【レビュー】『バリキャリと新卒』の推せるポイント
最近は、大人の女性を主人公にした百合漫画の人気も高まっていますが、「大人の女」のイメージが90年代トレンディードラマで止まってるような作品もいまだに多くて、この世界はまだ女性を生き生きと描くことに慣れていないのかも、と思ったりします。
そんな中、現代の働く女性のリアルかつポリシーある描写で、注目が集まっている百合漫画が、『バリキャリと新卒』です。
今回はそんな『バリキャリと新卒』の推せるポイントをご紹介します!
「風俗で働いていた女性」のフラットな描き方
主人公の森野さんは大学生時代にレズビアンヘルスで働いていて、卒業後は店をやめて電気関係の商社に就職した新入社員。その会社の先輩が、店の客としてちょっといい感じになっていた新納さんだったことから始まるストーリーです。
まず良いのが、森野さんに風俗の経歴があることに、過剰な意味付けをしていないこと。後ろ暗いものとして扱ってもいないし、性に奔放な肉食キャラでもないし、何か事情があって働いていたのかどうかも、特段言及されません。
ただ、働いていたという事実がそのままあるだけ。風俗業従事者を好奇心や感動ストーリーで搾取しない表現だと思います。
「男同士っていいよね」の裏側
森野さんが就職した会社は、日本企業にいまだに結構ありがちなセクハラや女性差別がまあてんこもりで、そのたびに疑問を呈していくジェンダー学専攻の森野さんに、どんどん共感のエールを送りたくなっていきます。
特にそのリアルさが出色だったのは、「男同士の絆」(ホモソーシャル)についてのエピソード。
部下への当たりも柔らかく、人望の厚い男性の部長。バリキャリとして会社の男社会に馴染んでいる新納さんも部長を信頼している。しかし森野さんは、そんな部長の細かな差別的言動が気になっています。
ある時、仕事も不真面目でセクハラ連発する酷い男性社員のミスが発覚すると、部長は彼のミスをカバーするために奔走。すると、とある同僚女性が、森野さんに言うのです。
「なんかいいよね男同士ってさ」
「単純でドロドロしてないじゃない」
はー!胸糞!!!
こういう「男同士は女と違ってドロドロしてない」説、むっちゃ嫌いなんですよね!
森野さんも冷ややかな目で、虚しい気持ちを抱きます。
しかし、森野さんにミスの疑いがかかると、部長はなんの根拠もなく不真面目な男性社員の言い分を信じ、森野さんのミスと断定する。「男同士っていいよね」と言われるところの「よさ」って何なんですかねといわんばかりの展開です。
どんなに不真面目で不誠実な男でも信じてやることが、部長の中では美談になる。新卒の女性社員を信じることは美談にならない。単純で、ドロドロしてなくていいですね。
そんな森野さんの状況を目の当たりにして、新納さんもとうとう動き出します。少しずつ森野さんによって剥がされてきたバリキャリの名誉男性意識の底から、本当の新納さんの怒りが湧き上がってきます。
「男同士っていいよね」の裏側で黒く塗りつぶされる女という現実すらも、百合漫画というジャンルの中で描かれてしまった!それでこそ新しい時代ですよ!
MeToo!
ほかにも、異性・同性に限らず合意のない行為は許されないとか、作者のポリシーを感じさせるエピソードが満載です。
百合はあくまでもエンタメであり恋愛ものなのに、ポリコレとか持ち込まなくてもいいじゃん、と思う人もいるかもしれません。
しかしリアルに女として生きてて、やっぱりまだまだ女の人は生きづらい世の中ですよ。じゃなきゃMeTooとかあんなに盛り上がりません。(作中で森野さんも「ME TOO!」と叫んでいるシーンがありますので、そこもぜひご注目を。)
そういう中での助け合いがまずできなかったら、恋愛どころじゃないっすよ。(まあ人間は愚かなので助け合ってくれない相手と恋愛してる人も異性同性問わず多いですがw)
だからこそ、こういう作品がどんどん出てきて、次世代の百合ニューウェーブになってほしい!と私は願ってやみません。(「いません」ではなく)
文・宇井彩野
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