見出し画像

小説が書けない男の日記(2022.2.19〜2.25)


2月19日(日)
 今日は母と妹が来る日で、朝から雨だった。犬を亡くした母は見た感じ大丈夫そうだったけれど、話しを聞くとやはりふとした時に記憶が甦って感情が昂ぶるという。まだ少し時間がかかりそうだった。妹が買ってきてくれたシーラカンスの最中?がべらぼうに美味しかった。最中の中にあんことバターがたっぷり入っていて、これはカロリーさえ許せばいくらでも食べられそうだった。
 あにちゃんが昼寝に行った昼すぎまで二人はいてくれ、眠るおととの写真を撮ったり、今年8月でずっと勤めた定年退職となる父の今後のことを話した。引き続き東京に滞在する、つまりは単身赴任という形になりそうだった。できるだけ実家に顔を出すようにしようと思った。今年は今年で、我が家もなかなか慌ただしくなりそうだけれど。
 おととの保育園入園と、妻の復帰。どっちかというと後者のほうが大変だ。どういうリズムで生活したらよいのやら、想像がつかないし、あにちゃんやおととがどうなっていくのかも見通せない。そのときそのときで懸命にやっていくしかないのだろうけれど。

 母と妹が帰ってから妻があにちゃんの寝かしつけを終え、買い物に出かけた。以前よりは妻に自由時間をあげられるようになった。あにちゃんが起きてくるまでおととをみながら『震災列島』を読み進めた。あにちゃんが起きてからもテレビに熱中する二人をみながら『震災列島』。そういうこうしているうちに読み終えた。
 デビュー作の『死都日本』のような災害小説、とは言えず、いろいろ詰め込みすぎて、私としてはその「違い」が不満だった。もっと災害に特化したらいいのにな、とは思いながらも、続きが気になる、ページをめくらせる力はとてもあり、文庫で600ページ超を3日ほどで一気呵成に読んでしまった。

 夜は妻の誕生日に行くはずだった近所のステーキ屋へ。帰り道で気づいたけれど、初めて夜に外食したのだった。あにちゃんはシール貼りに夢中になりながら料理を待っていて、小さい子にありがちな大声で騒ぐといったこともなく、お利口さんだった。ハンバーグを頼むかと思いきやグラタンを選び、それでも美味しい美味しいと満足そうだった。妻もたいそう美味しかったようで終始、いや家に帰ってからもご機嫌だった。私も肉に加えライスバーを3杯も食べ満腹だった。

 本棚を眺めて、次は長島有里枝『テント日記/「縫うこと、着ること、語ること。」日記』が手に取られた。 

 父に、惨めな思いをさせられてきた母を見てきた。母が話し合わなかったのは、罵られたり、関係をやめると脅されるのが嫌だったのと、自分に自信がなかったからだと思う。黙っているからといって、不満が消えるわけじゃない。母はいまでも父にとても、とても腹を立てている。それが表に出るとき、母の怒りの激しさにわたしは震える。ときどき女性は、家族を守るには自分が犠牲になればいい、と思い込み過ぎている。そう思ってしまうのは女たちのせいじゃない。
 女たちは奪われたものを諦めたくて、男はしょうがない生きものだと思おうとする。女同士の飲み会では、誰かしらがその言葉を口にする。尊敬できなくなると、愛せなくなる。身体に触れられることが嫌になる。最初は拗ねているだけでも、そのうち本物の苦痛になる。拒絶された男は戸惑い、傷つく。このとき女がもし、申し訳なさから相手の欲望に応じれば、もっと自尊心を失う。稼いでもらっているから、あるいは可哀想だから。精神的にも肉体的にも、母が傷つくのをわたしは見てきた。それでも母は別れなかった。彼女は自立した女じゃなかったし、端的に言ってそれは、わたしたち子どもがいるせいだった。

長島有里枝『テント日記/「縫うこと、着ること、語ること。」日記』(白水社)p. 35


2月20日(月)
 久しぶりの出勤。とはいえ一年で最も忙しいといっても過言ではない時期で、いきなり20時近く限界まで残った。これくらいに帰らないと家に21時前に、妻とあにちゃんが寝るのに間に合わないのだった。今週来週はこんな感じが続きそうだった。体調だけ気をつけないと。
 持っていった大福は好評だった。

