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神田伯山PLUSの講談から学んだ、デザインの本質「ファクトと仮説」


講談との初めての出会い

こんにちは。NEWhの渋谷(しぶたに)です。
私は最近、「神田伯山PLUS」で講談を聴く機会がありました。
30代半ばの私にとって、講談は初めての体験でした。
正直、講談と落語の違いを知らないど素人でしたが、講談を聴いて非常に面白いと感じました。落語は何度か聴いたことがありましたが、講談の方がより引き込まれる面白さがあったのです。

講談の魅力に秘められた本質

この面白さの理由を考えてみると、意外にも私の仕事であるサービスデザインの話ともつながるような気がしてきました。なぜ面白いと感じたのか、その理由は講談の構造にあると思われます。

講談「長短槍試合」に見る面白さのワケ

例えば、私が聴いた「長短槍試合」という講談では、織田信長の配下である木下軍が「戦において一番有利なのは短い槍だ」と主張し、「いやいや長い槍に決まっている」と主張した上島軍と対決し、見事勝利した時の作戦が語られていました。

槍試合のイメージ
(これは歌川貞秀「松田山本長短槍試合之図 三枚続」本物 浮世絵 大判 錦絵 木版画https://aucview.aucfan.com/yahoo/q1127348551/)

木下軍の作戦は以下の4つ。

  1. 数日の練習期間にあまり練習をさせず、体力を温存させた

  2. 酒や美味しいものや甘いものを食べさせ、気力をつけさせた

  3. 事前の準備は「同じ赤の装束で、隊列を一才乱さず歩くこと」だけ

  4. 当日は「槍の先ではなく枝の部分で地面をぐちゃぐちゃにする」ことで、相手の足場を崩すこと

この話の中で、どこまでが史実でどこまでが創作なのか、私には分かりません。しかし、話の流れがスッと理解できて、さらに納得できました。なぜか。それは、複数の事実に基づき、それらが違和感のない一つのストーリーになっていたからストーリーになるためには、言葉の間に接続が必要です。その接続とは、理由や背景。例えば3の部分では、なぜそのような行動をしたのかが史実と仮説を組み合わせて、上手に説明されていました。同じ服装で大勢がびしっと歩いていると「なんだか強そう、なんだかちゃんと練習してそう」に見え、相手を萎縮させられる。これは恐らく仮説(創作)によるものだと思いますが、現代のサムライブルーなどと同じ心理で、私たちも現実から想像できる理由付けです。さらに、服の色が赤である理由は、織田家が平家と血の繋がりがあるからなのだと、史実からの説明もありました。

このように、講談にはファクト(史実)と、そこから考えられる因果関係や論理的な仮説(想像や創造)があり、それらがうまく融合されていました。
ファクトがあるから話に確証がある一方で、そこから考えられる仮説があるから話に確信を持てるのです。それらが良いバランスで語られているからこそ、講談は面白く感じられたのだと思います。

サービスデザインに生きる講談の教訓

サービスデザインの構想でも、この「ファクトと仮説のバランス」は非常に重要です。
ファクトがなければ、その構想には確証が持てません。講談も「本当に歴史にそんなことがあった」ということが史実を持って語られるから、リアリティがあり、惹きつけられるのです。
一方で、仮説がなければ、その構想には確信が湧きません。わかっている史実や事実だけでは、情報が足りずに話の辻褄が合わない、因果関係がわからないからです。
「こういう事実があったのであれば、こういうことが起こりうるのではないか?」「こう考えた人がいたから、こんな事実があったのでは?」という
問いや推論があるからこそ、事実同士に関係性が生まれ、信じることのできるストーリーになるのです。

余談ですが、講談よりもフィクションの要素が強くなっていったのが、落語や歌舞伎なのかもしれません。(間違っていたらごめんなさい…)エンターテインメントとしてはどちらも素晴らしいものですが、面白さの質は多少異なるのかもしれませんね。

講談に学ぶデザインの深奥

サービスデザインを行う上で、このファクトと仮説のバランスを上手く扱えることは非常に重要です。伝える相手によって、ファクトと仮説のバランスを使い分けられる人は優秀なデザイナーだと言えると思います。
講談師の方々も、見物客や場所によって史実と創作のバランスをたくみに使い分けていらっしゃるはずです。そのスキルは本当に尊敬に値します。

新しいサービスやデザインを考える際には、講談からヒントを得ることができるかもしれません。ファクトだけでなく、そこから考えられる仮説を大切にし、その両者を上手くバランスさせることが重要だと思います。サービスデザインに携わる方には、ぜひ講談を一度聴いてみることをおすすめします!きっと新しい気づきがあると思います。


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