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赤い三角形のシンボル: ドイツが禁止を議論

Deutsche Welle (DW) 2024年8月4日の記事の翻訳です。記者:Julie Gregson

かつてはナチス収容所の政治犯が着用していたこのシンボルは、最近ではハマスだけでなく親パレスチナ活動とも関連付けられている。ドイツが禁止を検討するのが正当かどうかについては、意見が分かれている。

ナチズムとの戦いのシンボルが「ハマスの文脈で」使用された場合、禁止される可能性がある画像: Martin Schutt/dpa/picture Alliance

標的、抵抗の印、名誉のバッジ、ナチス時代のシンボル......逆さまになった赤い三角形は、多くの人々にとって様々な意味を持つ。

逆三角形は、イスラエルのガザ侵攻直後、ハマスの軍事組織であるアル・カッサム旅団が、戦車などイスラエルの潜在的な軍事目標を示すために公開したビデオに登場した。

欧州連合(EU)だけでなく、米国、ドイツ、その他いくつかの国も、ハマスをテロ組織として分類している。ハマスが2023年10月にイスラエルを攻撃した後、ドイツ内相はドイツ国内での同団体の全ての活動を非合法化した。

ベルリンでは、10月7日のテロ事件後、反ユダヤ主義に反対したりイスラエルとの連帯を表明したりするイベントが開かれていたテクノクラブやバーなど、いくつかの会場に三角形のスプレーがかけられている。市警察は、このシンボルがどのくらいの頻度でこの様に使用されているかについては明らかにできていない。

パレスチナ国旗は、オスマン帝国に対するアラブの反乱で特徴づけられたデザインに由来している画像: Jaafar Ashitiyeh/AFP via Getty Images

しかし、1916年の汎民族主義的なデザインに由来するパレスチナ国旗にも、赤い三角形(逆さではないが)が描かれている。デモ参加者が旗を肩にかけたり、窓から垂直に吊るしたりすると、下向きに見える。

この三角形は、ドイツの首都を含め、世界中の親パレスチナのキャンパス・デモの様々な場面で見られてきた。更に、このシンボルはソーシャルメディアの投稿や反戦デモにも登場している。

ドイツで禁止を求める声

7月上旬、ベルリンの州議会は、ドイツ政府によるハマス禁止令を拡大し、赤い三角形を明確に含めることを求める緊急動議を可決した。反憲法組織やテロ組織のシンボルを使用すると、最高3年の懲役刑が科される。

ベルリンの与党である中道右派のキリスト教民主党(CDU)と中道左派の社会民主党(SPD)が提出した動議は、「パレスチナのテロ組織の同調者」が「攻撃の可能性のある場所を示し、反対派を脅し、公共の場を自分達のものだと主張する」ためにこの(逆三角)サインを使っていると述べた。

この(逆三角)サインは公共の安全と秩序を脅かし、特にユダヤ人コミュニティーの恐怖を煽っている: 「その目的は、このサインが公衆の目に触れるのを防ぎ、中東紛争とハマスの文脈で赤い逆三角形を使用することが法律で罰せられることを確実にすることである。」ドイツ内務省は現在、この問題を国家レベルで検討している。

政治犯であったことを示すシンボルを身に着けたナチスのアウシュヴィッツ強制収容所の生存者 画像: Herbert Knosowski/AP/picture Alliance

赤い三角形: 迫害と誇りの歴史的シンボル

ドイツでは、赤い三角形は、後に犠牲者によって取り戻されたナチス時代のシンボルとしてよく知られている。ここ数カ月、繰り返し「ハマスのシンボル」と呼ばれているが、それはハマスのずっと前から存在していた。

ナチス政権からの迫害者、レジスタンス、反ファシストの全国連盟であるVVN-BDAは、政治家達を「歴史的記憶の喪失」だと非難している。同団体はまた、反ユダヤ主義やイスラエルへの敵意との闘いにおいて、ベルリンの市議達がおざなりな政治を行っていると攻撃している。同時に、VVN-BDAはシンボルの 「誤用 」に恐怖を表明した。