 電車と昼休みに『テント日記』。なかなかに壮絶な感じだ。人様の家族にこういう言い方はよくないのだろうけれど、読む側としてはおもしろく感じる部分もある。作者への同情とかそういうのではなく、読み物としてのおもしろさと、こんなふうにもなってしまうのか、家族というやつは、という驚きというか不可思議さというか。


2月21日(火)
 朝、あにちゃんが登園を嫌がり妻と行くと言い出し、こちらは急いでいたこともあってイライラしながら皿を洗っていると、おととが倒れたのか急に泣き、それをキッチンから見た私はおととの側にあにちゃんがいたことから、あにちゃんがおもちゃをとられまいとしておととを押して倒してしまったものと思い込んでしまい、「こら!」とあにちゃんにやや強く注意したところ、あにちゃんはショックを受けたような顔をして、「あ、しまった、もしかしてあにちゃんが倒したんじゃないのかもしれない」とは後になって思ったことだったが、そのときのあにちゃんの顔が頭から離れなくて、謝ろうと思い早く仕事を切り上げたかったが繁忙期にぎゅっと身を捕まれて話してもらえず結局昨日と同じように21時近くの帰宅となってしまった。
 あにちゃんは結局保育園まで妻とおととと行ったものの、中に入った途端「帰りたい」とべそをかいたみたいで、妻も不穏さを察したのか連れて帰ってきたという。
 具合が悪くなる前兆なのか、はたまた単にそういう日だったのかは分からないが、明日は心穏やかに登園できるようにしたい。
 あにちゃんには帰ってきて早々に謝ってぎゅっと抱きしめた。


2月22日(水)
 今日はあにちゃん無事に登園。帰りが遅くなるのが確定のような忙しさだったので妻には申し訳ないが帰宅リミットの21時を過ぎることを許してもらう。この時期べらぼうに忙しいことを妻は理解してくれている(はず)なので、本当にありがたい。
 それで帰りは結局22時半近くになった。『テント日記』をぐいぐいと電車で読み進めた。
 本当につかれた。


2月23日(木)
 前日遅くまで働いたからか頭が働かずなんとなくだるかった。妻が午前中はあにちゃんを連れ出して出かけたので私はおととと留守番。11時すこし前におととが眠って私も少し横になった。起きて、お昼ご飯をつくった。納豆チーズ海苔トーストとにんじんとネギと挽肉を炒めてソースで味付けしたもの。納豆チーズトーストはまだあにちゃんが生まれる前に朝ご飯で作っていたもので、妻は懐かしんでいた。
 夕方におむつを買いにあにちゃんとお出かけ。あにちゃんの偉いところはお店に行っても騒がないところだ。買って、日が傾き始めた住宅街をゆっくり歩いた。家の近くの道路に出ると妻がおととを抱っこして歩いてきて、そのまま少しだけ4人で散歩。切った爪のような月に向かって飛行機が突進していた。

 夜、『テント日記』読了。読んでいる間、舞城王太郎の、タイトルは忘れたけれどたぶん『煙か土か食い物』に出てきた、どうやって家族から逃げるんじゃ!みたいな台詞を思い出していた。
 次は何を読もう。


2月24日(金)
 コーマック・マッカーシー『果樹園の守り手』がリュックに入れられたが疲れているのか目が文字をつるすると滑り去る。いまもとめているのはこういうのじゃないようだった。
 寝る間際、山野辺太郎『孤島の飛来人』を手に取る。数ページ読む。物語にすうっと入っていけた。これならいけそうだ。

 明日明後日と7時半に出勤しないといけない。5時半には起きないと。大変だこりゃ。

2月25日(土)
 昨夜寝る直前になってもやけに頭が冴えていて、これは2週間前に具合が悪くなったときもそうだったのだけど、現実と夢のあわいを漂う睡眠だった。おまけに2時くらいからおととが唸り初めてあまり眠れず。ようやく3時くらいに深い睡眠に入れたようだった。それで、5時30分のアラームに気づくもそのまま二度寝し、45分のアラームに救われたのだった。
 30分で仕度をして家を出て駅に行く途中のすき家へ。朝焼けで東の空が赤く染まっていた。去年の同じ日も、同じように赤く染まっていたことを思い出した。

 無事に終わった仕事は18時くらいに退勤となり、明日もまた同じような朝を過ごす。電車で『孤島の飛来人』をぐいぐいと読んだ。


いいなと思ったら応援しよう!