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共感と納得を生むネーミング法!実践編|共通の体験を想起させる

こんにちは。渋谷(しぶたに)です。
私はもともと事業会社でインハウスデザイナーをしており、現在はNEWhでサービスデザインのお仕事をさせて頂いています。

 このnoteでは、NEWhで活用したサービスデザインの思考法や手法を紹介しつつ、「実際にどう活用したのか?」「良かったポイント、また改善が必要なポイントは何か?」という”サービスデザインの現場の声”をリアルタイムでお伝えしていきたいと思っています。読んでくださった方が少しでもNEWhのサービスデザインの思考法や手法に興味を持って頂けたら良いな…というお気持ちで書いていきます!

前回の記事では、ネーミングにおける"共感"と"納得"の必要性についてお話しました。今回は実践編として、そのプロセスを紹介したいと思います。(前回の記事はこちら)


ネーミングは二度始まる

みなさん、映画「カメラを止めるな!」がヒットしたことを覚えていますか?そのキャッチコピーは「最後まで席を立つな。 この映画は二度はじまる」でした。(映画を見てから、そういうことだったのか!と”納得”する良いコピーですよね)今回、私がプロセスにおいて一番伝えたいのも「ネーミングは二度はじまる」ということ。共感だけでなく、納得を引き出すためには大きく二つのプロセスが必要です。今回はその前半の部分を中心に、ご紹介していきたいと思います。

STEP 1 : ネーミングのもととなる材料を発散

最初にやることは、コア・キーワードの抽出です。
サービスのコンセプトや機能、差別化のポイントとなるキーワードをピックアップし、メンバーで共通認識を持ちます。難しく考えず素直に抽出することが大事です。ここでは言葉の精度は問いません。どんどん出していきます。そして、メンバー間でその中でコアとなる(つまりこれがないと、このサービス・商品とは言えない)というものをピックアップしましょう。これがコア・キーワードになります。(もしメンバー間で認識が全く揃わない場合は、コンセプトを再度練り直す必要があるかもしれません)

次に行うのは、抽出したキーワードの"翻訳"、つまり言い換えです。
なぜ言い換えが必要なのでしょうか?それは、ネーミングは言葉であり、視覚言語ではない以上、伝えるためには「言葉の解像度をあげる」ことが必要だからです。では、解像度を上げるとはどういうことでしょうか?
POSTS代表の梶谷健人さんはこちらの記事で以下のようにおっしゃっています。”人生を深く楽しむためには「言葉の解像度」が重要だと言われています。体験を言語化することで、その記憶は自分の中で構造化され、より深く刻まれるのです。”

つまり、「言葉の解像度を上げる」というのは、「共通の体験を思い起こさせる言葉に落とし込む」ことを指します。

では、「共通の体験を思い起こす言葉に落とし込む」にはどうすれば良いのか。言い換えの切り口としては、「類義語」「多言語」「連想」「象徴/比喩」などがあります。ポイントは、言葉のタイプによってアプローチを変えることです。

例として、あの「ライザップ」のネーミングを考えてみましょう。

HPなどの情報から、恐らくライザップのコア・キーワードは「ジム」「鍛える」「痩せる」「結果にコミットする」「どん底から高く飛躍する」などではないかと推測できます。これらを起点に考えてみます。

アプローチ1)
モノや体験として想起しやすい一方、一般的で特徴のない言葉の場合

→「類義語」や「他言語」で言い換え
例えば、「ジム」は「gym」(英語)、「鍛える」は「exercise」、「痩せる」は「脂肪をなくす」→「fat-zapping」→「zap」(打ち負かす、壊す)などと言い換えられます。

アプローチ2)
モノや体験として想起しにくい一方、ユニークでインパクトある言葉の場合

→「連想」や「象徴/比喩」で言い換え
例えば、「結果にコミット」は「約束を絶対に守る」→「番人」→「Gate Keeper」や「Guardian」などと連想できます。「どん底から上がってくる」は「海から太陽が昇る」→「Sun Rise」、「飛躍する」は「上昇する」→「Up」「Jump」「Hop」などと比喩的に表現できます。

STEP 2 : ネーミングの「型」に当てはめる

キーワードを十分に発散できたら、次はネーミングの「型」に当てはめ、アイデアを発散しましょう。数学に数式があるように、デザインやクリエイティブワークにもある程度「型」が存在します。これは自分で生み出さなくとも、先人が生み出したネーミングの中に見つけることができます。

