世界的クラブベルリンのベルグハイン体験記(月日は百代の過客にして、行き交うベルグハインの客もまた旅人なり)
こんにちは、Yurikaの地球生活ピーポーです。
2019年から住んでいるベルリンにてアーティストフリーランスビザの更新が先週あり、無事3年のビザ更新を取得。
ビザ更新までの数ヶ月、焦りと不安と同時にたくさんの人に支えられていると実感。
一旦肩の荷が降りたので世界的有名なクラブ、ベルグハインに初めて行ってきた、そんな記録。
クラシックからアングラ系まで、音楽もアートもなんでもござれなドイツベルリン。
ここまで音楽文化が盛んな街だとも知らずにノリで訪れたベルリンも気がつけば滞在3年半、
今では実験音楽のミュージシャンやジャズのセッションでライブドローイングをしたり、
ノイズサウンドのイベントでハンマーを用いた叩き染めのパフォーマンスで参加したりと、ビジュアルアーティストでありながら音への興味や触れる機会が増え気軽に本格的なサウンドに触れることができるベルリンという街を実感している。
文化の幅がえぐい!
そんなベルリンで一度は挑戦したいクラブBerghainベルグハイン。
何やら、
伝統的な音楽文化施設として国に認められている、
世界的なテクノDJが回している、
金曜から日曜の3日間ぶっ続けで営業している、
入場に長蛇の列、
服装は黒が基本、
クラブの雰囲気に合っていない人は入り口の選別スタッフ(バウンサー)に拒否される、
団体だと入れないので多くても2人で試みる、
中ではほぼ裸にハーネス、一切撮影禁止、
という話をよく耳にする。
入場後昼に家に帰りシャワーを浴びて仮眠をし再入場しまた何時間もかけて踊るというのがテッパンらしい。
それを何歳だろうが年齢関係なくやってのけるのがベルリナー。
そうやって踊ることでみんな健康維持をしていると言っても過言ではない。
頻繁に行くにしては列も長く入場の選別も非常に厳しいので、
大体は入り口のバウンサーに友人がいたり中のスタッフに繋がりがありコネを駆使して行くというのもベルリナーの鉄板のようだ。
とは言え長く住んでいても一度も縁がない人の方が大半。
そんな自分もベルグハインに縁がなかったが
決戦の日というのは降って訪れる。
3月12日の日曜の朝、暗い冬の終わりを告げる青空だった。
日曜の朝は列も少なく1番入りやすい時間帯、
朝9時、寝坊した。
大急ぎで戦闘体制に入る、
人生で一番長いアイラインを引き普段しない口紅を塗り、
黒い龍が立ち上る透けている黒いロングドレスに着替え、
黒い下着が透けるが、流石に外が寒すぎるので下半身にはヒートテックをはいた、
黒の革ジャンを羽織り黒のドクターマーチンのブーツ。
スマホのケースに50€札とカードを挟んで手ぶらで挑む。
自分のアウトフィットの持ち札ではこれが限界だ、あとは振る舞いでカバーして入場するのだ、世界レベルの音が待っている。
気温4℃、
ワクワクで寒さは感じなかった。
おしゃれには我慢が付き物なんじゃない、
我慢さえも忘れるくらい最強の自分になるのがおしゃれなんだ。
青い空が広がっていて、今日が2023年の門出だと言えるくらい気持ちのいい空だった。
電車で4駅ほどでWarschauer Strasse 駅に着き歩いて向かう。
すれ違う黒い服の人たちはベルグハイン帰りだろうか、
視界に映る人間は全て
ベルグハインに行く人間か、行かない人間かの二つに分かれた。
公園を抜けると建物が見えてくる、
飾りっ気のないインダストリアルな建物は東ドイツ時代の発電所をクラブとして使用している。
一枚写真を撮る。
これが入場前の最後の写真だ、
近づくにつれ列に並ぶ人やドアのバウンサーが見えてくるのでここからは初めて訪れるミーハー感は消し去りテクノを心から愛す常連客として振る舞うのだ。
すでに10:30頃、朝というには遅い時間だったが列は20人ほどで驚くほどすいていた。
男2人組の後ろに並ぶ。
男2人はパンクバンドから飛び出してきたような出立ち。
しかしその前に並ぶ人間の服装をざっと見ると拍子抜けした、
ブルージーンズやチノパン、カジュアルな服装の人も多い、
うわっ…私の気合い、入れすぎ?
