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決して語らない男

人はなにを言うかよりもなにを言わないかの方が、その人の本当の姿をさらしている。なにもいわない以上、その「いわないこと」で注目を集めることはできない。だから言わないことで承認欲求が満たされることはない。

「文句があるなら言えばいい」と思うかもしれない。しかし、言うことで事態が悪化するケースは多い。たとえば、かつて富士の青木ヶ原樹海では、毎年1回自殺者の一斉捜索が行われ、マスコミがそれを報じていた。しかし、一斉捜索がスタートして以降、青木ヶ原珠海での自殺者は増加し始めた。だから今では一斉捜索は行われておらずマスコミも沈黙している。

仮にいま人気ユーチューバーが富士の青木ヶ原樹海でロケをし、「みなさん決して自殺しないでください!」とフォロワーに訴えたとしよう。そうすると樹海での自殺者は増えてしまうはずだ。

そうやってアピールして再生回数を稼ぐユーチューバーがもしいたならば、それは他人の命を救っているのではなくて、他人の命を自分の収入に替えているのである。

本気で自殺を防ぎたければ沈黙するしかない。しかし、言わないということは、それで注目を集めることはできないということだ。「そういや、あのユーチューバーは自殺については一切触れないな~」などと視聴者に気づいてもらうことはできない。沈黙によって再生回数を稼ぐことはできないし、だれにもほめてもらえない。

それでも自殺についてなにも語らないユーチューバーがいたとすれば、その人は「たとえ再生回数が増えなくてもいいから自殺者がへってほしい」と本当に願っているということだ。自殺にかぎらず、ぼくはこういう人を信用する。

今日はそういう沈黙の一つについて、あえて気づいて、語って、ほめてみたい。

これを読んでくれている人でゲーム(ビデオゲーム)をやる人はほとんどいないだろう。ぼくはちょこっとやるんだけど、やらない人の気持ちもわかることはわかる。あれは子どもの遊びだ。

じっさい、ほとんどのゲームは小学5年生でもあそべるように設計されていると聞いたことがある。大人が小学5年生と張り合っても仕方がない。大人
には大人の遊び方がある。たとえば、

銀座のしゃれたバーでシングルモルトを傾ける。
雪の南禅寺で湯豆腐をたべる。
彼女と露天風呂付の客室にしけこんでイチャイチャするなど。

しかし、気合の入ったゲームファンの声を聞いてみると、どうやらゲームは小学校5年生でもやれるようなところがイイのだという。童心に帰ることができるのがゲームの良さなのだ。

ぼくは、レトロゲーム・コレクター・ユーチューバーのメタルジーザス氏のファンなんだけどかれの動画を見ているとそういうことがわかる。

このジーザス氏は、彼は過去10年以上にわたって毎週数本のゲーム動画をアップしつづけてきた人だ。これだけ膨大な動画をつくりつづければ、当然ネタ切れになることもあるだろう。

でも、いくらネタ切れしたとしても彼がぜったいにとりあげないタイプのゲームがあるということに最近気づいた。トム・クランシーシリーズだ。

トム・クランシーは、アメリカのベストセラー軍事小説家で、『レッドオクトーバーを追え!』、『今そこにある危機』、『パトリオットゲーム』などなど、数々の映画化もされている。

ゲームの世界でも大きな勢力を形作っており、90年代から膨大な数のトム・クランシーシリーズが発売されている。名作、傑作も多く、熱狂的なファンも多い。でもジーザス氏はぜったいにとりあげない。

ぼくも、こないだXboxでトム・クランシーシリーズのセールがあったのでためしに買ってみた。最高傑作と呼ばれている『スプリンターセル ブラックリスト』

ちょっとやってみた感想としては

・国際情勢の知識が必要
・テロリストが非常に残虐
・システムが複雑

つまり、「小学五年生にはぜったいムリ」な大人のゲームだった。

ちなみにジーザス氏は、ある動画の中で別の戦争ゲームを取り上げてほめていたことがある。トム・クランシーシリーズではなく「SOCOM]というシリーズだけど、彼は「このゲームにはユーモアがあるから好きだ。じぶんはあまりリアルな戦争ゲームは好きではない」と語っていた。

それだけ気に入らないのなら「モノ申す系」ユーチューバーのように批判を繰り広げて再生回数を稼げばいいわけだが、。かれはトムクランシーシリーズを批判したこともないし、名前すら挙げたことがない。一貫して沈黙を守っている。

彼の動画は子どもだって見ているだろうし、そういうものは見せたくないのだろう。また、トム・クランシーシリーズのファンが多いのもわかっているので、ゲーム業界全体を愛している彼としては内輪もめはしたくないのだ思う。

アメリカでは、ジーザス氏が動画の影響力を使ってレトロゲームの値段を釣り上げて荒稼ぎしているなどとうわさしている人がいるけど、この一貫した姿勢を見ている限り、そんなケチなことをする人には思えない。

人は何を言うかよりも何を言わないかの方がその人の本当の姿をさらしている。こういう人はどの業界でも信用していい。

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