【連載第3回/全15回】【「なぜヴァイオレットの義手は動くのか?」/本当はエロくて怖い『劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン』】
※▼第Ⅱ章.残酷篇
第1節.なぜユリスは死ぬのか?〈分身するキャラクターたち〉
・第ⅰ項.ヴァイオレットはテイラー・バートレットの分身である
・第ⅱ項.テイラーとリュカは〈分身関係〉にある
・第ⅲ項.ヴァイオレットとリュカは〈分身関係〉にある
・第ⅳ項.テイラーとリュカはヴァイオレットの分身である
※※この全15回の連載記事投稿は【10万字一挙版/「なぜヴァイオレットの義手は動くのか?」を解く最低限の魔法のスペル/「感動した、泣いた」で終わらせないために/本当はエロくて怖い『劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン』/あるいは隠れたる神と奇蹟の映画/検索ワード:批評と考察】の分割連載版となります。
記事の内容は軽微な加筆修正以外に変更はありません。
▼第Ⅱ章.残酷篇
ここでは「第Ⅰ章.エロス篇」のエロスとともに「第Ⅲ章.奇蹟編」の奇蹟を考える上で必須の構成要素である「残酷」を見ていこう。
結論から云おう。
『劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン』において、「残酷」としてもたらされるのは〈ユリスの死〉である。
どういうことか?
それは〈ギルベルトの生存〉こそがユリスを死に至らしめたからである。
ユリスはギルベルトが戦火から生還し、ヴァイオレットと再会するために〈犠牲に供される〉のである。
あまりに突拍子もなくにわかに理解し難いかもしれない。(本稿にたびたび提示される一見飛躍した修辞は、だんだんとその意味が明らかになるのでご容赦願いたい。)
ここではまず、ユリスの死は絶対に必要なものではなく、他の人物の別のエピソードであっても本作は成り立つ、というものではないことを心に留めておいてもらいたい。
ユリスの死は『劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン』にとって非常に重要な構造的な意味を持っているマイルストーンなのである。
決定的に重要なのは絶対的前提として「ユリスが死ぬのはなぜなのか?」に思考を巡らせて解き明かすことである。
そこから何がわかるか?何が新たにもたらされるか?
それを問題としたいのである。
第1節.なぜユリスは死ぬのか?〈分身するキャラクターたち〉
それではまずは『劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン』におけるキャラクターの重ね合わせである〈分身関係〉と〈予示と反復〉の構造について考えてみよう。
ここで触れるキャラクターを列挙しよう。
本作だけでなく『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 - 永遠と自動手記人形 -』からもふたり登場願おう。
ヴァイオレット / テイラー・バートレット / リュカ
ギルベルト / イザベラ・ヨーク / ユリス
以上の6名である。
そして上段の3名がともに〈予示と反復〉の構造と〈分身関係〉にあり、下段の3名も同様である。
これより一人ひとりどのように〈分身関係〉になっているかの根拠を述べていく。
これらは相互参照する再帰的循環関係になっており、誰が誰の分身であるかの根拠を列挙をどこからはじめるか、どの順番とするかは本来ランダムである。
2組3名づつの対応関係は徐々にその結合度合いがましていく構造になっているのがわかってくるだろう。
ゆえにひとつひとつは些細な類似関係であるものもある。
(※念の為断っておくが、ここでいう〈分身関係〉とはあくまでもキャラクターと作品間の類似を外在的な関係として抽象したものであり、キャラクターたちが内在的に、つまりキャラクター同士がそう認識し得る、しているといったようなものではもちろんない。)
・第ⅰ項.ヴァイオレットはテイラー・バートレットの分身である
【①】ヴァイオレットもテイラーも戦争孤児であり、ともに大切な存在となるギルベルトとイザベラ(エイミー)にそれぞれ育てられた過去がある。
さらに両組ともに戦争が原因で離れ離れになる点も共通している。
【②】『劇場版』でヴァイオレットはギルベルトに手紙を書きメッセージを伝える。
『外伝』のテイラーも同様にイザベラ・ヨークにヴァイオレットの助けを借りてメッセージを伝える。
【③】ヴァイオレットもテイラーもともにメッセージを伝えるための障害があるがそれを乗り越える。
【④】テイラーは後にヴァイオレットと同じエヴァーガーデン姓となる。
【⑤】『外伝』でテイラーはベネディクトがイザベラに手紙を渡すシークエンスでイザベラに逢うことなく、その様子を花々の中から見守る。
そこでヴァイオレットの色である紫の花とイザベラを象徴する白薔薇に囲まれるカットがある。(白薔薇は薔薇戦争においてランカスター家の赤薔薇に対してのヨーク家のシンボルである。)(以下画像を参照)
(『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 永遠と自動手記人形 』Blu-rayより)
もしテイラーとヴァイオレットの〈分身関係〉が成立するのであればこの花の配色でテイラーとイザベラの関係を暗示していることになる。
これにより、後で見るようにもしギルベルトが白薔薇と関係があるイザベラと〈分身関係〉があれば、テイラーとイザベラを表す花々が間接的にヴァイオレットとギルベルトも表していることになる。
つまりここでは
テイラー ≒ヴァイオレット(紫の花)
(画像参照、テイラーはここではイザベラが白薔薇を表すので紫の花)
↕(手紙) ↓(手紙)
イザベラ(白薔薇)≒ギルベルト(ヴァイオレットとの関係から白薔薇)
(〈分身関係〉?)
