ハリポタ卒論 1.2 -1.3
1.2 作者紹介
作者のローリングについても触れておかねばならない。『ハリー・ポッターと賢者の石』を書くあいだ、彼女が乳飲み子を抱えたシングルマザーであったというエピソードは有名である。『ハリー・ポッター』シリーズは彼女の処女作である。幼い頃から創作活動が好きだったローリングは、趣味として多くの小説を書いてきた。しかし正式に出版された小説は『ハリー・ポッター』シリーズが最初である。ローリングの稀有な特徴のひとつに、自分の筆者生活を小説に反映させないということが挙げられる。作品から作者の素顔を垣間見ることが困難なのである。インタビューや伝記などで繰り返し語る母の死などの重要なエピソードについても、直接的に物語中で描かれることはない。
1.3 映画について
『ハリー・ポッター』シリーズについて語る際、映画を無視して通ることは出来ないだろう。冒頭でも述べたとおり映画も世界的ヒットを納め、原作の認知度向上にも寄与した。全七巻すべてが映画化されているが、最終巻の第七巻だけは前半と後半の二本に分割された。巻によって監督や作曲家など主要製作陣が異なるのが大きな特徴である。第一巻、第二巻はストーリーや衣装、人物造形などが比較的原作に忠実に作られており、王道のファンタジームービーといえる。第三巻以降はストーリーも長く複雑になるため、原作から離れた映画独自の解釈やアレンジが散見される。ストーリーだけでなく、衣装やカメラワークも前二作とは大きく異なる。また、本論の内容に関わる事項として、原作と映画の違いの中で特に留意しておきたい点がある。それは、登場人物が死ぬ際の描写、特に遺体の描写である。原作では、人が死ねば死体は残るし、仲間の遺体を自らの手で埋葬したり葬儀を行ったりする場面も描かれている。映画版では、呪文をかけられて死んだ人間は、体が紙吹雪のように粉々になって消えていくことがある。これは映画版のみの演出であり原作とは異なる。遺体に関する描写と同様に、生死に関するルールは明確である。「ファンタジー」であるとはいえ、われわれの住む現実世界と同じく、生きとし生けるものには寿命があるし、一度死んでしまったものは二度と生き返らない。このことに関しては、インタビューにおいてはっきりと語っている。1C.S.ルイス(Clive Staples Lewis)の小説『ライオンと魔女』(The Lion, the Witch and the Wardrobe)に登場するアスラン(Aslan)やトールキン(John Ronald Reuel Tolkien)による長編小説『指輪物語』(The Lord of the Rings)に出てくるガンダルフ(Gandalf)のように、復活を遂げることはないのである。