも、とにかく選ばなければいけない。このゲームの核となるのは、その部分。
「選択する」ということ
普段ゲームをしていて、NPCとの会話の中で「どれを選んでも結果が同じ選択肢」はよくある。多少、NPCの反応が変わるかもしれないが、大筋の物語には全く影響が無い選択肢。RPGなんかには多いかもしれない。
一方、アドベンチャーゲーム…テキストが主体だったり、それこそギャルゲーや乙女ゲーなど好感度といった要素がゲームメカニクスに組み込まれている場合。そういったゲームは、選択肢一つ一つに意味がある。
このゲームも、選択肢一つ一つに意味がもたらされている。しかし、その比重がとても重い。日常会話のちょっとした選択肢もあるが、命のやりとりのような選択肢まで存在する。
選択肢に重きを置かれていたという点は前作でも同じであった。
前作「LIFE IS STRANGE」では、キャラクターの表現やシナリオの面白さ、ある意味様々なコンテンツで使い古された「時間を戻す能力」を、インタラクティブ性を高めてプレイヤーがゲームへと参加出来るシステムと組み合わせた。結果、多数の賞に選ばれた。
今作でもそれは同じである。しかし、前作は時間を巻き戻す能力だったのに対し、今作はもっと能動的。
半ば抽象的ではあるのだが、物を浮かせたり、コントロールしたり、吹き飛ばしたり、という、念力というかサイコキネシスの超能力がLIFE IS STRANGE 2の特徴となっている。
そのため、出来ることは多く、選択もバリエーションに富んでいる…が、今回はそれだけではなく、主人公が兄弟2人というところもある。
この、サイコキネシスと兄弟2人、そして逃亡劇という環境が、様々な選択の重みと責任を大きくしている。
超能力を使える9歳の弟に「どこまでやらせてしまうか」
前作は主人公=プレイヤーが操作できるキャラクターであるマックスが時間を巻き戻せる能力を発現し、自分の意思で能力の使用不使用を選択できた。それは、自分(プレイヤー)の中でのルールや倫理観に基づいて選択していた。プレイヤーの決断は、主人公の決断。直接的なゲーム体験だった。
しかし今回。超能力を使えるのは9歳の弟:ダニエルである。
そしてプレイヤーが操作するのは兄:ショーン。つまり、直接的に超能力を使うことは出来ないのだ。
警察からの逃亡。そんな背景の中、弟の超能力をどう使わせるか、または使わせないか。それが物語の軸になってくる。
弟のダニエルはまだ9歳。社会的な判断や、「この能力を今使ってしまったら将来どうなるか」といった危険性の想像力については十分でない。
ではどうするか。プレイヤーの操作する兄:ショーンが、弟のダニエルにちゃんと、超能力を使わせるか使わせないかについて指示を出さないといけない場面が出てくる。そこが、プレイヤーに求められる「選択」になっている。
実際のゲーム中では、様々な場面…日常的な場面や、緊急の場面で、ダニエルの超能力を使うかどうかの選択を迫られる。
ここでプレイヤーを惑わせるのは
「9歳の子供にこんな選択をさせても良いのか」という葛藤である。
ダニエルの超能力を使うことで、よりショーンやダニエルにとって有利になったり、ダニエルの希望が叶うような物語の展開になる。ピンチを脱出できる。しかし、その超能力は、使い方によっては人を傷つけることも可能だ。
「ダニエル、超能力でやっちまえ!」なのか、「ダニエル、そんなことをしてはだめだ!」なのか。その判断は、プレイヤーに委ねられている。
それは、大事な弟が経験することに対しての責任を持つということである。
具体的にはネタバレになるので避けるが、悪い状況を打破するためにはそれだけ強力な超能力でのアクションを必要とすることがある。
それこそ、弟がいずれ後悔したり、心の傷になるようなアクションを行わなければ、状況が打破できなくなる=より悪い状況に陥る可能性がある。
そこでどう選択するか。
例えば、超能力を使えるのが自分ならば良い。
弟のために、自己犠牲の精神で思ったままに使えばいい。
しかし、実際に超能力を使うのはダニエルという9歳の大事な弟だ。
本当に超能力を使わせていいのか?
使わせたら弟の倫理観はどうなってしまうのか?
