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ワンダーウーマン その二

  ワンダーウーマンその二 二○二四年一二月二日

 豊三は震える指で四〇二と押し、呼びボタンに手を掛けた。
 ——あ、あ、何をしているんだオレは。

 しばし佇むと誰かこのマンションの人が後ろからやって来て、部屋の鍵で玄関ドアを開けるのに釣られ豊三も入ってしまった。心臓はどくどく暴れ、こめかみまで拍動している。額から冷や汗が流れ落ち震えが止まらない。それからはどうしたのか分からないのだ。ただ小さく開いたドアに頑丈な靴の先を入れ、押し込むように中へ入ってしまったと思う。そんなことを決してしてはいけないのに。

 眼前には、怯え、口に手を当て、目を見開くワンダーウーマンが立っていた。

「あなたは誰。何をしようというの」ワンダーウーマンから絞り出す声が漏れた。

「好きだ、好きだ、あなたが好きだ」豊三は、真理恵にとって何の意味も無い言葉を繰り返すしかなかった。

「出て行きなさい。警察を呼ぶわよ、しっしっ」ワンダーウーマンはミドルキックを、豊三の左腰あたりに過たずヒットさせながら、威嚇する。気丈な真理恵は実力で追いだそうとするのだが、そんなことをするべきではない、ただベランダに走り大声で助けを求めるべきだった、豊三には真理恵を傷つける気持ちなどこれっぽっちもないのだから、大声で正気付かせれば退散したはずなのに。

 そう、世界とは宇宙でも地球でもなく、頭の中で回っている。そして運命とは彗星が飛び込んでくるようなものだろう。

 豊三にとっての世界とは、目の前の真理恵を包みそしてほのかに拡散する、女のミルキーな体臭、それがすべてなのだ。

 いっぽう朝から食い込むように捩≪ねじ≫れるように、陰唇と陰核を捕らえて離さない罪深い布切れたちを、山中の苔清水が草草を|潤うるおすように、しとどに濡れる愛の源泉を、真理恵は否も応もなくはっきり自覚せざるを得ない、そんなモメンタムだったのだ。

 ——落ち着け、どうすればいい?逃げるか
 と、その時ワンダーウーマンの鋭いハイキック一発が、豊三の左こめかみに炸裂し火花のような閃光が走ったのだが、そのキックの初動から炸裂まで豊三は目の端で捉えていた。手元で伸びる速球のごときブーツの足は見事であった。それに愛する真理恵が放つ魂のキックを避けようなど少しも思わなかった。その上、大開脚の芯に性器が浮き彫りになるばかりか、はっきりした染み出しを認めたのだった。ハイキックの打撃はきつかった、後頭骨にじーんという音が響き、視界は定かならず、よろよろ前に出てワンダーウーマンに抱きつき、立っていられないので身体を預けてしまった。重い重量を支えることなど出来ようはずもなく、真理恵は仰け反り、後ろへ反り返っていく。ブリッジのような形で少しなら耐えたのだが、とうとう股の間に豊三をくわえ込んだまま潰れてしまった。

「な、何をする。放せ放しなさい。自分で何をしてるのかわかってるの?」

 豊三はしがみつきながらも、それなりに立ちあがろうともがく。だが悪いことに真理恵の股を占拠しているものだから、立とうとすれば当然膝立ちになる必要がある。その膝が真理恵のストライクゾーンに勢いよく入ってしまった。女は白目を剥いて悶絶する、朝から刺激しながらも無情に放置した陰核、陰唇、膣や子宮が連携して暴発したのだった。肉体は自律的|痙攣≪けいれん≫を起こし弓形になり、|延髄≪えんずい≫は下からの強力な突き上げに耐えきれず、とうとう脳は真っ白になった後、黒くなりシャットダウンした。
「大丈夫ですか、大丈夫ですか」
 気付けをしようと揺するのだが失神している。ワンダーウーマンが大股を開いて豊三に組み敷かれている構図なのだ。それを見た豊三の体内にもマグマが噴き上がる。女を横抱きにしてコルセットの後ろ紐を緩め、完全武装解除に入る、仰向けに戻し両腕を拡がった艶髪の上に押さえる。露わな腋に吸い付くと、思っていた通り乳臭い体臭が立ち上るのだ。
 ——おおー狂う、狂うぞ、回る、回るぞ、死ぬか、死んでもいいぞ。

 散々|腋≪わき≫を|舐≪ねぶ≫りまわした豊三は、小ぶりの胸を手で揉み丹念に吸った。コルセットとショーツ一体のコスチュームを臍から股まで一気にずり下げ、トルソの全てを暴露した。このように美しい動物が存在するなど<野生の王国>というテレビ番組でしか見たことがない。オレと同じ人間なのか? 豊三は心底感動する。そしてブーツを脱がす時、蒸れた足裏を顔に押し当てると高貴な匂いに陶然となる。

 高貴な匂い? そう、汗の蒸気に一筋酸っぱい香りが混合して可愛くて仕方ない。そのような高貴で風趣なことだ。

 いよいよ最後に残ったのは日焼け色に形の良い脚が際立つストッキングばかりで、中心に大きな|泥濘≪ぬかるみ≫を作り|凄艶≪せいえん≫だ。このベールのような靴下を豊三は一息で真理恵の腰まで下ろし、尻を越えれば膝まで下ろし、ふくらはぎを越えればすべてを剥ぎ取ってしまった。それは儀式的ですらあった。ワンダーウーマンにとどめを刺してやるのが、せめてもの情けのように思えたのだ。

 ワンダーウーマン無惨なり南無、と手を合わせた豊三は、とうとう女陰を貪り喰らった。そこはすでに洪水で、むせ返るほど濃厚な雰囲気に包まれている。液体は何故か冷たいのだが、クリトリスからラビア、ラビアからワギナへ舌を進めると火傷しそうなほど熱いのである。さらに丹念に舌圧を加え続けると再び中から熱くさらっとした分泌液が噴出した。ここらは間欠泉を思い描けば、まさにその通りである。ここに至ってようやく真理恵がこの世に帰還したようなのだが
「いや、いや、やめて。やめてください」と小さな声で抵抗するばかりで、肉体はすべてを受け入れている。

「好きだ好きだ」しか言えない豊三は這い上がる。そして大開脚されるワンダーウーマンの股に自分を合わせ一気に犯してしまった。
「あ、あ、あー許して、どうかもう許して」と懇願するワンダーウーマンを前に、許す男は居ないだろう。

「何故、何故なの? あーううう」
 真理恵ははらはらと落涙する。
 抱こんだ芍薬しゃくやくのごときアフロディーテの顔を自分に向け、玉の歯こぼれる唇を奪う。
 真理恵からは、ただ
「う、うう」くぐもった吐息が漏れるばかりなのだが、秘所には熱い潮が満ち、岸辺には寄せ波が押し寄せるのである。それこそが、この時二人が居た世界であった。

       その三に続く 

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