Sunday’s Book 36「嘘をついて、愛は見えなくなっていく」
★Sunday’s Book★
明日が憂鬱な日曜日に、読んだらほんの少しココロが前向きになれるような
「心の体温が上がる」本をテーマにご紹介します。
<36冊目>
タイトル「ファーストラヴ」
作者:島本理生
アナウンサー試験を受けていた女子大生が
父親殺害の容疑で逮捕。
未来も希望も見えていたように見える彼女に
何があったのかを、臨床心理士の由紀が解き明かしていく。
久しぶりに
物語に囚われて抜け出せなくなる感覚を味わった。
あ、戻れなくなる。
少し恐怖にも似た感情を抱きながら、ページをめくった。
麻酔銃を撃たれたことにも気づかず
深い眠りにつく虎のような気分だった。
「私が悪い」と繰り返す少女と
検察側に回り娘をかばおうとしない母親、
そして亡くなった、芸術家の父親。
この家族に漂う重く深い嘘と
由紀の愛を語る言葉たちに、深く沈んでいく。
「あなたは出会ったばかりの男性のことを、真面目とかすごく優しいって断言するところがあるけど、人間はもっと多面的で流動的な生き物だと思わない?真面目に仕事や人と向き合っているように見えて、実際はお金にだらしなかったり、都合が悪くなると逃げてしまう人はたくさんいるでしょう。それを心の底では分かっているのに、こうであってほしい、という過剰な期待を持ってしまうのはどうしてだと思う?」
孤独と性欲と愛の区別は難しい。若ければなおさら。
「愛情がなにか分かる?私は、尊重と尊敬と信頼だと思ってる」
愛情というものは人間にとってすごく大きいものなのに
目に見えない上、偽物も多い。
見分けがつかないうちに、信じたくて、手を伸ばして、傷つく。
この作品に「ファーストラヴ」というタイトルがついたこと。
宇多田ヒカルの「初恋」という曲を思い出した。
尊重と、尊敬と、信頼を持って“初恋”ができたのは
一体いつの恋なのだろうか。
自分の周りに本当の“愛情”は一体いくつあるのだろうか。
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