兄としては弟にどう育って欲しいのか?
優しく育って欲しいからこそ、誰かを傷つける選択はしないのか?
それで兄弟が最悪な状況に陥っても?
それとも能力を使って今の状況を打破するのか?
それで弟が心に傷を負うようなことになっても?
その選択により、その先の未来が変わる。
また、この弟・ダニエルが一筋縄ではいかないところがまたうまい。
おとなしく言うことを聞くようなキャラクターではなく、ある意味純粋な男の子である。特に能力を見せびらかしたい気持ちとの折り合いがまた、プレイヤーに葛藤を生ませる。
9歳の男の子にとって、超能力が使えることは他人から「すごい」と言われることであり、簡単に他人からの承認を得ることが出来、他人を制圧でき、そして兄を優越出来てしまえることだ。
宝くじに当たった人がつい人に話してしまうように、ダニエルにも超能力を言いふらして称賛を得たい欲求がある。
ショーンはそれを律し、警察に見つかる危険があるために能力はむやみに使うな、と指示を出す。
このあたりも、弟が超能力を使いたいという希望を叶えるかどうか、という選択になることがある。
こういった要素が加わることで、プレイヤーの選ぶ選択肢をより答えの無いものへと変貌させているのだ。
警察に追われている以上、目立つ行動は避けるべき。
即ち、ダニエルの能力は隠すべきだ。超能力なんて、目立つしすぐに広まってしまう。
しかし、では純粋に人を喜ばせたり助けようとしたときにも超能力を使わない方がいいのか? 超能力を使うことが良い結果を生むことに繋がることもある。
それは容認するべきなのか? しかしどんなときでも能力は隠すべきではないのか? そもそも兄としてその方針がぶれてもいいのか?
これがまた、「あのとき能力を使わせておけばよかった…」「使わなせければよかった…」といった結果を生む。そこが非常に悩ましく、魅力的なゲームシステムであり、プレイヤーを一気に物語の中に引き込む上手さである。
「ひとつの選択だけで人生は決まらないから」
今作のPVを見ていたところ、「ひとつの選択だけで人生は決まらないから」とコピーが見られた。
クリアしてみれば、これが正に的を射ているコピーであった。
前作は失踪した女子生徒の問題、クラスメイトに対するいじめなど、学校生活を取り巻く問題に主人公のマックスが振り回され、結果として大きな問題の根幹にたどり着いてしまうような物語だった。
プレイヤーの予想もしていない展開に、登場人物に対する印象の変化、そして天変地異。どちらかというとサプライズ的な展開が多く、驚きとインパクトが大きく魅力的であった。
今作は、第一章から最終章まで主人公兄弟の目的が一貫している。取り巻く人物は前作に比べ多く、また旅の形式で物語が進むため一期一会の展開も多い。登場人物は多いがその分兄弟2人の関係がより浮彫になり、統一した一つの目的に対しての印象が強く、統一感を感じた。
その中で、前作は言ってみれば、一つの選択で未来が大きく変わることもあった。それは他人であったり、環境であったり、変化としては大きすぎるくらいのものであった。
しかし今作は選択一つで大きく変わることは無い。が、それは一つの選択肢で、という話だ。物語を通しての多くの選択肢で、確かに未来は変わる。
「ひとつの選択だけで人生は決まらないから」という一言の中には、
「今目の前の選択で全てが決まるわけではないから、勇気を持って自分の正しいと思う選択をするべき」という意味と、
「未来を変えたかったらいくつもの選択を勇気を持って乗り越えなければならない」という意味が含まれているように感じた。
選択が物語に影響し、影響した結果の物語は自分だけの物語になる。
このようなゲームといえば、QUANTIC DREAM社のゲームがまず浮かぶ。「HEAVY RAIN」「BEYOND TWO SOULS」、最近では「デトロイト・ビカム・ヒューマン」を制作したゲーム会社と言えば頭に浮かぶ人もいるかと思う。
どのゲームも自分の選択によって結末が変わるゲームであるが、特にデトロイトの道中およびエンディングの分岐は非常に多岐に渡る。プレイ動画を見れば、自分が全く見たことの無い場面を多数発見することが容易である。