(※もちろん通常ギルベルトの花は赤いブーゲンビリアである。)
(※以降矢印の記号はメッセージの送り手から送り先を示している。)
以上をヴァイオレット≒テイラーの〈分身関係〉の論拠とする。
・第ⅱ項.テイラーとリュカは〈分身関係〉にある
【①】この6名の関係式内ではテイラーとリュカの髪の色は類似している。
(以下画像を参照)
(『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』公式HPより)
【②】テイラーはまず手紙をイザベラから受け取る役割をにない、また成長して送り手にもなる。
リュカはヴァイオレットとテイラーとは逆に送り手ではなく、受け取る側であるが後述の「なぜユリスは死ぬのか?(分身するキャラクターたち)まとめ【①】メッセージの授受と分身関係」でその役割の位置の逆転の意味が説明される。そのため、ヴァイオレット≒テイラー≒リュカの分身関係は整うことになる。
以上をテイラー≒リュカの論拠とする。
・第ⅲ項.ヴァイオレットとリュカは〈分身関係〉にある
【①】ユリスの家族宛ての手紙を書き終えたヴァイオレットが、ユリスとリュカについての話をするシーンは、ギルベルトがヴァイオレットに逢えない理由を告白する〈予示〉になっている。
なぜか?
もしギルベルトとユリスの〈分身関係〉が成立すると、ヴァイオレットが〈予示〉としてユリスにギルベルトを重ね合わせて、いまだ生存を知り得ぬギルベルトに向かって語りかけているという構図になるためである。
よってこの場合、ユリスがギルベルトと入れ替わっているのだから、逆のヴァイオレットとリュカの置換も成立しえる。
だとするとここで不在のリュカがあらかじめヴァイオレットをとおしてユリスにコンタクトを訴え促しているという構図になる。
ここでヴァイオレットはユリスに「伝えたいことは出来る間に、伝えておく方が良いと思います。」と促す。
つまりこれはヴァイオレットがギルベルトにそう伝えているとともにリュカがユリスに云ってもいるということである。(以下の画像を参照)
(前掲書『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン STORYBOARD』p.75)
【②】ヴァイオレットがユリスの入院する病院から出るシーンで彼女はリュカと邂逅しかけるが、ドッペルゲンガーを避けるように果たされない。
そしてこのシーンでヴァイオレットは〈分身関係〉暗示するように夕焼けの光でオレンジに染まる。(※オレンジはテイラーとリュカの共通の髪の色であり象徴するカラーである。後述も参照。)(以下の画像を参照)
(前掲書『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン STORYBOARD』p.77)
(『劇場版 ヴァイオレット エヴァーガーデン』 入場者 特典 第3弾 35mm コマフィルム 筆者所有品を撮影)
このヴァイオレットとテイラーの出逢い損ないの意味とは「分身関係にある両者がメッセージを贈り合う関係にあるものと同時に同一の空間を占めることはない。また役割を重複するものが同時に存在することはないという法則」があるためである。
抽象的な表現となるためこれにどういう効果があるかを説明しよう。
つまりこれはいま物語の焦点がどこにあたっているかということを明確にするためである。そこがブレないための処置となる。
〈分身関係〉にあるものを同時に存在させるとその焦点がブレる。
また無駄な複雑化も防ぐ効果がある。
〈予示と反復〉構造はあらかじめ何らかの作品内(間)でのキャラクターの役割を暗示しているということであるからこれは必然的な措置である。
なお前段は4者の関係であり後段は2者関係を表している。
【①】の病院のシーンではユリスとヴァイオレットに焦点があたっている。
そしておもにユリス≒ギルベルトの〈分身関係〉と〈予示と反復〉が示されている。
よってユリスのいるところには当然〈分身関係〉になるギルベルトは登場しないし役割も重複しない。
そして、ヴァイオレットがいるのでその〈分身〉のリュカもここで登場してこないのである。(※【②】のケースは登場しかけることでより明確にそれを示している。)
もう少し詳しく説明しよう。
ここでヴァイオレットだけは特殊である。
なぜなら彼女だけは主人公であるため常にこの作品から退場することがないためである。
ゆえに手紙を書くという役割は彼女が陰に陽に常にその存在を彼女が占めている。
また彼女は代筆者としての役割を演じながらも常にギルベルトへの手紙を書くものであるという二重の役割をになう存在である。
しかし物語の構造として代筆と彼女自身の手紙の執筆は混在しないし、してはならないのである。
なぜ混在してはならないのだろうか?
