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好きな人の近くにいれば好きになる
「好きこそ物の上手なれ」という言い方があるけど、「好き」には先天的なものと、後天的なモノがあると思う。
コトバンクで「好きこそ物の上手なれ」を検索すると、高村光雲の言葉が載っている。高村光雲は、詩人の高村光太郎のお父さんで、有名な彫刻家である。
私は、生まれつきか、鋸や鑿のみなどをもって木片を切ったり、削ったりすることが好きで、よく一日そんなことに気を取られて、近所の子供たちと悪戯いたずらをして遊ぶことも忘れているというような風であった
こういわれれば、なるほどと思う。生まれつき遊ぶことも忘れて木を削るような人が偉大な彫刻家になるのかもしれないし、こういうのが「先天的な好き」なのだろう。
千日回峰行を成就した塩沼亮大阿闍梨は、子どものころにテレビで千日回峰行の番組を見て「これだ」と思ったのだそうだが、同じようなものだ。
そして、こういうのはだれでもなにかあるはずで、ちなみにぼく自身は、昨日の記事の中で「宇宙の中に銀河系があり、その中に太陽系があり・・」みたいなことを書いたけど、あれは小学校の頃に、毎日のようにくりかえし考えていたことなのである。
あれには続きがあって、
地球の中に日本があり、日本の中に四国があり(中略)その○○町何番地に自分がいる
というところまでたどってから逆に、「自分はいま○○町何番地にたっていて、それは○○市の中にあり・・(中略)・・太陽系は銀河系の中にあり、銀河は宇宙の中にある」というところまで逆にたどる
何が楽しいのかと言われたら困るのだが、子どもにとってはそうやって考えるのが楽しかったわけで、生まれつき好きだったとしか言えない。いまだに書いているくらいだから、その「好き」は、生涯つきまとう。
後天的な好き
一方、後天的な好きとは、好きだから繰り返すのではなく、繰り返しているうちに好きになっていくようなもののことだ。ある程度、年をとってから「運命的な好きに出会う」などと言うドラマチックなことはあまりない。
そりゃあ高村光雲が高校生になるまで鑿(のみ)というものを見たことがなくて、ある日、学校の技術家庭科室でそれに出会ったとしたら、
さわった瞬間、脳天に雷が落ちた
みたいな気分になったかもしれないが、そういうことはまれである。
好きな人の近くにいれば好きになる
ぼくはここ数年、時事問題というのを好きになろうとしているのだが、なかなかうまくいかなかった。
大きな理由として、時事問題そのものより、それを声高に語る人を苦手に感じていた。時事問題で争う人の多くが、なにかしら「心理的なすり替え」をやっているように見えて仕方がないからだ。
最近、岸田首相の暗殺未遂で話題になっている木村容疑者を取り上げればわかりやすいだろう。精神科医の片田珠美氏によれば、世の中には「好訴者」というタイプ人がいて、木村容疑者もそれではないかと指摘している。
「好訴者」とは(中略)人生の全精力をひたすら告発、闘争、訴訟などに捧げる人を指す。このタイプは、独善的な正義感にもとづいて、自身の個人的価値観に固執し、ひたすら告発と訴訟を展開する。
片田氏によれば、「好訴者」が訴訟を繰り返すのは自己愛の究極の表れなのだそうだ。「好訴者」は自分が特別な人間であるという
幼児的万能感を抱えたまま年齢だけ重ね、成人してからも「誇大自己」が丸出しになっているような人、つまり強い自己愛の持ち主にしばしば認められる。
天下国家を語る人にはわりと「誇大自己が丸出しになっている」タイプが多い。そりゃあ、昼飯を牛丼にするかカツ丼にするかを語るより、ウクライナとロシアの行く末を語っているほうが「大きな自分」に酔えるのだろうが、ぼくはそういう人は苦手である。
本当に好きな人
ただし、本当に時事問題が好きな人もいて、かれらは複雑な国際関係を織りなす細かな事実を追いかけていくのが好きな、時事マニアである。そういう人たちの特徴として、幼児的な自己アピールをやらないし、人と争わない。牛丼のタレを語るように、ゴラン高原の石油利権を語る。
こういう風に言うと「けしからん!」とすぐにおこりだすひとがいるけど、そもそもそうやって「怒りドリブン」で国家やディープステートやNHKを語る人こそが「誇大自己」丸出しの輩なのであって、日々のストレスを天下国家に投影している人である。
先天的なマニアの語る時事問題に接すると、なかなかいいものだと感じる。映画や小説を語るように、アメリカ大統領選を語るのも楽しそうだ。
どんな分野にも「先天的に好き」でやっている人がいて、そう言う人に囲まれていれば僕は後天的に何でも好きになれそうな気がする。