一方、ライフイズストレンジ2は大筋でどの選択肢を選んでもほぼ同じストーリーである。AからEまでの道のりの中で、ABCDEという道順で進む人もいれば、選択肢によってはADCBEという道字道順の人もいる。ABEという道順の人もいて、それはそれぞれの選択肢によるものであるが、どのような道順を通っても結果としてEに到達する。
各エピソードでいくつも選択肢、それも2択でも3択でもどちらが正しいとも言えない選択肢から一つを選び、それによって変化した道中を体験する。その結果が、クライマックスに生きてくる。一つの選択で簡単に未来は変わらないが、多くの選択で少しずつ未来が変わってくるのだ。
そのうえで、特殊だなと思った体験もある。
後々分かったことだが、とある選択肢によって特別なイベントを見ることが出来る選択肢が発生した際のこと。
俺はこのイベントを完全にパスする選択肢を選んでいた。
自分のやりたい、またはやりたくないという気持ちに従っての選択であったが、イベントを発生させずに物語を進めたのだ。物語の大筋には影響はないが、ゲームの中の一部を丸々体験せずに話が進んでいったのだ。
しかし、後からそれが分かったとき、不思議と物語を逸したことに対して損した気分にはならなかった。
既にその時にはショーンに感情移入していたからかもしれないが、「ゲームに用意された多くのシーンを見たい」という気持ちよりも「ショーンとして体験する必要が無いことはしなくていい」という気持ちの方が正当性を感じたのだ。
イベント自体は発生させるかどうかはプレイヤーの選択肢次第だが、おそらくどちらを選んだとしてもプレイヤーは納得し、損をした感覚にはならないだろう。
ゲームにおいてプレイヤーと主人公の感情が一致するほど感情移入出来ると思うが、このゲームはいくつもの選択肢でプレイヤーが直接ゲームに関わっているので、ショーンと自分を重ねることは容易かったように思う。
ストーリーの芯がしっかりしているからこそ、選択肢によってパスされるような枝葉のイベントで話がぶれることはない。
そしてもちろん、どのような枝葉を体験するかで、プレイヤーそれぞれのストーリーが構築されていく。クリアするころには、自分だけの物語が完成し、プレイヤーが本当に唯一無二の主人公となっている。
兄の自己犠牲と弟の成長
プレイヤーの選択次第で変化する部分もあるが、兄・ショーンが弟を守るためにとても献身的であること、逃亡生活の中で弟が成長していく様子が少しずつ分かること。これがこのゲームで心に響くポイントとなっている。
弟のダニエルは良くも悪くも純粋だ。それゆえ、自身でもわからない力が身についてしまったことによる感覚も、純粋である。
この力を使えば周りは称賛したり、驚いたり、恐れたりする。そんな力について、本人も怖がっているところがある。
そんな弟を、旅の間支えるのが兄のショーンである。
と言っても、ショーンだって16歳だ。警察に追われる逃亡生活、お金も寝床も無いような生活。いきなりそんな生活を強制的に始めることになってしまったことに対する、弱音や後悔も垣間見える。しかし、その根底にあるのは弟ダニエルを守るという芯になる思いだ。
もちろん男兄弟、何から何までうまくいくわけではない。しかし、献身的な兄と弟の成長により、ゲーム開始時とエンディングではきっと主人公2人の印象は大きく変わるだろう。その変化こそ、ライフイズストレンジ2の醍醐味だ。
また、ストーリー以外の部分も素晴らしい。
キャラクターの細かいアクションが凄い
・何かを思い出すときに宙を一瞬見上げる。
・今まで隠していた自分の過去について聞かれるときに、姿勢を正す
・答えるのに抵抗がある質問をされるときに、腕を組む
心理学か何かの専門家がいるのだろうか…と思わせるくらい、細かい動きが徹底されている。前作以上に、キャラクターの人間味が増している。
このゲームのビジュアルは、リアル寄りではあるもののどこかアニメチックなデフォルメがされているというか、徹底的な実写を追及している感じはない。それもあってか、こういった細かいキャラクターの動きが映える。
学生時代にノンバーバルコミュニケーションを勉強していたことがあるが、まさにその勉強を思い出すような見事な人間の動き。