NEWhでは、ネーミングの構成として「組み合わせ」「合体(造語)」「一単語」の三つの型を使いました。出てきたキーワードを自由にこの三つの型に当てはめてネーミングを考えてみましょう。

「型」を用いてアイデアの量を担保

先ほどのライザップの例で考えると、
「一単語」では「Guardian」、「組み合わせ」では「Gym Keeper」などが考えられますね。実際のRIZAP(ライザップ)は、「RISE」と「UP」という言葉を掛け合わせた「合体(造語」の型で作られています。(公式のHPでも、"どん底の状態からでも、その人が望む限り、必ず高く飛躍できる"そんな想いを込めている”と書かれています)

ここで肝となるのは、なぜ「Rise Up」ではなく「RIZAP」と表記したのかということです。理由は二つあると考えられます。(あくまで私見です!)

理由1)表記と読みやすさ
「Rise Up」のままでは「ライザップ」と読む人と「ライズ・アップ」と読む人が出てしまいます。意図した読み方にするため、表記を変えた。また、語感として「ライザップ」の方が「勢い、勇み」のようなものを感じさせるので、ブランドのトーンにも合っていますね。

理由2)意味の独自性
キーワード発散の際に発見したのですが、「ZAP」には「脂肪や無駄なものを壊す」という意味があります。これにより「どん底から上がる」以外にもう一つ意味を持たせることができます。このように、一見直接の関係はないけれど、"体験やシーンを起こさせる"言葉をたくさん発散しておくと、アイデアを考える時に非常に有効です。ちなみにChoco ZAPはRIZAPの派生版の様に聞こえますが、そもそものZAPの意味を汲むと「ちょこっと脂肪燃焼しにいく」という意味になり、単体としてもコンセプトと相違ないネーミングであることがわかりますね。

STEP 3 : 共感のための条件で絞り込む

ここで一回目のアイデア絞り込みを行います。一人30案出せば、メンバーが5人いれば既に150アイデアになっているはずです。一回目の絞り込みの方針は、ネーミングとして「適切でないもの外す」ことです。これは共感と納得の”共感”のために絶対的に必要な条件となります。

必要条件は3つあります。

①想起しやすさ:サービスのコンセプトや機能が想起しやすいこと。
②記憶しやすさ:一度見ただけで憶えやすく、語感がよく発音しやすいこと。
③識別しやすさ:他サービスとの違いが明確で、ユニークな存在になっていること。

実際のプロジェクトでは、アイデアが300案ほど出たので、アイデアに込められたメッセージの方向性でカテゴライズし、整理をしました。
元々のコア・キーワードとの繋がりを意識しながら、それぞれのカテゴリの中から基準を満たさないアイデアを落としていきます。

アイデアを構造化しコア・キーワードとの関連性をチェック

前の章で、Rise UpをRIZAPにした理由について触れましたが、これは必要条件の②と③を担保しています。この視点で「ライザップ」を見てみると、ブランドとしてのコンセプトが分かりやすく、共通の体験を想起させる言葉を組み合わせた、とても良いネーミングだとわかります。ネーミングで伝えにくい部分は、キャッチコピー「結果にコミットする」をそのまま使っていました。(無理にネーミングに詰め込む必要はないということですね)

誰が参加すべきか?前回の振り返り

意思決定者もできればこのネーミング1回目から参加し、メンバーと一緒に膨大な量の言葉を体に浸すと良いでしょう。これが意思決定の際に"自分から出たんだ"という実感に近くなります。アイデアは多い方が良いため、メンバーを増やしたり、AIを使ってアイデアを大量に考えてもらうことも手段の一つです。ただし判断をする人間がアイデアの”量”を体に”浸す”ことが重要です。

アイデア発散の「量」とはどれくらい?

では、どの程度のアイデアの量を発散すれば良いのか。正解はありませんが、一つの指標として「3000のアイデアから1つの成功が生まれる」というものがあります。(Stevens & Burleyの研究結果)AIを活用すれば、3000のアイデアも夢ではないかもしれませんが、先述したように人間がアイデアを”体に浸す”ことを考えると、200〜300アイデアが数の目標になるかなと思います。(あくまで、筆者の体感です)

次回は後半編

ネーミングは一度ここで終了します。全員が"共感"するアイデアが出ていれば、とても良い結果です。ただし、ここではまだ"納得"できていないのではないでしょうか。この"納得"を作るのが第二回目のネーミングです。次回も読んでみたいなと思った方はぜひ「いいね」ボタンをお願いします!


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