【レビュー】佐藤博之『残照の港』(ながらみ書房)
※本来は正字で表記される歌集ですが、記事内では新字に統一しています。
同郷であり野球ファンでもあり、また古くからのフォロワーでもあり、何かとお世話になっている佐藤博之さんの第一歌集が出ました。心の花に所属する佐藤さんは、文語・旧仮名・正字にこだわる硬派な抒情の持ち主ですが、歌集として歌をまとめて読んでみると、その硬質さの中に時折混じる柔らかさも魅力的でした。短い章立てがないので一首一首をある程度独立して読みながら、ゆるやかに歌がつながっている感じも工夫されています。
歌としては、核となるモチーフに「モノ」を持ってきて、「⚪︎⚪︎が/××する」や「××する/⚪︎⚪︎」という構造が多い。「観察」や「見立て」が上手く、またそのモノの描写に自分なりの見方を加えることで、一首として立つ歌が作れています。ただ、堅実な歌い方ではあるけれど、終止形と体言止めが多いので、続けて読むとちょっと単調な場面が見られてしまう。だから、個人的にはその構造を離れて伸びやかに歌っている作品の方に惹かれます。
たとえば、佐藤さんは「観察」や「見立て」のほかに「観戦」が好きな方。スポーツは自らやるのではなく「観戦」することに徹しています。「観戦」しているときの佐藤さんの歌は、遠くにいるわけでも近くにいるわけでも、憧れているわけでも卑下しているわけでもなく、ただその一瞬の抒情を歌のリズムに託しているのが印象的です。ある意味では、それは当事者と傍観者の中間的な立ち位置なのかもしれません。師である佐佐木幸綱のラグビーの歌も意識されているでしょう。野球の歌では、
も面白い作品で、「見る」ことに徹する作者の矜持が、少しの郷愁と、もしかしたら後悔を伴って現れているのだと思います。
歌集後半の妻への相聞歌にも、素直で好感の持てる作品が並んでいます。そのほかに家族の歌、父への挽歌などもあり、文体は一辺倒ながら堅実なテーマをバランスよく歌える作者であると言えるでしょう。
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