そこに驚いたし、その細かな、小さなアクションが、そのキャラクターの気持ちや行動に説得力を持たせている。これは他のゲームではなかなか見たことが無いし、ゲーム開始数分で一気に引き込まれた。
声優さんの演技とローカライズ(翻訳)が素晴らしい
特に、やはり主人公であるショーンとダニエルの声優さんが素晴らしい。
全編に渡って喜怒哀楽様々なシーンがある上に、ストーリー上緊迫する場面も多い。
前作「LIFE IS STRANGE」でも、声優さんの演技と、粋な日本語に訳されたセリフに思わずにやりとすることがあったが、今作でもそのクオリティは相変わらず高いままである。
今作は逃亡劇であり、常に兄弟には緊張が付きまとう。が、しかしその感じ方も兄弟で違っている。16歳と9歳であればそれはそうなのだが、そのあたりの「年齢による緊張感の感じ方の違い」も、声優さんの演技で感じられた。
常に今後のことを考えている16歳のショーンと、そこまで考えることが出来ない9歳のダニエル。この差が、セリフと演技で見事に演出されている。
また、端的に言えば、ダニエルが本当にめんどくさい。
9歳の男の子ってこんなに言うこと聞いてくれないのか!?って思ってしまうし、また一方で、純粋な気持ち、素直な気持ちで頼られたり喜怒哀楽を無邪気に出しているところをみると、なんとも言えない可愛さや守りたさが出てくる。
この、めんどくささと可愛さが、特に声優さんの演技で表現されていて、ダニエルの魅力を引き出している。そしてもちろん、プレイヤー側、操作できる主人公のショーンも、声優さんの演技に引き込まれる。
ゲーム全編を通しての統一感が物語に深みを生んだ
前述した通り、前作は割と受動的でサプライズ展開、嵐のような物語が飽きさせない魅力を生み、クライマックスへの高まりを生んでいた。
一方、今作は正直なところそういった気持ちの高まり、エンディングに向けての盛り上がりは前作ほど激しいものではないように感じる。
それは、ゲーム開始からエンディングまで、統一された感覚が保たれているからこそであると思う。
具体的には、兄弟2人で警察から逃亡するという目的が、最初にプレイヤーに提示されていることが大きいと思う。前作には無かった点だ。
それがぶれずにゲームが進行する。環境が変わっても、関わる人物が変わっても、それは変わらない。そして変わらないのは、兄弟2人の旅であるというところも同じだ。周りがどれだけ変化しても兄弟2人だけは一緒で、変わることが無い。これがゲームを通しての統一感を生んでいる。
その結果どうなるか。
物語が終盤になるほど、今までの物語や選択の積み重ねによって、一つ一つの新たな選択肢がどんどん重くなってくる。そして、最後の大事な選択肢で大きな決断をすることで、エンディングを迎える。
前作に対して少し地味な印象はある。あるが、選択肢の重さは前作に引けを取らない、または前作以上である。前作がトランポリンのように一気に盛り上がりの高まりを演出していたならば、今作は階段を上るように着実に気持ちを揺さぶる土壌を作っている。
最後に
初プレイでエンディングを迎えた際、本当に泣いた。
それは今までの積み重ねであり、大きな決断をした結果であった。
ショーンとダニエルがどんな決断をして、どんな未来となるのか。
長く辛い旅を続け、その終着点でどのような未来を選択するのか。
クリア後、2人がどこかに実在しているような感覚に陥った。
決してRPG然とした選択肢やストーリーではなく、悩み、無理をし、そして思いやる気持ちを持ったキャラクターの人間性が、圧倒的なリアリティを持っていた。
自分の中に、ゲームキャラクターではなく、ショーンとダニエルという人間が出来上がったような印象だった。
今でもゲーム終盤からエンディングまでは思い出し、「本当に良いゲームだったなあ」と反芻する。
前作の高い評判というハードルを、別角度から飛び越えてきたような今作。
結論とすれば、圧倒的におすすめできるゲームだった。
無料体験版として、サブキャラクター:クリスの物語を体験できるのも非常に良かった。物語の没入感が増した。
何か温かく心に残るゲームをしたい人はぜひ。
数奇な運命に翻弄されながらも、成長していく兄弟の旅を見届けましょう。