死んでしまいたいときには下を見ろ
ぼくがSNSに投稿を始めたのは2019年だったんだけど、やろうかどうしようか迷っている時に最後に背中を押してくれたできごとがあった。それがこの事件だった。
生活に行き詰まったオーバードクターが大学の研究室で焼身自殺したのだ。
ぼくも大学の世界を捨てて娑婆に出たタイプなので、かれの行き詰まり感がよくわかる。だから、自分のようなものが元気に生きている様子を見せることにも意味があるのではないかと思ったのが最後の一押しになった。
ポスドクはつらいよ
オーバードクターとは、大学院博士課程を修了した後で常勤の職を得られず非常勤講師を転々とする人のことで、みな、常勤講師の口を得ようとがんばっているが、困窮する人々がおおい。
派遣労働者とにているけど、派遣よりも過酷な点がいくつかある。それは
の3点だ。かんたんに説明しよう。
①「食うための仕事」に全力を出せない。
論文を書いて業績を上げなければ常勤の道は遠のくので、食うために働いてばかりもいられない。このあたりは、売れないお笑い芸人に近いだろう。バイトに精を出すより、ネタを増やし、練習しなければ成功が遠のくという二足の草鞋だ。
そのうえでポスドクが芸人より過酷な点は、
②多額の奨学金の返済を迫られている
こと。
博士後期課程まで行けば、ほとんどの人は奨学金を借りて生活しており、生活苦の上にその返済も迫られる。
さらにもうひとつの致命的な弱点があって
③とんでもない世間知らず
だということ。
20代~30代の貴重な時期を、学部4年、修士2年、博士3年と、最短でも9年間、留年すればもっと長い時間を、大学という閉鎖空間ですごしている。
この人のばあいは、26歳で修士課程に入り、38歳で退学しているので、実に12年間。学部の4年を入れれば、計16年間の若い時期を「大学という名のムショ」で懲役としてすごしてしまったので、世間のことを驚くほど知らない。
45歳で専門学校の非常勤の雇止めにあい、その後は肉体労働で食いつないそうだが、やがてホームレスになり、立て壊し予定の研究棟にすみ着いた。しかし九大からの退去要請を受け、研究室で焼身自殺を遂げた。
「なんでそこまで追い詰められるのか」と思うかもしれないが、大学で38歳までひたすら憲法学をやってしまうと、実社会ではほぼ戦力にならない。自分でもそれがわかっているから、先行きを絶望して研究室で焼身してしまったのだろう。
採用か死か
しかしこのように
と追い詰められるのは、ブラック企業に就職した若者が
と追い詰められるのと似ている。
ごく優秀な人をのぞく大学の先生のほとんどは、こういう視野狭窄に追い込まれており、大学にぶら下がる以外の生き方ができないと思い込んでいる。
しかし娑婆というものは、かれらが思っているほど厳しいところじゃないのである。そりゃ厳しいところもあるにはあるが、頭を下げていれば何とかなるし、焼身自殺を迫るほどではない。
世間はチョロい
おもいきって打って出れば生きる道はいくらでもあるのだが、38歳まで大学にこもっているとそのことすらわからなくなる。ポスドクが世間に出る恐怖感は引きこもりに近いのではないか。
ぼくにもそれはあったんだけど、いざやってみれば大したことなかったのでいま、そういう境遇にいる人にいいたい。
世間なんかチョロいのだ。人生なんかどうにでもなる。だからさっさと出てこいよ。ジュンク堂書店で自己啓発本を10冊も立ち読みすれば娑婆なんかどうにでもなる。