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ひたむきに真実を追い求めるピップにきゅんとなる『自由研究には向かない殺人』登場人物紹介と感想

『自由研究には向かない殺人』
ホリー・ジャクソン
服部京子 訳
東京創元社

*第1位〈ハヤカワ・ミステリマガジン〉ミステリが読みたい! 海外篇
*第2位『このミステリーがすごい! 2022年版』海外編 
*第2位〈週刊文春〉2021ミステリーベスト10 海外部門
*第2位『2022本格ミステリ・ベスト10』海外篇
と高い評価を受けている作品。
3部作の第1作目となる。

大学進学を目指すピップは高校三年生の自由研究の課題として、過去に自分の住む町で起きた少女行方不明事件の真犯人探しを選ぶ。
5年前アンディという名の少女が行方不明となり、犯人とされたアンディの交際相手の少年が自殺することで事件の幕引きとされた。アンディはいまだに行方不明。犯人とされた少年サルは幼い頃優しくしてくれた彼女のヒーローだった。サルが犯人のはずはないと信じるピップは、5年前の当時を知る人々へインタビューを始める。

この登場人物相関図は個人の趣味で作成したものです。 オフィシャルなものではありません。

ピップは17歳ではあるが、デジタルツールの使い方にも長けており非常に賢い子。サルの弟ラヴィとともに調査をする過程で、犯人の家族として差別されてきたため心を閉ざしていたラヴィもピップを信頼するようになり、2人の若者らしいじゃれあいにきゅんとなる。

田舎町の人間関係を掘り下げていくところは『ツインピークス』的な雰囲気もあり、犯人探しとは別に楽しめる。ピップは義父がアフリカ系アメリカ人、父親ちがいの弟も見た目は黒人に近く、家族仲は非常に良いがそのことを外野にとやかく言われることもある。ラヴィ一家はインド系でサルが加害者として扱われたことで、この5年間は村八分状態。ラヴィは退学し町の外で働いている。子供たちだけでの誰かの家でのパーティや町にひそむドラッグの売人、Facebookの交友関係とまさに現代アメリカのティーンエイジャーといった描写が続く。

かなり危ない橋を渡りながらも意外な犯人へとたどりつくピップ。その結末は苦く、生半可な気持ちで真実を掘り起こすことの危うさも感じるが、前向きなラスト。そして、すぐ次作『優等生は探偵に向かない』に続いていく。

現在、第2部『優等生は探偵に向かない』まで刊行されており、最終作となる第3部は2023年刊行予定とのこと。『優等生は探偵に向かない』は『自由研究には向かない殺人』の本当に直後から始まり、登場人物もほぼ継続。完全に地続きのストーリーなのでぜひ第1作目から。


以下『自由研究には向かない殺人』と『優等生は探偵に向かない』のネタバレを含みます。未読の方はご注意ください。


非常に苦い結末となってしまった『自由研究には向かない殺人』。悪意ゆえの殺人ではなく不幸が積み重なった結果というのが悲しく、また犯人がわかっても死者は戻らない。アンディについては自業自得という捉え方もあるだろうが、彼女とても家庭内DVの被害者であり保護されるべき存在であった。長らく加害者家族として扱われてきたラヴィの将来に光が見えたのは唯一のほっとする点。

もともとYA作品というのもあって、そんなに悪い人は出ないのね、と思いきや『優等生は探偵に向かない』では一変し、ビバヒルだと思ってたらクリマイだったみたいな。いやそもそもビバヒルではなかったか…。

しかし、この狭い町で実際あった事件について実名でポッドキャスト配信とは危うさしか感じない。ピップの若さとひたむきさが魅力のシリーズではあるがひやひやする。さすがに『優等生は探偵に向かない』では親が止めようとしていたが、いうことを聞くピップではない。
さらに人間関係も複雑化。有名人となってしまったピップは思わぬ攻撃的な態度にもさらされるようになる。ご近所の秘密を暴きだす探偵が地域のヒーローなわけがないのだ。

と、ここまできて最終作ではどういう着地を見せるのか、とても楽しみ。ピップとラヴィのカップルがすごく好きなので、ここはうまくいってほしいけど、どうかな。あとカーラとナオミのワード姉妹つらすぎなので、幸せになって…。
などなど若い人たちの幸せをつい祈ってしまう、そんなシリーズです。



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