もしこの段階でユリス≒ギルベルトとリュカ≒ヴァイオレットの4者2組の〈分身関係〉が映画内で場を占めるとヴァイオレット→ギルベルト、ユリス(ヴァイオレットの代筆)→リュカの2つの授受関係も混在してしまうからである。
よってまだここではユリス≒ギルベルトの〈分身関係〉だけに焦点が当たるようになっているのである。
つまりここはユリス≒ギルベルトと代筆者としてのヴァイオレットの役割が物語内を占めている段階である。
ヴァイオレットがリュカと邂逅しない理由はリュカ≒ヴァイオレットの〈分身関係〉の前景化を押し止めるためということになる。
これによりここでは〈分身関係〉がダブって存在することはない。
(※これはあくまで同一時空、同一シーンのみであることに注意してほしい)
【②】のヴァイオレットとリュカのすれ違いをもう一度かんたんに確認してみよう。
ヴァイオレット(≒リュカ)←ユリス≒ギルベルトの前者はそもそもヴァイオレットがリュカに会っていないのでこの〈分身関係〉は同時に同じ場所に存在していない。(よって件の法則は守られている。)
さらにリュカはわざわざ最低限存在が希薄になるように描写されている。
また『外伝』の以下のケースもより単純にそれが示されている。
(ヴァイオレット≒)テイラー⇔イザベラ
ヴァイオレットは両者に会っていてなおかつ両者の手紙も書いているが、3年の時間で隔てられている。
つまりヴァイオレットがイザベラの代筆者であるときはテイラーは3年後までヴァイオレットとの〈分身関係〉にはならないため、後段の「役割を重複するものが同時に存在することはない」のイザベラ→テイラーの2者関係のみとなり以上を満たしている。
そしてヴァイオレットがテイラーの代筆者である時点ではイザベラは3年の月日が彼女の行方を消しているため、ヴァイオレット≒テイラーの分身関係は未来でヴァイオレトがギルベルトに手紙を送るという〈予示〉になっているが、前段の「分身関係にある両者がメッセージを贈り合う関係にあるものと同時に同一の空間を占めることはない。」の4者関係を満たしているのである。
つまり
(ヴァイオレット)≒(テイラー)
↓ ↓
(ギルベルト) ≒(イザベラ)
以上の4者2組関係は全面化せず一方は常に隠れており前景化せずに暗示するという効果がある。
またこのあと確認するギルベルト≒イザベラ≒ユリスの〈分身関係〉であるが、ギルベルトが他の二人とそもそもそれぞれと同一作品、同一時空に存在せず、またこちらはギルベルト←ヴァイオレットが最後に残った関係性のため、このとき〈分身関係〉は一応の役割をすでに終えている。
テイラー⇔イザベラ、リュカ←ユリスという2組の〈分身関係〉の予行演習が最後のヴァイオレット→ギルベルトの〈予示と反復〉構造ということである。
【③】もし後述するギルベルトとユリスの〈分身関係〉が成立するとすれば、自動的に両者に対応するヴァイオレットとリュカの〈分身関係〉が成立する。
以上をヴァイオレット≒リュカの〈分身関係〉の論拠とするが、このふたりのケースは手紙の授受関係にあるヴァイオレット→ユリスのなかにヴァイオレットと〈分身関係〉にあるリュカがすんでのところで入り込んでしまいそうになるという例外的な事例といえよう。
・第ⅳ項.テイラーとリュカはヴァイオレットの分身である
【①】ヴァイオレットがはじめてユリスの病室に入った際、彼女を出迎える薔薇の色はオレンジである。
これはリュカの色であると同時にテイラーの色でもあり、それをヴァイオレットに重ね合わせるのを指示する符牒である。(このオレンジ色の薔薇ははすぐさま萎れた白薔薇へと挿し替えられる。)(※以下画像を参照)
(前掲書『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン STORYBOARD』p.50)
ヴァイオレット≒テイラー≒リュカの3者の〈分身関係〉の論拠は以上とするがこれまでの2者関係の論拠(ユリスの病院を出るヴァイオレットを染め上げるオレンジの光など)から推移的に示されているだろう。
(連載第4回【第1節.なぜユリスは死ぬのか?〈分身するキャラクターたち〉・第ⅴ項.ギルベルトはイザベラ・ヨークの分身である】に続く)
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