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本屋さん、というのは口実で #本屋さん開店します

 地元の駅を降りて階段を上がってすぐのところに、小さな本屋さんが見える。ずっと昔からやっている本屋さんで、22時までやっているので仕事帰りによく立ち寄っていた。

本屋さんに立ち寄るのは、大体決まって残業がものすごく長引いたとか、シフトが遅番の時ばかりだった。本当はこんなことをしている場合じゃない。だってもうすぐ22時、さっさと家に帰って、ご飯を食べて、明日に備えて寝なくてはいけない。

というのは頭ではわかってはいるけれど、体はそうじゃない。おとなしい暗闇のなか、周りの空気を読まずにパキパキと明るくついた真っ白い蛍光灯は、何か面白いことがあるんじゃないかと思わせてくれる。

21時30分過ぎぐらいに地元の駅に着いて、「ちょっと一杯やっていくか」のごとく、「ちょっと雑誌でも見ていくか」と、まるで飲み屋さんに入る気分でその本屋さんにゆらゆらと入っていく。

異様に明るい店内に反して、どんな時も静かなトーンで淡々と「いらっしゃいませ」と迎えてくれる店員さんは、夜のお客の気持ちをちゃんと心得ているようだった。バーには入ったことがないけれど、まるでバーのマスターみたい。

本屋さんに行っても何をするわけでもない。少し新刊コーナーをチェックしたり、雑誌をパラパラめくってみたり、漫画コーナーや小説などを見たりして、店内をぐるりと一周する。

ああ、家に帰るのが面倒だなあ、と思っていたら、いよいよ閉店時間にちかづいて、現実がやってくる。いつまでもここにはおられへんねんな、と。明日がやってくるんやな、と。店員さんにハタキで追い出されるようなことはないけれど、あわてて欲しい本をレジに持っていく。

本屋さんを出た時は、帰りが遅くなってもいつもちょっといい気分だった。

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それがコロナが落ち着いた昨年あたりから、この本屋さんの営業時間が21時までに短縮されてしまった。

駅を降りて本屋さんのほうを見ても、あかりが消えている。ただ暗闇だけがぼんやりそこにたたずんでいる。立ち寄るところもないので、さっさと家に帰ってご飯を食べて、ああ明日がやってくると苛まされ、すごく遅めのお風呂に入って寝る生活。

生活としては正しいかもしれない。正しい選択。でもなんだかその正しさはひどくつまらないような気がする。

ごーごーいちがあるときー。ないときー。
あの肉まんのCMが頭の中をよぎった。

今思うとこの本屋さんにいる時間というのは、多分「今日も仕事しかしなかった」という罪悪感や、「帰って寝たらすぐに明日がやってくる」という現実をやわらげる時間だったのだと思う。

今日という1日が終わってほしくなくて、少しでも先延ばししたくて、本屋さんにちょっぴり助けを求めていたのかもしれない。


ただの末端の社員だけど、それでも末端は末端なりに業務を遂行しなければならず、(上司に嫌味を言われるとか、上司の的はずれな提案に素直にうなずくとか)何かからのそういった「正しい役割」から一旦距離をおいて、家に帰りたかった。


人は少なからず何かの「役割」をもっている。わたしは独り身なのでまだ少ないほうだとは思うけれど、家庭のある人は一体どれだけの役割を持っているのだろうか。またその役割に、どれだけの正しさを求められているのだろうか。

もし自分が本屋さんを開店するなら、そんなそれぞれの「正しい役割」をおろせる本屋さんを開店させられたらいいな、と思う。家でも職場でもない、ただの自分に戻る場所であってほしい。

①本屋さんとは口実である
本屋さんというのは口実で、本屋という名の「ぼーっとできる場所」をつくりたい。コンセプトは「あなたの『帰りたくない』に寄り添います。」


②縁側が自慢
ぼーっとできる、といえば縁側。本をゆっくり選んでいただいて、購入いただいたあと、飽きるまで縁側に座って本を楽しむことができる。縁側だけの利用も可(料金は別)。ここから見えるお庭は季節の花々が楽しめます。思う存分ゴロゴロしちゃってください。

開店時間は11時〜15時と18時〜22時の日が交互にあります 
日によって開店時間が違います。夜はちょっとしたライトアップなんかもしちゃったり。お昼と夜の縁側の違いや、幻想的な風景を是非楽しんでください。


③本は日替わりラインナップ
並んでいる本はお昼と夜で少し変わります。ハウツー本は置いていません。資格などの参考書も置いていません。小説はおいていますが少なめ。絵本、詩集、画集、写真集、楽譜、雑誌などを中心に置いています。ネットで普段たくさんの言葉を浴びているので、ちょっとここでは減らしてもいいんじゃないかな、と思います。本屋さんがこんなこというのもなんですが。


▼例えばこんな本を置いています



⑤感想文を是非参考にしてみてください
一部の壁が、感想文コーナーになっています。誰かのおすすめは、誰かの一期一会になるでしょう。読みたい本をこちらからも参考にしてください。また、是非、思い入れのある本を、誰かにおすすめしてみてください。皆さんの感想によって、本のラインナップも変えていこうと思います。


⑥コーヒーはメニューにありません
飲みもの・食べものもあります。飲みものは、緑茶、ほうじ茶、麦茶、黒豆茶、梅昆布茶、紅茶、ジュース各種。コーヒーは置いていません。
食べものは、おにぎり、チーズケーキをご用意しています。おにぎりの具は毎日違いますので、お楽しみに!


以上、大変ふわっとした感じになってしまったが、「あなたの『帰りたくない』に寄り添う本屋」をコンセプトに考えてみた。本が好きな人も嫌いな人も、大人も子ども、ちょっとしたオアシスになれたらいいな、という気持ちで妄想を膨らませている。


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▼今回こちらの素敵な企画に参加させていただきました。
ありがとうございました。


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ハナムラ  タケ子
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