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才能があれば人格は劣っていてもいい

すばらしい才能の持ち主がかならずしも人格者だとは限らない。かのアイザック・ニュートンは科学者としてはスーパーマンだったが、半面、出世欲のあるアクの強い人物でもあった。

大学教授よりも造幣局長になることを選び、汚職を摘発して死刑に追い込んだり、投機でおおもうけしたり大損したりしている。Wikipediaには、彼が統合失調症ではなかったかという説も紹介されていた。

まあ彼にかぎらず、大学の先生でアタマのイイ人は星の数ほどいるんだけどな。。。などということはぼくには関係ないことだ。

さて、ぼくが好きな映画監督には性格が悪いことで有名な人が多い。こないだもちょろっと書いたけど溝口健二という人もその一人だ。

いま手元に河出書房新社の『人生読本 映画』というエッセイ集がある。1980年発行という"昭和な一冊"なのだが、とてもいい本だ。

武田泰淳の映画論。三島由紀夫のジェームズディーン論、遠藤周作の『ミクロの決死圏』論、今村昌平の川島雄三論、島尾敏夫のフェリーニ論、谷川俊太郎のロベール・ブレッソン論などなど、貴重な評論がこれでもかと詰まっている。星新一と小松左京が『2001年宇宙の旅』を語る鼎談や、淀川長治と吉行淳之介が『太陽がいっぱい』を語る対談もあり、手塚治虫のマンガも入っている。

いまとなっては吉行淳之介全集やら武田泰淳全集やら、いずれも全集本でしか読めない小品ばかりであり、よくこれだけ集めたものだ。

なぜぼくがこの本を持っているかと言うと高校時代に背伸びをして買った。値段はともかく(880円)、内容が高校生にはむずかしすぎた。しかし、背伸びしたがる年頃でもあり、書店で数日迷った末に思い切って買ったのだがいまではぼくの財産になっている。あのときの自分をほめてやりたいな。

しかし、今アマゾンでは古本が206円で出ているのである。表紙写真もないし、レビューも上がっていない。だれも気に留めていないようだが、映画好きが買って損することのない秘宝です。ただし3冊しか出ていません。

この本の中に、新藤兼人監督が溝口健二について書いた「監督 溝口流」というエッセイがありこれがまたおもしろいのだ。新藤監督は溝口監督を師とあおぐ人である。にもかかわらず悪口しか書いていない。

映画会社とウラ取引したり、キャスティングを入れ替えるために女優をいじめ抜いたり、自分の失態を大道具係におしつけたり、いまなら訴えられそうなことばかりやっており、「名誉とゼニには異様な執着を持った」人だったことがこれでもかと暴露されている。ただし、読み終わった人は溝口監督をキライにはならないのである。

それは、新藤監督が溝口監督を強烈に尊敬していることが言葉のはしばしから伝わってくるからだ。「溝口作品が偉大であることなどわかりきっているのでいちいち説明する必要などない」とおもっているらしい。こういう深い愛憎を知ることで、ぼくも溝口作品の味わいが深まるので読めてうれしい。

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