#6『コンプレックス文化論』武田砂鉄著 〜ゆるり書評〜
引っ越しで先週はお休みを頂きました。
またペースを戻して参りますので、引き続きよろしくお願い致します。
今回取り上げるのは、
『コンプレックス文化論』武田砂鉄著
でございます。
著者である武田砂鉄さんのラジオ番組(毎週金曜日TBSラジオのアシタノカレッジ)を欠かさず聴いており、そこから新刊である本書に手を出した、というのがきっかけです。
まずは総評から。
【総評】
人生に必ずつきまとうコンプレックスというものこそが、実は新しいものを生み出すパワーの源泉となり得るのではないかを正面から、時には斜めから軽快に論じるユーモアの詰まった一冊。
この総評に至るポイントとしまして、
◆世界はどうやら他者との比較によって自身の立ち位置を知る、ということ。
◆何事もしつこく考える、ということ。
◆敢えて言わせてもらうなら。
ではゆるりと論じていきましょう。
◆世界はどうやら他者との比較によって自身の立ち位置を知る、ということ。
本書のテーマであるコンプレックスがいかにして生まれるのか、通して読んでいくと浮き彫りになってくる。それはコンプレックスとは自分自身と他者の比較によって現出するということだ。周りの人より髪が薄くなってきている。周りの人より身長が低い。周りの人よりお金持ちだ。といった具合にコンプレックスと呼ばれるものの尺度が周囲の他者となっていることがよくわかる。
そうした本来であれば目をそらしがちなコンプレックスを、様々な言葉を用いて面白くも徹底的に向き合う姿勢で書かれているのが本書である。そしてコンプレックスにより発現する感情が新たなものを生み出すエネルギーとなり得ることをしっかり工程してくれるのである。できれば触れられたくないと思う部分があったとしても、まず一度読んで頂きたい。きっと気になるコンプレックスと上手に向き合うヒントが潜んでいるはずだ。
◆何事もしつこく考える、ということ。
私自身、読み進めて感じていたのはとにかくしつこいということだ。これは褒め言葉である。事実、巻末のジェーンスーさんとの対談でもしつこいとの感想が出てきて腑に落ちた。そのしつこさとは何か。どんなコンプレックスを論じるにも膨大な引用や実際の経験や思い出を、五月雨式に出しては論を加速させていく。さらに構成として必ずインタビューが挟まれているのだが、どのような相手に対しても言葉を変えながら徹底的にコンプレックスの先にある何かを掴みにかかる。
この姿勢こそが本書の面白みの部分を担保すると同時に、何かに対して深く考察していく際にとても重要な要素であることがよくわかる。但しそのことがわかっていながら、やはりしつこいと感じてします。読み心地は人により大きく異なるかと思うが、できればそんなしつこい部分を適度に味わって頂きながらその思考に乗っかって楽しむくらいがちょうど良いかと思う。
◆敢えて言わせてもらうなら。
どうしてもコンプレックスの話というのは、不快と感じられる表現や一方的な見方がベースとなっている為、読者によっては不快に感じられるだろうなと感じる。まずは目次をしっかり読んで頂くことをおすすめする。1テーマごとに完結した内容となっているので、どうしても読み進める気持ちにならないのであれば飛ばして読んで頂くのも一つの手とは思う。それだけコンプレックスというのは厄介なものだと改めて感じたのも事実だ。
そしてもう一つ注意して頂きたいのは、コンプレックスとなる事柄を決して全肯定する内容では無いということだ。私自身はそのスタンスは慧眼かと思うが、カジュアルな装丁からするとしっかり向き合う内容となっているので、そこは決して期待値を高くしすぎないことをおすすめする。
久しぶりに書いてみたが、やはり文章は難しいものだ。しっかり続けていかねばと再認識した。
色々と述べてきたが、まずは手に取って気になる内容から読み始めて頂ければきっと楽しめる一冊であるのは間違いない。
では、次回乞うご期待。
yururi
※作品情報
タイトル:『コンプレックス文化論』
著者:武田砂鉄
出版元:文春文庫
価格:税込902円
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