入口を観察していると、中から人が出たらなんとなく入場の列が進むらしい。
入口には3.4人のスタッフが無表情に入場を選別している。
入場出来なかった男が入口付近の道でたむろしていると、そこにいないでくれと追い払われた。
余韻に浸ることも余儀されないらしい。
列が一気に動いた、
どうやらカジュアルな格好の人たちが一気に流れたようだ、6人くらいのグループで来ていたらしく皆入場を断られ消えていった。
若者のグループは特に気にしない様子でこの周辺にある他のクラブに向かうようだった。
みな立ち寄っては中に入ったり、離れたりする、残念がる者もいれば、どうってことない者もいる。
月日は百代の過客にして、行き交うベルグハインの客もまた旅人なり
(月日は永遠の旅人であり、やってきては過ぎていくベルグハインの客も旅人である)
by 松尾芭蕉
というか旅人どころか先ほどから中に入れた人間を見ていない気がする…
バウンサーという名の閻魔様が下す選抜の先にあるのは天国か、はたまた地獄かなのか…
入ったものにしかわからない。
あと10人ほどだ、
どんな人が中から出てくるのか眺める。
噂通り黒尽くめの人が多いが豹柄のコートにピンクのモヒカン、天使の羽が生えているものもいる。
そこには明確な判断基準はなく、共通しているのはみな爽やかな笑顔をまとっていること。
音楽と踊りを愛し全身で享受したものの輝かしい笑顔だった。
そうか、服装は外見を飾る装飾でしかなく、一番大事なのは本当にこの箱の中で良質な音楽を全身で浴びたいのか、
お前は音楽を愛しているのか?
その心を解かれているのだ。
目の前の男二人組の番になった。
何人?と聞かれ二人、と答えている。
君はいいけど君はごめん、
と言われ二人とも入口を去った。
輝かしい友情が垣間見れた。
去る二人の男の背中を眺めていたらいざ自分の番になった。
ハローと挨拶をする、
Wie viel?
何人?と聞かれ
nur alleine.
一人だけ。と答える。
表情筋を一切使わないやりとり。
溢れ出るのは中に入って踊りたいという強い意志のみ。
一瞬全身に目を配られ、真ん中のスタッフが首を中にクイッと振った。
嬉しさを殺して小さくダンケシェーンと言いながら中に入る。
中はひたすら暗く、薄暗く赤いライトが剥き出しのコンクリートを照らしている。
入ってすぐ左にボディーチェックと入場料を払うブースがあり、撮影禁止のためスマホのカメラ部分に丸いシールを貼られる。
剥がしてしまえば撮影は簡単にできるが、客とクラブの信頼とリスペクトの関係性があるからこそ成り立つ。
入場料:25€
話で聞いている値段よりも随分値上がりしたようだ。
ロックダウンからの営業再開後軒並み入場料を上げている様子。
支払いをし腕にバンドを巻かれる、これで一度出ても再入場可能だ。
奥に進むとみな服を脱いでいた、戦闘態勢からの本気モード突入というわけだ。
みなインナーやズボンを脱いでほぼ水着のような格好になる。
体のラインや肌が剥き出しになればなるほど、シンプルな見た目になればなるほど、人間の本気度が垣間見える世界。
シンプルなものほど強い。
自分もヒートテックのスパッツを脱いで革ジャンのポケットに丸めて突っ込んだ、上着はクロークに預ける。
荷物:2.5€
中で友人がすでに踊っている、朝起きた時点でメッセージが来ていた。
合流できるか不明だがまずは隈なく建物内を探検しつつ友達を探すことにしよう。
音楽が二階の方から大音量で響いている、
一階部分は広々とした空間でバーカウンターで飲み物が買えるようだ。
暗い中で赤く照らされている人々、顔を寄せて喋っている。
メインフロアの2階に上がる階段を登る、
元発電所の階段は踏むたびにカンカンと無機質な鉄の感触が伝わる。
2階に上がるとだだ広い空間が広がり四つ打ちの鼓動に全身が攫われる、ビリビリ響く、スモークの間を青いライトが細く照らし踊る人々が深海の魚のように見えた。
爆音、という言葉で片付けるにはあまりに美しい爆音だった、
音の振動は吹き抜けの高い天井や薄汚れたコンクリートの壁と一体となって揺れる、閉じられた窓の端から昼の光が少しだけ抜ける。
昔はここに発電機があったんであろう特徴的な凹凸が天井に見えた。
人だかりの外側を縫うように歩く、すれ違う人とはほぼ肌と肌の触れ合いになる、前を歩く男の剥き出しの尻の後に続く、男の右手に持つ巻きタバコの光が蛍のように揺れていた、すれ違う人はみな笑顔だった。
広い会場から入り組んだ作りの場所に入る、バーとトイレ、奥には座れるスペース、ざっと人を眺めたが振り返る人はみな知らない顔だった。
もう一つ上の階へ進む。
ベルグハインには二つダンスフロアがある、2階にあるのはメインの広い空間、3階にあるのはパノラマバーというこじんまりとした空間、こちらは曲もカジュアルで初心者でも踊りやすい。
2階でハードに踊り疲れたら3階でカジュアルに踊る、
甘いとしょっぱいの永遠ループのように何十時間も過ごすわけだ。