1930年代半ばから、ナチスの強制収容所では、政治犯に三角形の布バッジの着用が強制された。これは人間性を奪う広範な分類システムの一部だった。「当初、政治的受刑者の大多数はドイツの社会民主党員か共産主義者であり、三角形の赤は彼らの党の色を表していた」とブーヘンヴァルト・ミッテルバウ・ドーラ記念財団の理事長、イェンス・クリスチャン・ワーグナーはDWに語った。

その後、彼が説明したように、そのほとんどは、国家社会主義やナチス・ドイツによる自国の占領に反対していた、政治的領域を超えた非ドイツ人だった。

共産主義下の東ドイツでは、政治犯のシンボルはナチスの犯罪を記憶するために使われ、何百万人ものユダヤ人の死を覆い隠していた。写真:Jens Wolf/dpa/picture alliance

1945年の第二次世界大戦終結後、迫害されていた生存者やその親族、支援者達は、主にドイツで、そしてヨーロッパ全土で、ファシズムとの闘いの名誉の印としてこのシンボルを受け入れた。同様に、同性愛者の権利運動もその後、再びナチスのピンク色の三角形のシンボルを取り戻した。

イェンス=クリスチャン・ワグナーは、最近の三角形の使用を「歴史修正主義的」と非難した。「国家社会主義に対する抵抗のシンボルとしての赤い三角形の信用を失墜させる。その意味が変更され、反ユダヤ主義の観点から敵を示すために使用されるのであれば、それは止めなければならない。」

シンボルの両義性

しかし、パレスチナ支持のデモ参加者が、ガザに対する戦争に反対する抗議行動で赤い三角形を掲げたり、反戦を訴えるソーシャルメディアへの投稿に赤い三角形を添えたりするのは、何を意味しているのだろうか?

マックス・プランク比較国際私法研究所所長のラルフ・マイケルズは、「シンボルは本質的に両義的なものであり、規制するのは難しい」とDWに語った。「パレスチナ人がシンボルマークを使ったらテロ支持を意味し、それ以外の人が使ったら別の意味を持つ、と単純に決めつけることはできない。」

昨年末、ドイツ内務省は「川から海へ」というスローガンをハマスのシンボルとし、この文脈での使用を禁止した。このスローガンはハマスよりずっと以前からあるもので、反ユダヤ主義的でユダヤ人の大量殺戮を呼びかけるものとしか解釈できないと主張する者もいれば、ヨルダン川と地中海の間に住む全ての人々の自由と平等な権利を呼びかけるものだと説明する者もいる。

その後、親パレスチナの抗議者達は、このスローガンをネット上や抗議活動で使用したとして裁判にかけられたが、最近の判決では、禁止令の正当性が疑問視されている。2024年6月の地方裁判所の判決では、「このスローガンの発言は決して一般的に罰せられるものではない 」と述べられている。

アムネスティ・インターナショナル・ドイツのパウラ・ツィンマーマンはDWに対し、「宣言やシンボルの犯罪性の可能性は、常に個別にチェックされ、表現の自由に細心の注意を払わなければならない。」と述べた。

10月7日の攻撃と、それに続くイスラエルのガザ侵攻以来、ベルリンでは中東全域で起こった出来事に呼応して、他にも物議を醸す判決が下されてきた。これには、ベルリンの学校でのケフィエ(黒と白の市松模様のパレスチナスカーフ)の着用禁止や、首都で3日間にわたって開催された「パレスチナ会議」の閉鎖、その講演者2人の入国禁止(そのうち1人はその後、裁判所で覆された)などが含まれる。

「親パレスチナでガザ戦争に反対することと、反ユダヤ主義や親ハマスであることとが混同されている」とラルフ・マイケルズは述べ、パレスチナ人との連帯を表明したユダヤ人にもこれが当てはまったと指摘した。

ベルリンのフンボルト大学(HU)では、三角形が市長や学長の名前、露骨な脅迫と併せて使用された。マイケルズは、このような状況で禁止するのに起訴する必要があるのか疑問を投げかけた。

「ドイツで市民や国民(を対象)に赤い三角形でマークをつければ、攻撃性との関連が非常に強くなる。そのような文脈では、このシンボルの使用は非常に問題だと思う。しかし、特に禁止する必要があるかどうかはわからない。禁止しなくても、重大な犯罪を扇動しているとみなされる場合もあるのだから」と法律の専門家は付け加えた。

編集:Rina Goldenberg and Kyra Levine


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