見出し画像

胸を張っていい夜

「昔ね、スタジオに入って、知らない曲でセッションが始まって、僕はとても恥ずかしい思いをしたんです。それを今日は克服できますね。」

金曜日の夜、赤いネオンが光る渋谷のお洒落なジャズバーで、ベーシストのお兄さんは笑いながらそういって曲が始まる。

一つ前に書いた日記「さよならポップコーン」の熱が中々冷めないので、ジャズの生演奏が聴けるバーを知り合いに教えてもらい、勇気を出してよく知りもしないライブの予約をして、入り辛い重たいドアを開け、席についてお酒を頼んだ、“にわか”の頂点に君臨する私に向けられたような言葉にちょっと恥ずかしくなった。

でも、こんなに無知な私でもやっぱり生演奏は最高に熱くて、思わず口から「ほわああ」と阿呆のような溜息が出てしまうほどかっこよかった。サックスの音は拳が凄くて楽器から吹き出したお兄さんの唾まで尊かったし、ピアノは真面目だけど右手と左手が仲良く遊んでいるように見えたし、ベースのボンボンした音はクッションみたいで音は小さいのに誰よりも汗だくのお兄さんの色気が凄かった。ドラムのお爺ちゃんに関してはもう老舗の中華料理屋で鉄鍋を振るう厨房の人にしか見えなかった。(帰って炒飯を食べた程だ。)

お客さんは殆ど音楽をよく知っているように見える。何組か私と同じ香りのする人も。休憩時間にベースのお兄さんが私のところに来て次のライブのチラシをくれた。こっちに向かってきてる時点で格好良かったことを伝えようと心に決めたけど、いざ目の前にしたらそれすらも恐れ多くて「ありがとうございます」しかいえなかった。

よく知らないことが恥ずかしい世界なのかもしれないけど、この湧き出る感動は何も気にせず胸を張ってしまえ。

また行こう。

お会計を済ませて、火照った脳みそを揺らせながら帰路についた夜でした。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集