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3つのステップ!プロセス・ジャーニーでつくる新事業を推進する仕組み

なぜ、新事業で仕組み作りが重要なのか?

前回は新事業を「誰と創るか」というステークホルダー視点の重要性についてお伝えしました。新事業開発において、エンドユーザーだけを見つめすぎると、サービスを支えるステークホルダーとの協力関係が構築できず、事業が頓挫してしまうケースが少なくありません。

この課題に対して、プロセス・ジャーニーという手法を活用することで、エンドユーザーへの価値提供と、それを実現するステークホルダーの業務フローを同時に設計できることをご紹介しました。特に構想段階からこの視点を取り入れることで、効率良く実現性の高いサービス開発が可能になるのではないかと思っています。前回の記事はこちらです。ぜひ合わせて読んでいただけると嬉しいです!

今回は、この課題を解決するための具体的なツール「プロセス・ジャーニーマップ」について、その活用方法を詳しく解説していきます。

プロセス・ジャーニーを使った3つのステップで理想の仕組みをつくろう

STEP1. カスタマージャーニーマップで顧客価値を「体験」として具体化する

最初のステップは、カスタマージャーニーマップ(CJM)の作成です。これは単なる顧客行動の記録ではなく、現在の顧客の行動から課題とニーズを抽出し、顧客が理想とするジャーニーを時系列で描くフレームワークです。チーム全体で「なぜこのサービスを作るのか」という大前提を共有するためのプロセスです。

例えば、Uberの場合を考えてみましょう。従来のタクシーサービスでは、「タクシーを見つける」「行き先を伝える」「支払いを行う」といった各ステップで様々なユーザーの課題やニーズが存在していました。Uberは、スマホを数回タップするだけで、これらの課題やニーズを解消し、シームレスな移動体験を実現することを目指しました。

Uberの顧客体験

カスタマージャーニーマップのステップでのゴールは3つあります:

  1. 現状の顧客体験を可視化し、どこに課題があるのかを特定すること

  2. 理想の顧客体験を可視化し、本当に顧客の課題解決になっているかを確認すること

  3. 理想の顧客体験において、顧客が求める必須の要件の仮説を立てること

これらのゴールを達成する方法として、顧客インタビューの他にエスノグラフィで顧客の行動を観察・分析することもおすすめです。顧客インタビューで得た情報を、実際の顧客行動の観察結果と照らし合わせてみることで、顧客課題に対する解像度が高まるだけでなく、顧客の置かれている環境やタッチポイントを把握することで、3の顧客要件を考えやすくなります。

3の顧客要件とは、顧客が体験の中で「なくてはならない」と感じるポイントです。先ほどのUberの例で言えば、顧客の置かれている環境が「タクシー乗り場の近くにいない時」に、「次の目的地に〜分以内に着く必要がある」状態だとします。そうすると、「どこからでもタクシーを呼べる」「配車の待ち時間がわかる」という地理的・時間的要件が自然と浮かび上がります。これらも、顧客インタビューやエスノグラフィの中で、どの部分が「なくてはならない」と感じているのか特定し、メンバーで共通認識をとることが重要になります。

顧客が求める要件

STEP2. 既存サービスの業務フローを可視化し、差別化ポイントとリスクを特定する

次のステップでは、既存サービスの仕組みを深く理解します。デスクリサーチや専門家へのインタビューを通じて、先ほど作成したCJMの下層に、実際の業務フローや仕組みを追加していきます。これにより、CJMはプロセス・ジャーニーマップ(PJM)へと発展します。

ここで大事なことは「A41ペーパーに収まる程度の情報量で描く」ということです。ここでは各ステークホルダーがどのような振る舞いをすることによってサービスが実現されているのか明らかにすることが目的ですので、あくまで抽象度を高く描きます。あくまで一例ですが、先ほどのタクシー配車の例であれば下図のような形で、まずは業務フローの大枠を理解するためにCJMに沿って業務フローを描きます。

ステークホルダーごとの業務の大筋を理解

このステップには3つの重要なゴールがあります:

  1. 顧客要件に沿っていないポイントを特定する

    • これは、自社サービスが差別化すべき箇所を示唆します

    • タクシーの例で言えば、従来のタクシーサービスでは「特定の場所ではタクシーが呼べない」や「待ち時間予測が難しい」など、先ほどCJMであげた顧客要件がポイントとなります

  2. 要件を満たせない理由を深掘りする

    • 実現する上でのリスクとなる箇所を明確にするため

    • システムの制約や法規制、商習慣上の要因など様々な観点からの分析を行います

  3. 顧客要件と既存アセットを比較する

    • 外部の既存アセットと自社アセットを比較検討します

    • どの機能を外部調達し、どの機能を内製化するかのプランを立てます

3.についてタクシーの例で考えてみます。例えば、自社には「顧客の位置情報を取得するアセット」があり、「タクシー運転手の位置情報を取得するアセット」がないとします。前者の自社アセットは、タクシー会社の一部の役割を果たせそうです。一方で、顧客要件である「場所を選ばずにどこからでも」タクシーを呼べるという機能は、自社アセットになく技術的なハードルも高そうなので、ここは外部調達しようという判断になります。

顧客要件と自社アセットを比較

STEP3. 理想的なサービスの仕組みを描き、最優先で検証すべきポイントを特定する

最後のステップでは、チームが「どのようにサービスを作るのか」という具体的な指標を作ります。既存サービスと自社アセットのリサーチを踏まえた上で、顧客体験を担保する仕組みの理想形を描いていきます。

このステップで特に重要なのは、プロセスの中で最初に検証すべきポイントを特定することです。これらの要素を早期に検証することで、開発リソースの効率的な配分が可能になります。具体的には:

  • 顧客のニーズが高く、かつ仕組み上のリスクも高い領域

  • 競合が実現できていない差別化ポイント

  • サービス実現において最も重要となる要素

タクシーの例では、顧客ニーズが高く仕組みのリスクが高い領域は「タクシーをどこからでも呼べる」という体験でした。ここは理想の業務フローを描く中で「外部パートナーと提携し顧客要件を担保しつつ、開発コストを抑えることで他社よりもサービス利用価格で差別化しよう」という戦略を練ることができます。当然ながら、次に検証すべきポイントは、技術面・価格面でこの仕組みに合うパートナーが見つかるかという点になります。

また、競合が差別化できていないポイントが「タクシー運転手が顧客のいる場所を正確に把握できない」だとします。自社アセットの強みが「顧客の位置情報の正確さ」であった場合、このポイントは他者よりも優位です。次に検証すべきポイントは、「顧客の位置情報の正確さ」はタクシー運転手にとってなくてはならない要件なのか、どのように位置情報が提供されることで有益な情報になるのかという点になるでしょう。

理想的な業務フローを描き、検証すべきポイントを特定する

プロセス・ジャーニーがもたらす2つの効果:顧客とステークホルダーへの共感醸成

プロセス・ジャーニーマッピングがもたらす最大の効果は、ステークホルダーを巻き込んだ包括的な共感の醸成です。このツールを活用することで:

  1. 顧客の課題やニーズへの共感を軸としながら

  2. ステークホルダーの業務フローにも深い理解を示し

  3. 両者のバランスが取れた持続可能なシステムを設計することが可能になります

さらに、すべてのステークホルダーが同じドキュメントでサービスの仕組みを議論できることで、自然と共創関係が醸成されていきます。これは、長期的なサービス運営において非常に重要な要素となります。

おわりに

デザイン思考において、「共感」は最も重要なステップの1つとして位置づけられています。しかし、これまでの多くの場合、その共感は主にエンドユーザーに向けられるものでした。

持続可能な仕組みを作っていく上で忘れてはならないのは、顧客と、顧客にサービスを提供するステークホルダーへの共感です。プロセス・ジャーニーマッピングは、この両方の共感を実現するためのツールになるのではないかと思います!

今年は何を作るか?ではなく、誰とどのように作るか?という問いに対して考えることが多く、サービスデザインの幅が広がった一年でした!次回も読んでみたいなと思った方はぜひ「いいね」ボタンをお願いします!

良いお年を!


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