人の間を縫って奥まで行ってみるが友達はいなかった。
DJブースの前で10分くらい踊った。
別の部屋に続く通りを抜けると細い路地にもバーがる、ここは外の光が入るようになっていて赤やオレンジのいろんな色のプラスチック板を光が抜ける作りになっていた。
空間のシンプルな演出が美しくかっこいい。
まだ上に進める、コンクリート続きの階段を登るとそこもまた休憩所、今度は暗く青い照明の中みなソファや椅子でくつろいでいる。
そのまた上の最上階にはこじんまりとした空間にアイスクリーム屋があった。
水着のような格好でアイスクリームを頬張っている人々の姿は、真夏に市民プールに来た小学生のようだった。
こんなところでもドイツ人のアイスクリーム好きが発揮されている。
朝起きてから何も口にしていない、自分もアイスを食べようか…
いや、まずは踊ろう、その後に食べたかったらまた来よう、
最上階から階段を下る。
建物内は隅から隅まで剥き出しのインダストリアルで人の手は最小限に加えられているようだった、
東ドイツ時代の発電所の雰囲気を色濃く残している。
ベルリンがテクノの聖地と呼ばれるゆえんは、壁崩壊後にこういったソ連の統治下だった居抜きの建物を使って若者がパーティーをし始めたことから始まる。
当時デトロイトから入ってきた新しい音楽、テクノミュージックは東西の若者にとっても新しい文化であり、壁崩壊後の若者の心の繋がり、一つの文化を作る架け橋になったという。
音楽だけでなく廃墟をアーティストが占拠しアートの発信の地にしたり、当時のベルリンを渦巻くエネルギーがベルリン特有の文化の礎を形成してきた。
それでも壁崩壊から30年余り、長く住む人々の話を聞くとそういったコミュニティや建物は政府の手によって無くされ新しい建物が建つという、
特にここ数年で大きく変わってしまった。
そういった声をよく聞く、3年半住む私自身も「なんかここ綺麗になっちゃったな」
そういうもの悲しさを感じることもある。
地震がなく乾燥したこの土地では百年以上建物が残るのは当たり前で、そんな中で建物が壊され新しいものが建てられるという流れが現すものは日本の感覚では測り得ない。
時代は変わるものだし移ろうもの、
それでも過去にあったことは消えない、
団結してコミュニティを守る姿勢を崩さない場所も多いし、
エネルギーを持ったアーティストを熱く迎え入れる土壌がたくさんあるのも事実。
その恩絵を私もたくさん受けている。
資本主義の元、生産性と意味のあるものばかり追い求めていたら幸福や熱狂は訪れない。
ある種の意味の無いもの、そんなものに溢れているベルリンが私は好きだ。
だからバカみたいに踊ろう。
トイレの列に並んでいるところで偶然友達と合流できた。
2階のトイレは男女共用だが1階はあまり並ばずに入れるというので1階に戻る。
友人が水分補給のため持っているペットボトルにトイレの水道水を汲んでみんなで飲んだ。
ドイツの水道水は冷たくて美味しい。
友達がトイレから出てくるのを待っているとふらふらの男が連れに抱えられて隣に座った、何かを摂取しすぎたんだろう、不安そうだった、水を飲まされていた。
ブーメランパンツの男が話しかけてきた、他愛のない話をするがめんどくさくなって返事をしなくなるとどこかに消えた。
人数分のテキーラを買って飲んだ、
テキーラ: 1杯3€
ビール:1本4€
驚くほど高いわけでは無いが別段安くもなかった。
中で働いている友人も仕事が終わり合流する、友人達と登るフロアへ続く階段は一人で登った時よりも足が弾んだ。
3階の階段の踊り場から真下を見下ろすと2階の全体が見下ろせる、
「見てみ、人の波だよ」
会場は熱気を増していて人の密がより上がっていた。
そのまま階段の踊り場の鉄組の上で踊った、
波のようにうねる人々はよく見るとみなそれぞれ好き勝手に踊っている、細胞の集まりみたいだ。
音に合わせてさす照明の光がよく見てとれた、
ほのかに登る煙の中を揺れるように深海のようなブルーが漂い、次第に空のようなシアンブルーに変わる、
かと思えば光線のようなレッドがあちこちを暴れるようにさし、
その合間を滝のようにグリーンが垂直に流れる、
青と赤が重なったシアンが細かく降り注ぎ、またブルーで染まる。
全て音と重なり光の芸術でもあった、
フロアに降りて人の波の一部になり踊った。
音が大きく会話は届かない、ここでは踊りが言語だった、言語を通して友人と、知らない人と繋がる、
上手い下手は関係ない、それぞれの体でただ今を楽しむだけ。
ただ踊ろう。
閻魔大王の先に待ち構えていたこの空間は天国でも地獄でもない、混沌の今世であり、たまたま居合わせた旅人が今生の一瞬を交差させる場所。
足を弾ませ首を振り無我夢中で踊っている時に初めて、文化や歴史の一部になれるのかもしれない。
世界的に有名なベルリンのクラブ、ベルグハインから教わったのは
今という瞬間を体を通して心の赴くままに従い精一杯生きる、
そんな先人達の教えだったように感じる。
参考