【レビュー】正岡豊『白い箱』(現代短歌社)
正岡豊さんの歌に初めて出会ったのは、まだ高校生のころ。出会った、と言っても当時は入手困難だった『四月の魚』(現在は「現代短歌クラシックス」で復刻版が出ている)を読んだわけではなく、ある入門書に掲載されていたこの作品に、ただただ衝撃を受けたという出会いでした。
当時も今もうまく説明できないんですけど、この歌にすごく悪魔的な魅力を感じたのをよく覚えています。あるいは寓話的とも言えるような、少し幼い世界のなかで、純粋な〈ぼく〉の存在だけがただただ美しい。初句七音や結句の句またがりでの処理も、歌を知ったばかりの少年にはすごく新鮮に思えました。
『白い箱』は30年ぶりの第二歌集ということですが、〈へたなピアノ〉の歌から感じる印象と、それほど変わりはないように思います。「子供」の存在を裏に感じるような寓話的なイメージが多かったり、キーとなる固有名詞を生かして作る歌が多かったり。結句の処理でも、〈夕焼けをあき/らめたとおもえ〉ですでに見られるような、現在の歌壇で多用されている句またがりのリズムが自然に用いられています。まとまって連作として読むというよりは、全体の一首一首に30年間のさまざまな要素がちりばめられており、バランスよく楽しめる歌集という印象でした。
※余談
この歌集のタイトルを見たときに「『白い箱』……どっかで見覚えのある言葉だな……」と思ったのですが、それは『ハリー・ポッターと謎のプリンス』の最終章(第30章)のタイトルの邦訳で、しかも「白い墓」の覚え違いでした。霧がかかってもやもやするイメージは共通かもしれません。
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