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漢字#5 「独擅場」と「独壇場」 誤用と許容

「独擅場」と「独壇場」

 いきなりですが問題。「独擅場」と「独壇場」、「ひとりだけが思うままに活躍するところ」の意味で使われる言葉はどちらでしょうか?



 正解は、"本来ならば"独擅場です。こちらは「どくせんじょう」と読みます。しかし、日常生活では独壇場(どくだんじょう)という言葉の方が良く耳にするのではないでしょうか。

 それもそのはず、現在では独壇場という言葉も認められてきており、NHKの放送でも独擅場ではなく独壇場を使うとされています。

誤用と許容

 ではなぜ「独壇場」という本来誤用であった言葉が許容されていったのでしょうか?そもそも擅(せん)の字が壇(だん)と読み間違われたことによって誤用が広まっていったのですが、まずはそれぞれの漢字について見ていきます。

「擅」



独擅場に使われている「擅」という漢字は、訓読みでは「ほしいまま」と読みます。思いのままに振る舞うという意味です。

漢検 漢字辞典より

 こちらは常用漢字には含まれていない漢字で少し難しいですが、専門の「専」と近い意味だということを知ると「セン」と読みやすいかもしれません。

漢検 漢字辞典より

「壇」

一方で「」という漢字は「ほかより一段高くした台」という意味で、土壇場(どたんば)、花壇(かだん)などの熟語があります。

漢検 漢字辞典より

 こちらも普段書くことのあまりない漢字かもしれませんが、一応漢検3級(中学卒業程度)の常用漢字になります。

 二つの違いは手偏か土偏かという違いだけで、ぱっと見では間違えてしまいそうです。当たり前ですが、同じような見た目の漢字だし「独壇場」の方が使われているから、という理由で許容されてきたわけではありません。

 「擅」と「壇」の意味で比べてみると、それぞれ「ほしいまま」と「ほかより一段高くした台」で全く別の意味になりますが、「独擅場」と「独壇場」で比べると繋がりを感じられると思います。

 独擅場を一文字ずつ分解して考えると、「独り」+「ほしいまま」+「場所」となるので、「ひとり思いどおりに振る舞うことができる場所」と解釈することができます。

 一方で、独壇場も同様に分解してみると、「独り」+「ほかより一段高くした台」+「場所」となるので、「ひとり舞台」と解釈できると思います。

 「擅」が「壇」の字に置き換わることで、「ほしいまま」という意味合いは薄れてしまいますが、「ひとり舞台」という解釈をすると「擅」のニュアンスも暗示されているように思えます。

 こうした意味的つながりによって誤用も許容されていったのでしょう。

 また「擅」の字が常用漢字に含まれていないために、活字メディアでは「独擅場」のことは「独せん場」と混ぜ書きしなければいけません。

「独壇場」という言葉を使えば、ルビも混ぜ書きも必要なくなるので、独擅場が使われなくなってきたのも自然の出来事だったのでしょう。

(混ぜ書き…もともとは漢字で書いていた熟語の一部を仮名で書くこと。私は混ぜ書き反対派ですが…また後日。)


 正しい言葉、許容される言葉は時代と共に変化していくし、それで全く問題ないと思います。

 ですが、本来使われてきた言葉を知り、何故今の言葉が許容されてきたのかまで目を向けると、その言葉ひとつで見えてくる景色も変わり、言葉のチョイスの仕方も考えるようになると思います。

 私は「独擅場」と書かれていれば場を「ほしいまま」にしている「」に焦点がいくように感じますが、「独壇場」と書かれていれば「舞台」そのものに注目が移るように感じます。

 一方で明らかに誤用といえる言葉ももちろんあります。「おもむろに」という言葉は「ゆっくりと事を始めるさま」の事ですが、「急に」という意味で誤用されることが多いです。(マイノリティになってしまえばこうした言葉も変わってしまうかもしれませんが。)

 「おもむろに」という語感が「思いっきり」と近いイメージであることから誤用されるようですが、漢字で書いてみると「徐に」と書くので、少しイメージが変わるのではないでしょうか。徐行(じょこう)や徐々(じょじょ)にという言葉に使われる漢字です。こうした誤用には漢字の意味に気を付けるといいかもしません。

漢検 漢字辞典より


おまけ

 擅と壇でゲシュタルト崩壊しそうな記事でした。最後に全然関係ないおまけ、それに漢字表記あるんだみたいな書き問題です。

問題


1.事業に成功して【ホクソエ】む。
2.【トルストイ】の小説を読む。
3.【ミイラ】化するには条件がある。
4.【イビキ】が五月蝿くて寝れない。
5. おまえは今まで食った【パン】の枚数をおぼえているのか?








答え


1.北叟笑-む
2.杜翁
3.木乃伊
4.鼾
5.麺麭

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